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マイナンバーカードの携行率が約半分という現実に向き合う
総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔
1――保有枚数率は高いが、携行率は低いマイナンバーカード
マイナンバーカードを活用すれば、本人性を証明する電子証明書などを用いて、行政手続きをオンライン化することができる。オンライン化が普及すれば、窓口手続きや手書き書類の量が減少し、行政の業務負担やコスト削減に繋がる。また、国民にも、行政手続きの簡素化というメリットがある。
人口減少の継続が見込まれる中で、行政の効率化は必要不可欠だ。そのためには、マイナンバーカードを携行し、普段使いしてもらうことで、カードに馴染んでもらう必要がある。
1 総務省ホームページ. マイナンバーカード交付状況について. https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kofujokyo.html . (参照2024-03-19)
2 デジタル庁. 業種別マイナンバーカード取得状況等調査(第8回). 2024-02-20.
3 Digital Platformer株式会社. マイナンバーカードなど身分証明書類に関する実態調査. 2023-09-21. https://digitalplatformer.co.jp/20230921001/ (参照2024-03-14)
2――なぜ、携行率は低いのか
マイナンバーカードのメリットは充実しつつある(図表1)。2016年のマイナンバーカード交付開始時からコンビニでの公的証明書の取得や確定申告での利用が可能になり、2017年にはマイナポータルの本格的な運用が開始した。また近年では、健康保険証としての利用やパスポートの更新手続きにも利用可能になった5(図表1)。
ただ、メリットの充実は国民のマイナンバーカード携行に繋がっていない。その背景にはメリットの多くが必ずしもマイナンバーカードの携行を日常的に求めるものではないことにある。また、マイナンバーカード携行に繋がりやすい対面での本人確認や健康保険証での活用については、運転免許証で本人確認が代替可能であること、マイナンバーカードによる健康保険証としての利用率も4.6%の低水準に留まっていること、などから道半ばにある6。今後、健康保険証の廃止やマイナンバーカードと運転免許証の一体化が予定されているが、本格的なマイナンバーカードの携行への道のりは長い。
更に、マイナンバーカードの携行には、紛失時の表面情報の漏洩やマイナポータルへの不正ログインといったリスクが伴う。ただ、そのリスクの一部には誤解とそれに基づく過剰反応も見られる。例えば、マイナンバーカードを紛失すれば、年金や健康保険などの情報が、即座に芋づる式に盗まれるという誤解だ。拾得した第三者が情報を芋づる式に盗むには、4桁の暗証番号を解読し、マイナポータルに不正ログインする必要がある7。この点で、マイナンバーカードの紛失リスクは運転免許証やクレジットカードと大差がない。にもかかわらず、盗難や紛失時の悪用リスクに不安を感じる身分証明書類として、運転免許証を挙げた人が16.8%であるのに対し、マイナンバーカードは61.0%に上る8。
4 デジタル庁.前掲書. 2024-02-20.
5 ただし、こうした手続きの開始時期は自治体ごとに異なる場合がある。
6 2024年1月時点。 厚生労働省. マイナ保険証利用促進のための取り組み・支援策について. 2024-02
7 河岸秀叔. マイナンバーカード紛失時に知っておくべきリスクと対処法-芋づる式に情報は抜き出されるのか. ニッセイ基礎研究所 .2023-07-14
8 Digital Platformer株式会社. 前掲書. 2023-09-21.
3――低い携行率は能登半島地震への対応にも影響
災害時の行政業務のうち、避難所運営は最も負荷が大きいと言われており10、手続きなどをデジタル化する必要性は高い。デジタル庁の実証実験によれば、マイナンバーカードを活用した避難所の入所手続きは、従来の手書き方式と比べて約10分の1の時間で対応が可能である11。
また、マイナンバーカードの活用により、被災者の移動や避難所に関するデータを収集できる。支援物資の効率的な供給や災害関連死の防止には、日々変動する被災者の居場所を正確に把握するといった、データの収集が必要だ。
避難所の出入り時にマイナンバーカードをICリーダーで読み取ることで、避難所にいる被災者の人数や年齢を把握することができる。また、避難所外で生活する被災者が日中どの避難所を利用しているかを把握するなど、より広く被災者の状況やニーズを掴むことが可能だ。
しかし、令和6年能登半島地震では、ICリーダー不足とマイナンバーカードの携行率の低さから、デジタル庁と防災DX官民共創協議会12は、データの収集におけるマイナンバーカードの使用を見送り、代わりにJR東日本の協力を得て、応急的な手段としてSuica13の使用を決定した。Suicaの迅速な提供は、データの収集に大きく貢献した14。ただし、マイナンバーカードと異なり、Suicaの利用開始時には、基本4情報15を手作業で登録する必要がある。将来的な避難所運営の効率化には、携行率を向上させ、ほとんどの被災者がマイナンバーカードを所持する状態を作る必要がある。
9 地震や風水害などの災害によって住んでいる家屋が被災した場合、被害の程度を区市町村長が証明するもの。給付金や融資、災害支援金の受給、税金、国民健康保険などの支払い猶予や減免、公的利用サービスの減免、保険金の支払い請求、応急仮設住宅への入居真正に必要となる。 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災 . 2019.p253-254
10 デジタル庁. デジタル技術を活用した被災者支援業務の業務改善に関する調査研究 実証検証報告書 図表1.1-1. 2023 . p4
11 デジタル庁. 広域災害を対象とした被災者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究. 2023-12-15.p7(参照2024-03-22)
12 防災分野におけるデータ連携を促進し、デジタル防災を強力に推進するために設置された、官民連携による協議会
13 JR東日本が提供する交通系ICカード。なお、SuicaとマイナンバーカードはICリーダーの読み込み規格が異なる。
14 なお、元々保有していたSuicaやモバイルSuicaは、今回のデータ収集には使用されなかった。
15 氏名・住所・生年月日・性別のこと。
4――本格的な携行の普及のために
携行率の向上には、リスクに関する正しい情報を周知するとともに、日常的に使用するサービスの充実や、利便性を実際に体験してもらうことが必要である。特に、一度体験してもらうことは重要だ。マイナンバーカードで利用可能なサービスのうち、国民の利用経験率が50.0%を超えるものはまだないが、50.0%以上の利用経験者が多くのサービスでその利便性を実感していた。また、マイナンバーカードを利用したコンビニ等での各種証明書の取得に限れば、83.9%の人が利便性を感じたという16。
ボストンコンサルティンググループによれば、行政のデジタルサービスのユーザーエクスペリエンスが優れていれば、国民の政府への信頼度が高まるという17。利便性の実感は、マイナンバー制度への信頼に繋がる。今後、健康保険証や運転免許証との一体化、またスマートフォン(iPhone)へのマイナンバーカードの搭載などが予定され、携行のメリットも拡大する。能登の教訓を基に、国民から信頼され、持ち運ばれるカードとなることを期待したい。
16 デジタル庁. 前掲書. 2024 -02-20.
17 Boston Consulting Group Inc, Salesforce. “The Global Trust Imperative”. 2021. p9
(2024年03月26日「研究員の眼」)
03-3512-1835
- 【職歴】
2021年 日本生命保険相互会社入社
2022年 ニッセイ基礎研究所へ
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