コラム
2023年03月02日

マイナンバーカードの今後の注目点-1月交付率は過去2番目に高い伸び

総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔

文字サイズ

1――伸びる交付率

総務省が2023年1月に発表した「マイナンバーカードの交付状況について」によると、2023年1月末のマイナンバー交付率は60.1%となり、前年同月比で18.3%の伸びとなった(図1)。また、対前月比交付率では3%の伸びとなり、2022年12月の3.2%に続いて、過去2番目に高い伸び率となっている。対前月比交付率の伸び率は、マイナポイント第2弾が開始した2022年6月以降に上振れ始め、同年10月に河野太郎デジタル相が表明した健康保険証廃止とマイナンバーカードへの一本化もあり、伸び率はさらに高まった。一部では河野大臣の表明を事実上のマイナンバーカード義務化と受け止める動きもある1。また、マイナポイント付与対象となるマイナンバーカードの申請は2月末で締め切られた。こうしたタイミングが重なり、カード取得を悩んでいた層に対して、「いずれ取得するのなら、ポイントがもらえるうちに」という形で駆け込み的に取得を後押しした可能性がある。
(図1) マイナンバーカード交付率と対前月比交付率の伸びの推移
年齢別の取得率を見ると、全世代平均交付率に対して60代から70代の取得率が高いことが分かる。他方、14歳以下や90代以上の世代は平均から大きく後れを取っている(図2)。特に、90代以上の女性には31.5%しか行き渡っておらず、平均の半分程度の交付率に留まっている。
(図2)各年代マイナンバーカードの交付率/(図3)マイナンバーカードを巡る今後の主な予定
 
1 「マイナンバーカード取得、誘導から『義務』に 政府転換」日本経済新聞.2022-10-14. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA136OR0T11C22A0000000/ . (2023-2-15参照)

2――マイナポータルと健康保険証廃止の行方に注目

マイナンバーカードの申請数が8100万件を超え、マイナンバーカードの交付数はまもなく運転免許証を超える見込みだ2。2022年度末までに、ほぼ全ての国民への交付を目指す政府目標にはまだ遠いようにも思えるが、日本で最も普及する本人確認書類となることは、ほぼ間違いない。今後はマイナンバーカードの更なる普及促進と同時に、既に取得した人の利便性も高めるフェーズに入っていくと考えられる。

こうした中で、2023年は、利便性拡大の年になりそうだ(図3)。2023年2月以降、転出届やパスポートのオンライン申請が始まり、5月からはAndroid OS3のスマートフォンにマイナンバーカード機能が搭載可能になる4。こうした中で筆者は、今後の利便性に関する注目点は主に2点あると考えている。一つはマイナポータルの普及、もう一つは健康保険証廃止の議論の行方だ。

国民にマイナンバーカードの利便性を実感してもらうには、マイナポータルの普及が重要だ。マイナポータルとは、政府が運営する行政手続き用のオンラインサービスを指す。先述のオンライン申請や、Android OSでのマイナンバーカード機能の利用にはマイナポータルへの登録が前提となる。

マイナポータルについては、既にe-Taxを用いた確定申告等で活用が始まっているが、まだ国民生活に浸透したサービスにはなっていない様である。ニッセイ基礎研究所の2022年9月調査によれば5、マイナンバーカード取得者のうち、マイナポータル内サービスの利用経験がある割合は16.7%であった。また、今後マイナポータルを利用してみたいと答えた人は、取得申請中の人を含めた全体のうち23.5%に留まっている。

昨年には、マイナポータルの利用規約の免責事項が物議を醸し、修正された。利用者に損害が生じた場合に、デジタル庁は「一切の責任を負わない」とする規約が無責任と批判されたのだ。マイナポータルはデジタル社会のハブともいえる存在だが、その定着に向けてどこまで機能を拡大させるか、今後の展開に期待したい。

