コラム
2023年03月30日

マイナンバーカードを用いたパスポートオンライン申請が開始~過去のオンライン申請と何が違うのか~

総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔

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1――マイナンバーカードを用いたパスポートのオンライン申請が可能に

2023年3月27日から、パスポートのオンライン申請が始まった。マイナンバーカードの保有者は、切替申請や新規申請1の手続きを、マイナポータルを通じてスマートフォンなどから行うことが可能になる。従来の対面パスポート申請では、パスポートセンターや窓口に申請時・受取時の計2回赴く必要があったが、今後のオンライン申請では受取時のパスポートセンター訪問1回のみで手続きが完結できるようになる。なお、従来の対面申請も継続する。マイナンバーカードを持っていない場合は、従来の申請フローから大きな変更はない(図表1)。
 (図表1)パスポートを切替申請する際の流れ
海外旅行需要の回復から、パスポートの発行数も回復基調にある。コロナ禍前の水準にはまだ遠いものの、2022年12月の発行数は、2019年以降で最少発行数を記録した2020年12月と比べ、約4.2倍に達している(図表2)。ゴールデンウイークや夏休みを控える中で、時間や場所を選ばずオンラインで申請ができる手軽さは、旅行者への恩恵も大きい制度変更になるのではないか。
(図表2)2019年以降の一般旅券発行数の推移
 
1 2023年2月時点で、青森・宮城・茨城・埼玉・千葉・富山・大阪・京都・和歌山・鳥取・徳島・香川・高知・熊本・大分・沖縄の16府県で、戸籍謄本の郵送を条件に受付予定である。また、戸籍上の氏名や本籍地に変更があった場合の切替はオンライン申請非対応である。

2――パスポートオンライン申請に向けたこれまでの取組み

パスポートのオンライン申請システムの導入は今回が初めてではない。2004年から2007年の約3年間、住民基本台帳カード(以下、住基カード)を用いたオンライン申請システム(以下、先代システム)が稼働していた。先代システムは、パソコンとICカードリーダーで住基カードを読み込み、オンライン上で本人確認を行うことで申請を行うことができた。また、パスポートセンターへの出頭も、受取時の1回で済んでいた。

しかし、先代システムは、費用対効果の面から僅か3年で廃止に至っている。特に、極めて低調な利用率が問題になった。財務省の「平成18年度予算執行調査 統括調査票2」によれば、先代システムは、2003年度から2005年度の間にわずか133回しか利用されなかった。他方、システムの年間平均維持費は約8億円で、パスポート1枚あたり約1,600万円とも言われた。今回の新しいオンライン申請システムは、住基カードをマイナンバーカードに置き換えて、再出発を図るものである。
 
2 「平成18年度予算執行調査資料(統括調査票)」財務省 2006-07-04.

3――先代システムの課題と対応

なぜ、先代システムは低調な利用率に終わったのだろうか。平成18年度予算執行調査 統括調査票によれば、主な課題に以下の3つを挙げることができる。すなわち、(1)住基カードの普及率の低さ、(2)申請までのハードルの高さ、(3)オンラインで申請が完結しない不便さの3つである。

先代システムの利用には、住基カードや専用のICカードリーダー、申請用のソフトウェア3などが必要であった。しかし、2007年3月のシステム終了時でも住基カードの普及率は約1.1%に過ぎなかったうえ、ICカードリーダーなどの初期費用や求められるITリテラシーの高さから、普及が進まなかった。加えて、オンライン申請後には戸籍謄本を郵送する手間があり、利便性を実感しにくいという事情もあったようだ(図表3)。
(図表3)2004年のパスポートオンライン申請システム不調の主な理由
では、なぜこのタイミングで復活するのだろうか。理由としては、行政のオンライン化を進める政府の姿勢を背景に、先代システムの課題に対応できる環境が整ったことが大きいと思われる。特に筆者は、以下の2つが主な理由と考えている。

1つは、住基カードを代替するマイナンバーカードの普及率の向上だ。2023年3月12日時点で、マイナンバーカードの申請者は約9,500万人に達し、全人口の75.4%が交付済または申請中となった。今や、マイナンバーカードは運転免許証を超え、日本で最も普及する本人確認書類である4。普及によって、オンライン申請の潜在的な利用者数が大幅に増えたと言える。

もう1つは、NFC機能付きスマートフォンの普及とマイナポータルの登場で、オンライン申請のハードルが下がったことが挙げられる。NFCとは、”Near Field Communication”の略語で、近距離無線通信のことを指す。例えば、交通系ICやスマートフォン、クレジットカード内の非接触ICチップによって、かざすだけで通信し、タッチ決済やICカード情報の読取ができるシステムである。近年、多くのスマートフォンにはNFC機能が搭載されており、先代システムのようにICカードリーダーを準備せずともマイナンバーカードを読み取ることができる。

