コラム
2018年12月04日

マイナンバーカード普及の課題-マイナンバーカードはデジタル国家への礎となるか

総合政策研究部 研究員   清水 仁志

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1――はじめに

政府は、2013年に「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定し、世界最高水準のIT利活用社会の実現により、日本経済の再生を目指した。来年の通常国会では、「デジタルファースト法案1」を提出するなどデジタル国家2の実現を強力に推し進める姿勢を見せている。しかし、オンラインサービスの主軸となるマイナンバーカードの普及率は1割程度と低調だ。法の施行から3年が経ったものの、なかなか普及が進んでいない。

本稿では、デジタル国家の土台となるマイナンバーカード普及の課題について考えてみたい。
 
1 業務改革(BPR)の徹底とデジタル化の推進により利用者中心の行政サービスを実現するために、オンライン化の徹底及び添付書類の撤廃について定めた法案
2 全ての国民がIT利活用やデータ利活用を意識せず、その便益を享受し、真に豊かさを実感できる社会

2――デジタル国家とマイナンバーカードの電子証明書

デジタル国家実現のための「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、行政サービスの100%デジタル化を掲げ、日本が抱えている諸課題の解決を目指している。地方の過疎化により行政・民間サービスの維持費が膨らんでいるが、オンラインでの手続が普及すればその問題を解決できるかもしれない。また、茨城県つくば市では、マイナンバーカードを活用したインターネット投票の実証実験を行ったが、これが選挙にも応用されれば、低迷している若者の投票率向上にも寄与する。

デジタル化におけるオンライン手続を安全に行う基盤として重要なのが「電子証明書」だ。電子証明書とは、インターネット上などでの身分証明書のことで、これを使うことにより、なりすましを防ぎ、安全なオンライン手続を可能とする。電子証明書を利用する際には、電子証明書が格納されたマイナンバーカード等の実物が手元になければならないため、「ID+PW」等の情報のみのキーに比べセキュリティレベルが高い。そのため、行政サービスのような重要な情報を伴う手続の際などにセキュリティとして使用される。

ただ、その普及は、道半ばだ。政府は、デジタル国家の基盤として、電子証明書機能を格納しているマイナンバーカード発行を促しているが、2018年7月1日時点で、マイナンバーカードの申請を行い手元に持っている個人は11.5%(1,467万枚)と極めて少ない。2018年度末に8,700万枚を交付するという当初の予定を大きく下回っている状況だ。

3――マイナンバーとマイナンバーカード

2016年1月、国民一人ひとりが12桁の固有の番号を持つ番号制度(マイナンバー制度)の運用が開始した。マイナンバー制度は、複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)だ。マイナンバー導入以前は、個人の情報は、行政サービスを提供している複数の主体がそれぞれ独自の方法で管理していたため、紐付けに時間がかかることに加え、所得把握の困難さや、「年金記録問題」のような情報の統合ミスが発生するという問題があった。そこで、複数の機関に存在する個人の情報を、効率的に、そして正確に把握するために、国民一人ひとりに新たにマイナンバーという紐付けの鍵となる個人特有の番号を付与した。政府はこのマイナンバー制度を通じて、「公平・公正な社会の実現」、「国民の利便性の向上」、「行政の効率化」の達成を目指し、利活用のための基盤を整えている。
 
2015年10月以降、住民票を有する全ての人にマイナンバーが通知され、また、個人の申請によりマイナンバーカード(個人番号カード)が交付される(図表1)。マイナンバーカードの券面には、マイナンバーに加え、基本の4情報(氏名、住所、生年月日、性別)、顔写真などが記載されており公的な本人確認書類として利用可能となった。また、カードには、上述したインターネット上での身分証明書である「電子証明書3」機能が格納されており、行政サービスなどをオンラインで手続する際に使われる(図表2)。
(図表1)マイナンバー制度のスケジュール/(図表2)マイナンバーとマイナンバーカード
 
3 マイナンバーカードの電子証明書には、インターネットを閲覧する際などに利用者本人であることを証明する「利用者証明用電子証明書」と、インターネットで電子文書を送付する際などに本人が文書を作成したことを証明する「署名用電子証明書」の2つが存在する

4――マイナンバーカード普及への課題

現在、マイナンバーカードは任意取得であり、カード普及のためには、カード発行のデメリットよりもメリットを強く感じてもらうことが必要だ。

1電子証明書機能を利用したメリット
マイナンバーカードの電子証明書機能による公的個人認証サービスを使用することで様々なオンラインサービスを受けることが出来る。例えば、国税に関する手続きについてはe-Tax が使え、各種証明書の取得の際には、役所まで足を運ばなくてもコンビニで手続することも出来る。また、三菱UFJ銀行では、マイナンバーカードの電子証明書を用いることで、住宅ローンの契約をオンライン上で出来るようにするなど、民間サービスへの利用拡大も進んでいる。

