2024年02月06日

配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか。

総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔

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1――配偶者手当を廃止する企業が増加

配偶者手当とは、配偶者がいる従業員に対して支給される手当である1。2023年の人事院勧告2によると、配偶者のみを扶養する従業員に対して平均12,744円(月額)の手当が支給された。高度経済成長期の日本型雇用システム3の構築と共に企業に普及し、2009年には約74.7%の企業が採用していた。

しかし近年、配偶者手当を廃止する企業が増えている。2023年時点で、配偶者手当を支給する企業は約56.2%と、2009年と比較して大幅に減少した(図表1)。特に、500名以上の従業員を雇用する比較的大きな企業では、廃止の動きが顕著に見られる(図表2)。なぜ、配偶者手当を廃止する企業が増えているのだろうか。本稿では、その理由について解説する。
(図表1)配偶者手当を支給する企業の割合/(図表2)子どもを含む扶養家族への手当を行う企業のうち配偶者手当を支給する企業の割合
 
1 「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて」厚生労働省・都道府県労働局.2023-01 .
なお、家族手当・扶養手当と呼ぶ企業も存在するが、本稿では一律して配偶者手当と呼称する。
2 本稿では、統一性の観点から基本的に和暦を西暦に直して記述を行う。
3 「集団主義的で(中略)、企業への長期の勤続を特徴とする『長期雇用』や年齢・勤続に伴って賃金が上昇する『年功賃金』」を特徴とする雇用システム. 厚生労働省平成18年版 労働経済の分析を参考に筆者記述。

2――国が先導し、民間が追随

2.1配偶者手当の廃止は、2015年頃から増加
配偶者手当を廃止した企業は2015年頃から増加した。2015年以前にも配偶者手当を廃止する流れは存在していたが、そのペースは比較的緩やかであった4。例えば、2009年から2015年にかけては、配偶者手当を支給する企業の割合は年間約1%の減少と、比較的小幅な変動に留まっていた(図表1)。

しかし2015年以降は、一部の時期を除いて、配偶者手当を支給する企業の割合が年間約2から3%の減少に拡大した(図表1)。また、同年以降、配偶者手当の廃止や削減(以下、併せて「見直し」)を予定・検討する企業が増加しており、企業のスタンスが変化し始めたことが分かる(図表3)。
(図表3)民間企業の配偶者手当に対する考え方
 
4 2000年代初頭には、成果主義ベースの賃金体系を望む従業員意識の高まりなどにより、配偶者手当を廃止した企業が続出した。
参考「配偶者手当、廃止の動き ――— 『働かなきゃ』と妻を刺激(生活家庭)」. 日本経済新聞夕刊. 2001-09-10, など
2.2就業調整という課題
2015年以降の変化の主な要因として、故安倍晋三元首相の女性活躍政策が挙げられる。女性活躍政策の一環として、第二次安倍政権は国民健康保険第3号被保険者(被扶養者)の就業調整の解消を推進した5。就業調整とは、収入を一定の範囲内で抑えるために就業時間を調整することを指す。

就業調整の主な要因には、いわゆる年収の壁と配偶者手当が挙げられる。厚生労働省によれば、2011年時点で、パートタイム労働者のうち配偶者を持つ女性の21.0%、配偶者を持つ男性の9.8%が就業調整を行っていた6。また、就業調整を行うパートタイム労働者(男女)のうち、30%以上が年収の壁を、20%以上が配偶者手当を調整理由と回答している(図表4)。

年収の壁による就業調整は、主に手取り額の減少を避ける目的で行われる。特に、厚生年金・健康保険料の発生する106万円の壁7や、国民年金・国民健康保険料の発生する130万円の壁では、社会保険料の負担が増え多くの場合で手取り額が減少するため、就業調整に繋がりやすい。また、配偶者手当による就業調整は、主に手当のカットを避ける目的で行われる。配偶者手当は、受給条件として配偶者の収入が103万円以下、または130万円以下とする場合が多く、実質的な年収の壁として就業調整を招きやすい。

少子高齢化による人手不足が深刻化する中、日本の安定的な成長には労働力を維持することが必要である。しかし、働く意思がありながら就業を調整せざるを得ない状況は、効率的な労働供給の妨げとなる。こうした背景から、年収の壁対策と併せて、配偶者手当の見直しが推進された。
(図表4)就業調整を行う理由/(図表5)国家公務員の配偶者手当額の推移
 