また、スマートフォンにマイナポータルアプリをインストールするだけで、オンライン申請システムを使うことができる。簡単なアプリ導入で、先代システムのような難しいソフトウェアのインストールは不要となった。スマートフォンとマイナンバーカードさえあれば申請ができる手軽さは、大きな前進と言えるだろう。
 
3 「利用停止事例と非実現事例に見る行政手続きオンライン化の課題と可能性 情報処理学会報告Vol.2013-EIP-60.No11」本田正美 .2013-05-16
4 「マイナンバーカード申請 約8300万枚に 運転免許証超える」.NHK. 2023-01-06

4――なお残る課題

上記のように、先代システムの課題であった 図表3の1(住基カードの交付率が低かったため)と2(申請へのハードルが高いため)については、マイナンバーカードやNFC対応スマートフォンの普及と、マイナポータルの存在により、大きく改善した。

しかし、図表3の3(オンラインで申請が完結しない)は、なお課題として残る。特に、新規でパスポートを申請する際に、オンラインのメリットをフルに享受できない。現状では、オンラインの新規申請は一部の自治体(脚注1参照)に限られる上、申請後に自治体への戸籍謄本(原本)の郵送が必要になる。政府は、2023年度から開始される戸籍電子証明書の仕組みを利用して、2024年度を目途に戸籍謄本(原本)の提出省略を実現し、新規申請もオンラインで完結する仕組みの構築を目指している。

大きく改善したとは言え、図表3の2(申請へのハードルが高いため)についても改良の余地がある。例えば、内閣府大臣官房制度担当室の「マイナポータルのデザイン・機能に関するご意見まとめ5」が参考になる。これによれば、マイナポータルの表示情報の過多や、自分が使いたい機能がどこにあるのか分からないなど、デザインの分かりにくさに関して利用者からの指摘が目立つ。また、マイナポータルの利用には、慣れない操作も多く求められる。例えばマイナポイント第2弾の際、パスワード入力やマイナンバーカードの読取を何度も求められる。オンライン上の本人確認など、手続き上必要な操作ではあるが、煩わしさは否めない。

これら課題への対応として、デジタル庁は2022年12月にマイナポータル実証α版を公開した。これは、マイナポータルのサイト設計やデザインを見直し、より使いやすく分かりやすいシステムを作るための、いわばプロトタイプのマイナポータルだ。利用者からのフィードバックをもとに改善を行うことで、オンライン申請のハードルが一層下がることが期待される。

また、本年5月からはマイナンバーカード機能のAndroid OSスマートフォンへの搭載が始まる。マイナンバーカード内の電子証明書がスマートフォンに取り込まれ、マイナポータル上の手続きにおいて、本人確認のためのマイナンバーカード読取やパスワード入力が不要になる6。顔や指紋などの生体認証を用いたログインが可能になり、手間が大きく省ける。尚、日本におけるモバイルOS別のシェアでAndroid OSと拮抗するiPhoneのiOSへのマイナンバーカード機能搭載については、現在、検討中にある。
 
5 「マイナポータルの新しいデザイン・機能に関するご意見まとめ」. 内閣府大臣官房番号制度担当室. 2021-01-15.
6 「マイナンバーカードの機能のスマートフォン搭載に関する検討会(第1回)行政機関・民間事業者向け説明資料」.デジタル庁 2022-08-03

5――おわりに

マイナンバーカードを活用したパスポートのオンライン申請が始動した。これにより、従来、対面形式で行われてきたパスポートの申請手続きが、一部を除きオンラインで行えるようになる。他方で、パスポートの受け取りには、依然として1回の出頭を要するという仕組みは残る。 オンライン申請のありかたを議論してきた規制改革推進会議でも、郵送によるパスポートの受け取りが検討されてきたが、受取人の本人確認といった点で外務省は完全オンライン化に難色を示している7

とは言え、今般のパスポート申請のオンライン化で利便性が高まることには変わりない。これまでのように、パスポートセンターで長蛇の列を作り、申請に数時間を要するような煩わしさが、これによって一気に解消される。マイナンバーカードの普及に腐心してきた政府にとって、マイナンバー制度のメリットを実感してもらうまさに好機到来であり、利用者からどのような反応があるのか、今後の動向に注目したい。
 
7 「パスポート切替が2023年3月までに『半オンライン化』へ、対面を残す外務省の主張」玄忠雄. 日経クロステック.2022-03-03.
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総合政策研究部   研究員

河岸 秀叔 (かわぎし しゅうじ)

研究・専門分野
日本経済

(2023年03月30日「研究員の眼」)

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