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- 地方創生2.0とサステナビリティ~地方創生SDGs推進に向けて重要度が高まる「データ利活用」
2025年01月24日
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■要旨
本稿では、2024年8月にニッセイ基礎研究所で実施したサステナビリティに関するキーワードの認知度・理解度調査の地方別分析結果をもとに、SDGs(持続可能な開発目標)と地方創生の現在地と課題について整理・考察する。
もともと、地方創生とSDGsは政策面で密接に関連しており、地方創生2.0の前身である「ひと・まち・しごと創生総合戦略」(地方創生戦略)の2016年度改訂版で、「持続可能な開発目標(SDGs)」が初めて言及されている。その後、2016年にSDGs推進の中長期的な国家戦略として「SDGs実施のための我が国の指針」が決定されて現在に至っており、石破政権の掲げる地方創生2.0は、SDGsをめぐる政策的な動きの新たな出発点である。
そもそも、地方自治体のSDGs達成に向けた取り組みは、人口減少や地域経済の縮小といった直面する課題の解決に包括的なアプローチを促すものであり、内閣府の調査(2023年)では自治体の8割弱(1129自治体)がSDGsを推進していると回答している。2018年時点で、この数値は1割に満たなかったことを考えると、SDGs政策は徐々に社会に浸透してきていると言える。特に、ニッセイ基礎研究所の解析によれば、SDGsの推進に関連して、地方自治体による「総合計画・戦略への反映」が大きな影響力を持つことが明らかになっている。
これを消費者・住民の視点から見ると、ニッセイ基礎研究所の調査(2024年8月)では、北海道と四国地方でサステナビリティに関連するキーワードの認知度・理解度が全般的に高く、消費経済の側面からは四国地方の中でも、特に徳島県で「エシカル消費」の認知が際立った。徳島県は「未来に引き継げるサステナブルな徳島」を総合計画のフレーズとして掲げ、県を挙げて地方創生SDGsを積極的に推進する施政方針が取られており、幅広くステークホルダーや市民参加を募ることで「コレクティブ・インパクト」を創出しながら、地域のダイナミズムに繋げている好事例と言える。
しかしその一方で、地方創生2.0の「基本的な考え方」では、過去の地方創生の取り組みについて「好事例を『普遍化』して、人口減少や東京一極集中の流れを変えるには至らなかった」と総括されている。先の内閣府の調査では、SDGsの推進状況について町部は約65%、村部は約50%に留まり市区部と比べて低迷しており、地方創生SDGsの現状は手放しで順調であるとは言い難い。特に、ニッセイ基礎研究所の解析によれば、転出者比率や65歳以上人口比率が高い自治体は軒並み苦戦している現状が浮かび上がる。
課題となる「好事例の普遍化」に向けて、RESAS(Regional Economy Society Analyzing System)などデータの活用が課題とされている。自治体の現状をデータで客観的に捉えて、住民や消費者から推進計画に広い支持を得ることや、活動をモニタリングして成果を客観的なデータで示すことは、好事例の普遍化に向けた一里塚である。しかし、SDGs政策の推進においては、一部の先進的な地方自治体でデータ利活用の好事例が出てきているものの、全体的にはまだまだ十分とは言えない。また、地域住民・消費者、民間事業者等の日常的なSDGs活動と、地方自治体の推進計画のKPI指標には「距離」があり、地域のサステナビリティへの直接的な貢献実感を伴わないとの指摘も見られる。
これらの現状を踏まえ、サステナブル・マーケティングの視点から、民間企業や自治体がサステナブル経営計画のKPI達成を目指す「マネジメントシステム(Balanced Scorecard for Triple Bottom Line Strategies(SBSC)」の先行研究等を踏まえ、自治体がデータを用いてステークホルダーの活動を後押しし、さらに消費者や住民の「エンゲージメント」のような活動水準にも着目しながら、より細やかに、ダイナミックに地方創生SDGsを捉えていく取り組みを提言したい。
■目次
1――はじめに
1|地方創生2.0の具体化に向けた動き
2|「ひと・まち・しごと創生総合戦略」「デジタル田園都市国家構想」とSDGs政策との
関わり
3|SDGsを原動力とした「地方創生2.0」への期待
~「横の連携」「パートナーシップ」「データの利活用」