加えて、健康保険証廃止の議論(マイナ保険証6への一本化)も注視すべきだろう。先述の通り、マイナンバーカードは、特に医療機関受診の必要性が高い14歳以下や90代以上への普及が進んでいない。2024年度秋に予定される健康保険証の廃止までに、この層を含めた一層の普及促進策や、マイナ保険証未取得であっても受診に支障が出ない仕組みを作る必要があり、現在、デジタル庁の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会7」で議論が行われている。
(図4)現在検討されているマイナンバーカードと健康保険証の一体化推進に関する主な事項
2023年2月に発表された同検討会の中間とりまとめでは、マイナンバーカードの一層の普及を目指し、代理取得規制の緩和や交付に必要な本人確認を郵便局でできるようすること、更にはカードの郵送受け取りを可能とすること、といった手続きの簡略化が検討されている(図4)。また、カードを持たない者や紛失・再発行中の者に対してマイナ保険証の代わりとして資格確認書を無償で発行するほか、現行の保険証を健康保険証の廃止後1年間は有効とみなす制度の整備を目指している。

今回の中間とりまとめで、マイナンバーカードと健康保険証の一本化推進に関する取り組みについて一定の方向性が示された。ただ、マイナ保険証未取得者への対応については、依然、議論が続いている。例えば、資格確認書を使うとマイナ保険証よりも受診料が高くなる可能性があることや、毎年の申請が必要となる可能性があるなど8、未取得者に追加的な負担を求める考えが示されている9

健康保険証は国民生活に浸透しており、廃止が与えるインパクトは大きい。しかし、10月の廃止表明以降、様々な情報が錯綜している。なかには、困惑している人もいるだろう。中間とりまとめで、廃止後の姿が一定程度示されたと言える。今後は、最終とりまとめを待つとともに、国民や現場への手厚いフォローを期待する。どのように落ち着くのか、これからの動向に注目したい。
 
2 鈴木康朗. マイナカード申請、年内目標数を達成 8100万件超える 総務省公表 . 朝日新聞デジタル. 2022-12-28. https://digital.asahi.com/articles/DA3S15514328.html?iref=pc_ss_date_article (2023-02-13参照)
3 Google社の提供するモバイルオペレーティングシステムのこと。同OSを搭載するスマートフォンには、SHARP社のAQUOS シリーズやSONY社のXperiaシリーズ、Samsung社のGalaxyシリーズ、Google社のGoogle Pixelシリーズなどがある。なお、Apple社のiPhoneシリーズでは、いかなる機種でもAndroid OSを搭載していない。
4 なお、iPhoneへのマイナンバーカード機能の搭載は、予定はされているが時期未定である。
5 村松容子.マイナンバーカード取得状況と使途・今後利用したいサービス. ニッセイ基礎研究所. 2022-11-26. https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73007?site=nli . (2023-2-24参照)
6 健康保険証登録を行ったマイナンバーカードのこと
7 デジタル庁. 第2回マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会 . 2023-02-17, https://www.digital.go.jp/councils/card-integration-mynumber-and-insurance/049442db-8ca3-4019-928a-c8b76aaa75d5/  . (2023-02-22参照)
8 資格確認書の自動更新有無は現在検討中であり、自動更新がない場合について懸念を示す指摘もある。 
誰得?マイナ保険証ない人向け「資格確認書」本人申請が必須で有効期限は最長1年、自動更新は未定 . 東京新聞 2023-02-21 . https://www.tokyo-np.co.jp/article/232313 . (2023-02-24参照)
9 厚生労働省広報室 . 加藤大臣会見概要 . 厚生労働省HP . 2023-2-24 . https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00529.html . (2023-02-28参照)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

総合政策研究部   研究員

河岸 秀叔 (かわぎし しゅうじ)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年 日本生命保険相互会社入社
     2022年 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年03月02日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【マイナンバーカードの今後の注目点-1月交付率は過去2番目に高い伸び】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

マイナンバーカードの今後の注目点-1月交付率は過去2番目に高い伸びのレポート Topへ