2本人確認書類としてのメリット
マイナンバーカードは物理的な本人確認書類となる。しかし、日本の場合、16歳以上人口の約75%が保有している運転免許証が、多くの場合本人確認書類として使用されている。最近では運転免許証を取得しない若者、自主返納する高齢者の増加もあり、今後は運転免許取得前の年齢も含め、全ての人が使える公的身分証明書としてのマイナンバーカードの役割は増していくと考えられるが、現時点では、マイナンバーカードの本人確認書類としての機能によるメリットは一部の人に限定されている。

3セキュリティ面のデメリット
マイナンバーカードを発行することで、カードの紛失等によるマイナンバーの流出および、マイナンバーカード不正利用のリスクが少なからず増大する。マイナンバーカードだけでは、そこに含まれている情報以外は漏洩しないが、パスワードも知られてしまうと、オンライン上の個人情報まで抜き取られてしまう恐れが生じる。

12月3日に公表された内閣府「マイナンバー制度に関する世論調査(平成30年11月)」によると、マイナンバーカードを取得した(する)理由として一番多かったのが、「身分証明書として使えるから(46.7%)」であった(図表3)。同様に、マイナンバーカードを取得しない理由では、「取得する必要性が感じられないから(57.6%)」に次いで、「身分証明書になるものは他にあるから(42.2%)」だった(図表4)。多くの人が運転免許証を持っている中、マイナンバーカードを普及させることができるかどうかは、電子証明書機能によるメリットが充実するかにかかっているといえる。
(図表3)マイナンバーカードを取得した(する)理由/(図表4)マイナンバーカードを取得しない理由
現状では、電子証明書機能を用いることで劇的に生活が便利になるまでには至っていない。コンビニでの各種証明書取得に関しては、全市町村のおよそ3 割程度しか対応していない。また、マイナンバーカードで利用できる目玉といえるマイナポータルは、まだ活用できる機能が限られている。内閣府の調査4では、マイナポータルを「特に利用してみたいとは思わない」と答えた人は62.2%にも及んだ。結果として、国民はメリットよりも、カード発行の手間やセキュリティ面等のデメリットのほうが大きいと感じてしまっている。マイナンバー制度はまだ開始されてそれほど時間が経っていなく、今後も政府が策定しているロードマップに沿って利便性を向上させていく予定だが、民間への更なるサービスの拡大等、一層の機能充実に向けた取組みが必要だ。
 
上記のメリットを享受する環境づくりに加え、マイナンバーカードへの、国民の正しい理解を促すことも重要だ。生命保険協会の調査5によると、マイナンバーカードの内容を知っていると答えた割合は63.7%だが、マイナンバーカードで利用できる公的認証サービスについて内容を知っている人は31.3%に留まっている。マイナンバーカードについて知っているようで、具体的な利用方法を理解している人は少ない。

また、マイナンバー自体に後ろ向きな人も一定数いることが想定される。様々な手続でマイナンバーの提示が求められ、わずらわしさを感じている人も少なくないだろう。監視社会、個人情報漏えいによる被害などに繋がるという懸念の声も多いようだ6。その結果、マイナンバーとは直接関係のない電子証明書機能を有したマイナンバーカードについても、その名称から普及の弊害となっている可能性がある。政府は、単に「マイナンバーカードの活用」と説明するのではなく、様々な機能が搭載されているマイナンバーカードのどの機能を活用するのかを丁寧に説明しなければならない。デジタル国家を目指すにあたり重要な電子証明書機能自体には、マイナンバーは利用されない。マイナンバーの使用の有無を明確に説明することで、国民がマイナンバーに対して抱いている不安を払拭することが重要だ。
 
4 内閣府「マイナンバー制度に関する世論調査(平成30年11月)」、複数回答
5 一般社団法人生命保険協会『高齢者に配慮した取組みの推進に関する提言書-「マイナンバー制度の民間利活用」への提言』
6 内閣府「マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査(平成27年9月)」

5――おわりに

政府は、カジノへの入場管理やプレミアム付き商品券発行においてマイナンバーカードの活用を検討するなど、マイナンバーカードの普及を政策の一部として進めようとしている。

マイナンバーカードの電子証明書機能はデジタル国家への土台であり、日本の社会問題を解決するための重要な鍵となる。マイナンバーカードの普及のためには、マイナンバーカードの電子証明書機能で利用できるサービスの更なる拡充を行うことに加え、国民の理解を促すことが重要だ。制度やカードの機能が非常に複雑であるため、丁寧な説明をすることで不信感を払拭する必要がある。また、それでも普及が進まないようであれば、一部の国のようにマイナンバーカード発行の義務化や、マイナンバーカード以外の別の手段を主軸とし、デジタル国家を目指すことも考える必要があるのではないだろうか。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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総合政策研究部   研究員

清水 仁志 (しみず ひとし)

研究・専門分野
日本経済、労働市場

(2018年12月04日「研究員の眼」)

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