2――地方自治体のSDGsの取り組み状況(1)
1|SDGsを推進している自治体は78.4%~2018年の8.1%から着実に増加
2|地方自治体によるSDGs推進~総合計画・戦略への反映が影響力
3|町村部で求められる地方創生SDGs~近隣自治体や中核都市との連携
3――地方自治体のSDGsの取り組み状況(2)
1|「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」の現状
~2024年度まで37都道府県206都市が選定
2|選定計画にみられる特徴
~「地域資源」「独自のポジショニング」「自律的好循環の達成」
4――調査結果~地方で大きく異なる生活者・消費者のSDGs浸透状況
1|地方別のサステナビリティ・キーワード認知度・理解度
2|社会問題・人権・多様性分野が高い「関東地方」、環境・エコロジー分野で高い「北海道」
3|サステナビリティ・キーワード全般の認知度・理解が高い「四国地方」
4|地方で異なる認知度・理解度の要因
~地域経済・風土・生活価値観などが複合的に影響か
5――エシカル消費をめぐる徳島県の取り組み
1|全国的にも高い徳島県の「エシカル消費」認知率
2|「未来に引き継げるサステナブルな徳島」~県を挙げた地方創生SDGsの推進
3|徳島県のエシカル消費や消費者問題の取り組み~関係者のパートナーシップを支援
6――地方創生2.0~2030年に向けたローカルSDGsの課題
1|循環経済ビジョン2020から5年~「つかう責任」消費者の役割が重要に
2|地方創生2.0 SDGsをめぐる今後の課題
~好事例の「普遍化」と既存計画のフォローアップ
3|SDGsモデルの普遍化に向けたデータ整備の現状
4|地方創生SDGs計画のKPI達成に向けたマネジメントシステムの提案
5|地方創生SDGsの成果を、データで「細やかに」「ダイナミック」に捉える
本稿では、2024年8月にニッセイ基礎研究所で実施したサステナビリティに関するキーワードの認知度・理解度調査の地方別分析結果をもとに、SDGs(持続可能な開発目標)と地方創生の現在地と課題について整理・考察する。
もともと、地方創生とSDGsは政策面で密接に関連しており、地方創生2.0の前身である「ひと・まち・しごと創生総合戦略」(地方創生戦略)の2016年度改訂版で、「持続可能な開発目標(SDGs)」が初めて言及されている。その後、2016年にSDGs推進の中長期的な国家戦略として「SDGs実施のための我が国の指針」が決定されて現在に至っており、石破政権の掲げる地方創生2.0は、SDGsをめぐる政策的な動きの新たな出発点である。
そもそも、地方自治体のSDGs達成に向けた取り組みは、人口減少や地域経済の縮小といった直面する課題の解決に包括的なアプローチを促すものであり、内閣府の調査(2023年)では自治体の8割弱(1129自治体)がSDGsを推進していると回答している。2018年時点で、この数値は1割に満たなかったことを考えると、SDGs政策は徐々に社会に浸透してきていると言える。特に、ニッセイ基礎研究所の解析によれば、SDGsの推進に関連して、地方自治体による「総合計画・戦略への反映」が大きな影響力を持つことが明らかになっている。
これを消費者・住民の視点から見ると、ニッセイ基礎研究所の調査(2024年8月)では、北海道と四国地方でサステナビリティに関連するキーワードの認知度・理解度が全般的に高く、消費経済の側面からは四国地方の中でも、特に徳島県で「エシカル消費」の認知が際立った。徳島県は「未来に引き継げるサステナブルな徳島」を総合計画のフレーズとして掲げ、県を挙げて地方創生SDGsを積極的に推進する施政方針が取られており、幅広くステークホルダーや市民参加を募ることで「コレクティブ・インパクト」を創出しながら、地域のダイナミズムに繋げている好事例と言える。
しかしその一方で、地方創生2.0の「基本的な考え方」では、過去の地方創生の取り組みについて「好事例を『普遍化』して、人口減少や東京一極集中の流れを変えるには至らなかった」と総括されている。先の内閣府の調査では、SDGsの推進状況について町部は約65%、村部は約50%に留まり市区部と比べて低迷しており、地方創生SDGsの現状は手放しで順調であるとは言い難い。特に、ニッセイ基礎研究所の解析によれば、転出者比率や65歳以上人口比率が高い自治体は軒並み苦戦している現状が浮かび上がる。