5 例えば、「日本再興戦略改訂2014」(内閣府)や、経済財政諮問会議における故安倍晋三元首相の発言にて言及されている。
6 「平成23年パートタイム労働者総合実態調査の概況」.厚生労働省
7 ただし、106万円の壁は2015年時点では存在しておらず、2016年10月に社会保険の適用範囲拡大に伴い生まれた。
2.3国が先導、民間が追随という構図
第二次安倍政権下での配偶者手当見直し政策の特徴として、国の積極的な先導が挙げられる。特に、国家公務員の配偶者手当見直しが果たした役割は大きい。見直しは、政府の働きかけにより2014年から人事院内で検討が始まり8、2016年の人事院勧告にて言及、同年に決定した(図表5)。

本政策は、民間準拠9が原則の中、多くの企業に先駆けて実施した点が画期的であった10。国が率先して配偶者手当を見直すことで、その波及効果が企業に及ぶことを期待したのである。実際、2016年の人事院勧告以降、見直しを予定する企業は増加しており(図表3)、また図表1のように、配偶者手当を廃止する企業も拡大したことから、こうした政策には一定の効果があったと考えられる。

加えて、第二次安倍政権の呼びかけに対し、トヨタ自動車や経団連といった大企業・経済団体が呼応し、手当の見直し・提言への盛り込みを実施しており、企業に対して影響を与えた可能性がある11。また、厚生労働省の「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」(2016年)では、企業に対して、見直しの際の注意事項や実施例をまとめ、公表している。こうした情報提供も、見直しに対するハードルを下げ、企業を動かした要因の一つだと考えられる。いずれにしても、国の先導は企業を動かし、見直しの流れを作ったと言える。
 
8 「配偶者手当見直し、首相が指示 まず国家公務員」日本経済新聞社.2014-10-21
9 「常勤の国家公務員の給与水準を常勤の民間企業従業員の給与水準と均衡させること」人事院HP
10 人事院「扶養手当の在り方に関する勉強会(第3回)」2016-03-07などの資料から、こうした先導性が確認できる。また、日本経済新聞も同様に指摘をしている。 「配偶者手当が消える?国が先行、民間も追随」日本経済新聞社. 2016-10-04.
11 「トヨタの配偶者手当廃止で日本の家族手当は変わる?」THE PAGE .2015-07-15

3――配偶者手当が時代に合わなくなりつつある

廃止が進んだ背景には、政策要因の他に、社会的ニーズの低下も大きな要因として挙げられる。

従来、配偶者手当は、男性が配偶者を扶養するという前提で制度が成熟した。しかし、女性の社会進出が進むとこうした前提は大きく崩れた。共働き世帯数は、1990年代に専業主婦世帯数を上回り、現在では専業主婦世帯数の2倍以上に達している(図表6)。前述の通り、配偶者の収入に応じて配偶者手当を制限する企業が多い。共働きが増加すると、受給対象者は減少する。

さらに、未婚化・晩婚化の影響により、配偶者を有する人の数も減少した。配偶者手当が浸透した1980年代には、30・40代になれば90%近い人が結婚をしていた。しかし、2020年の有配偶率は、40代の男女で約70%、30代の男女で約60%近くにまで低下している(図表7)。

配偶者手当は、もはや誰もが受け取れる手当ではない。むしろ、能力ではなく配偶者を有するか否かで給与が変わる仕組み自体が、配偶者を有さない従業員にとって不公平という声もある12。配偶者手当が必ずしも社会的ニーズに一致していないことがうかがえる。
(図表6)専業主婦と共働きの世帯数の推移/(図表7)有配偶率の推移
 
12 「扶養手当の在り方に関する勉強会(第2回) 資料」人事院給与局 2015-12-08

4――コスト削減に留まらない前向きな見直しを

配偶者手当の見直しは、社会的ニーズを考慮すれば合理的な流れかもしれない。しかし、手当を現在受けている人にとって、見直しは収入の減少を意味する。また、配偶者手当を含む賃金制度の変更を労使間の合意なしに行えば、労働契約法で禁止される労働契約の変更にあたる可能性も指摘されている13

国家公務員や、トヨタ自動車などの企業では、従業員の不利益を最小限とするために様々な措置が実施された。例えば、配偶者手当で削減したお金を活用した子ども手当や介護手当の支給や、削減額の基本給への組み入れ、また支給額を段階的に削減する激変緩和措置が挙げられる。こうした取り組みは厚生労働省の実務資料14にまとめられており、配偶者手当の見直しの際に参考となるだろう。

配偶者手当の見直しが単なるコスト削減に留まるのであれば、近年の賃上げの流れにも逆らうことになる。見直しは、従業員ファーストという視点で、慎重かつ丁寧に実施されることが望ましい。
 
13 「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて(実務資料編)2023年1月改訂版」厚生労働省・都道府県労働局.2023-01
14 前掲書. 厚生労働省・都道府県労働局.2023-01
 
 

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総合政策研究部   研究員

河岸 秀叔 (かわぎし しゅうじ)

研究・専門分野
日本経済

(2024年02月06日「経済・金融フラッシュ」)

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