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累積発行枚数1億枚を超えたマイナンバーカード (2)-ソーシャルマーケティング視点から見るデジタル行政の現在地

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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1――累積発行枚数1億枚に達したが~根強く残る「マイナ保険証」への統合・一本化反対の声
そこで本稿では、デジタル庁が実施した調査データ4(数表1)を用いてその一端を明らかにした上で、ソーシャルマーケティングの視点からデジタル行政サービスの拡大に向けた論点を考察したい。
1 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、2023年6月9日に閣議決定された(デジタル庁)
2 2024年8月31日時点のマイナンバーカード累計交付枚数(再交付、更新を含む過去に交付されたカードの累計枚数)
3 2024年8月2日付 毎日新聞「『マイナ保険証』政府のやり方に不満多数」など<
4 デジタル行政サービスに関する意識調査(デジタル庁)/調査方法 : インターネット調査/調査対象者:全国18歳から79歳男女
(性別×年代×地域ブロックの人口分布に応じて回収)/有効回答数 : 5,600/調査時期 : 2023年7月
2――着実に利用が広がるデジタル行政サービス~課題が残るサービス利用満足度や信頼度
年代別に見ると、男性60代以上は「良いと思う」が他層と比べて高めであり、社会のデジタル化を比較的ポジティブに受け入れていることがうかがえる一方で、「適応できている」をみると、女性(23.8%)が男性(33.8%)を大きく下回っており、特に40代は、男女を問わず低め(27.7%、20.1%)である。これらの層は、デジタル行政サービスがまだまだ十分に活用できていない可能性もある。
このように、マイナンバーカードの累積発行枚数が1億枚を超え、デジタル行政サービスの基盤は着実に築かれつつあるが、その「利用」や「満足度」「適応」、そしてデジタル化に対する「信頼」という観点では依然として大きな課題が残されているように見える。このような人々の意識が、冒頭で述べた様な「マイナ健康保険証への統合」を始めとする一連のデジタル政策に対して逆風すら感じさせる世論に転化している可能性も否定はできないであろう。
5 「知っている」は行政・自治体が提供しているデジタル行政サービスのうち、1つ以上知っている人の合計(%)を示す
6 「利用した」は行政・自治体が提供しているデジタル行政サービスのうち、1つ以上利用したことがある人の合計(%)を示す
7 「満足している」は5段階尺度のうち、上位の「非常に満足している」「まあ満足している」の合計(%)を示す
3――利用者層で異なるニーズ~ソーシャルマーケティングの視点から考える利用促進の決め手
まず、ユーザー(ターゲット)となる利用者層において、若年とシニアでは異なる課題を抱えていると考えられる。たとえば若年層は、行政サービスに限らず一般的にデジタル化による効率化や利便性の向上に期待を抱いている傾向があり、その期待がデジタル行政サービスの利用意向の高さに反映されているとも考えられる。自治体の事業や業務でのマイナンバーカードを活用したサービス数8は、2022年度の293サービスから、2024年の792サービスに大幅に増加しているが、たとえば、医療機関でのスムーズな手続きや薬の情報共有などの具体的な利用メリットやサービス事例を、これまで以上に訴求していくことで、さらなる利用促進につながる可能性がある(数表2)。
その一方で、男性のシニア層はデジタル行政を他の層より高く評価しており、システムの認知・利用経験・利用意向も同様に高めである。しかし、サービス満足度が3割を下回っている点は、システム全体への信頼や利用意向を損ねる要因となっている可能性がある。デジタル庁の重点計画でも、デジタル行政サービスのユーザビリティの向上や安全性確保が課題とされているが、満足度を下げる要因を特定して改善を図ること、そして信頼を高めるための透明性の高いリスクコミュニケーションが、この層の利用意向と期待を高め、着実な行動変容に繋げるためには不可欠であると言えるだろう。
8 デジタル庁「自治体におけるマイナンバーカードの活用事例」(2023年11月15日時点)より作成
9 目標達成のための能力を自らが持っていると認識する心理のこと。「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態を指す。
4――社会のデジタル化の一層の推進に向けて~課題は人々のきめ細かなニーズの把握と対処
しかし、今回の意識調査からわかる様に、そこに向けた人々の眼差しや想い、そしてニーズは一様ではない。それぞれの層の利用意向や信頼を高めるために、ソーシャルマーケティングの視点から、個々のニーズに向き合い、対処すべき課題を明らかにしていくことも、デジタル行政サービスが社会に広く受容されていく上での有効なアプローチと言えるのではないだろうか。
(2024年10月23日「研究員の眼」)

03-3512-1813
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
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