課題となる「好事例の普遍化」に向けて、RESAS(Regional Economy Society Analyzing System)などデータの活用が課題とされている。自治体の現状をデータで客観的に捉えて、住民や消費者から推進計画に広い支持を得ることや、活動をモニタリングして成果を客観的なデータで示すことは、好事例の普遍化に向けた一里塚である。しかし、SDGs政策の推進においては、一部の先進的な地方自治体でデータ利活用の好事例が出てきているものの、全体的にはまだまだ十分とは言えない。また、地域住民・消費者、民間事業者等の日常的なSDGs活動と、地方自治体の推進計画のKPI指標には「距離」があり、地域のサステナビリティへの直接的な貢献実感を伴わないとの指摘も見られる。
これらの現状を踏まえ、サステナブル・マーケティングの視点から、民間企業や自治体がサステナブル経営計画のKPI達成を目指す「マネジメントシステム(Balanced Scorecard for Triple Bottom Line Strategies(SBSC)」の先行研究等を踏まえ、自治体がデータを用いてステークホルダーの活動を後押しし、さらに消費者や住民の「エンゲージメント」のような活動水準にも着目しながら、より細やかに、ダイナミックに地方創生SDGsを捉えていく取り組みを提言したい。
■目次
1――はじめに
1|地方創生2.0の具体化に向けた動き
2|「ひと・まち・しごと創生総合戦略」「デジタル田園都市国家構想」とSDGs政策との
関わり
3|SDGsを原動力とした「地方創生2.0」への期待
~「横の連携」「パートナーシップ」「データの利活用」
2――地方自治体のSDGsの取り組み状況(1)
1|SDGsを推進している自治体は78.4%~2018年の8.1%から着実に増加
2|地方自治体によるSDGs推進~総合計画・戦略への反映が影響力
3|町村部で求められる地方創生SDGs~近隣自治体や中核都市との連携
3――地方自治体のSDGsの取り組み状況(2)
1|「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」の現状
~2024年度まで37都道府県206都市が選定
2|選定計画にみられる特徴
~「地域資源」「独自のポジショニング」「自律的好循環の達成」
4――調査結果~地方で大きく異なる生活者・消費者のSDGs浸透状況
1|地方別のサステナビリティ・キーワード認知度・理解度
2|社会問題・人権・多様性分野が高い「関東地方」、環境・エコロジー分野で高い「北海道」
3|サステナビリティ・キーワード全般の認知度・理解が高い「四国地方」
4|地方で異なる認知度・理解度の要因
~地域経済・風土・生活価値観などが複合的に影響か
5――エシカル消費をめぐる徳島県の取り組み
1|全国的にも高い徳島県の「エシカル消費」認知率
2|「未来に引き継げるサステナブルな徳島」~県を挙げた地方創生SDGsの推進
3|徳島県のエシカル消費や消費者問題の取り組み~関係者のパートナーシップを支援
6――地方創生2.0~2030年に向けたローカルSDGsの課題
1|循環経済ビジョン2020から5年~「つかう責任」消費者の役割が重要に
2|地方創生2.0 SDGsをめぐる今後の課題
~好事例の「普遍化」と既存計画のフォローアップ
3|SDGsモデルの普遍化に向けたデータ整備の現状
4|地方創生SDGs計画のKPI達成に向けたマネジメントシステムの提案
5|地方創生SDGsの成果を、データで「細やかに」「ダイナミック」に捉える
(2025年01月24日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/03/21 | サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)-消費者はなぜ動かない?エシカル消費の意識・行動ギャップを生み出す構造的要因 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/02/14 | 企業のマーケティングや営業にもサステナビリティ変革の足音-34年ぶりのマーケティング定義刷新に見る地方創生への期待 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
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【地方創生2.0とサステナビリティ~地方創生SDGs推進に向けて重要度が高まる「データ利活用」】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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