2017年12月04日

超高齢社会の人の“移動”を支援する機器開発の動き-モーターショーに見るパーソナルモビリティやコンセプトモデル-

青山 正治

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2――登場する様々な自立歩行や移動を支援する機器群

1自立歩行を支援する機器の一例(「RT.1」(RT.ワークス株式会社))
国の成長戦略である「未来投資戦略2017」(閣議決定2017年6月9日)の報告書内に複数のテーマごとに「具体的施策」が挙げられている。その中の一つの介護分野では様々な取組により「健康寿命の延伸と高齢者の自立した生活を実現する。(P39)」とする目標が示され、「自立支援」が重要なテーマとなり様々な取組が開始されている。さて本項では介護保険における要介護の高齢者だけでなく、自立の高齢者の日常生活における自立歩行を支援する介護ロボットの一例について解説する。
図表-6 ロボットアシストウォーカーRT.1(アールティーワン) その介護ロボットとは屋外で高齢者などの自立歩行や買い物等を支援する機器である。介護ロボット分野(ロボット介護機器)の「移動支援」機器開発は、経済産業省と厚生労働省により策定された「重点分野」(現在、6分野13項目、基礎研レター2017-11-01)の1分野として2013年度より両省による本格的な開発支援事業が実施されてきた。「移動支援」分野の機器としては「屋外型」と「屋内型」に分けて開発支援が行われ複数の機器が実用化されている。特に「屋外型」は自立歩行が可能ながら足腰の筋力低下によりふらついたり、転倒リスクのある高齢者の外出や買い物の荷物の運搬にも役立つ機器が実用化されており一例を示す(図表-6)。※なお、後継のコンパクト型の「RT.2」も実用化されている。

この機器は、屋外で高齢者が活用する姿をよく見かける休息用の小型シートが付いたシルバーカーに似ている。しかしその中身は様々な安全性や利便性を確保するパワーアシスト等の機能が付加されている。具体的にはハンドルのセンサーを初め各種センサーが搭載され、IoTを活用した初期設定などにより最適なパワーアシストが自動で行なわれ、坂道の上りでは軽く押すだけで進み、下りでは制動力が働き倒れ込みも防ぎ、さらに片流れも自動で防ぎ安全で快適な外出をサポートしてくれる。買い物などの外出を支援するため10kg程度の荷物を軽い力で運べ、一般のシルバーカーのようにシートも付いており、疲れた際は座って休むこともできる。このほか、IoT活用による安全対策や利便性向上の機能も付加されている。

このような機器の、状況に応じた適切な活用によって外出や買い物を支援し、「フレイル(虚弱)」などの時期の転倒を防ぎ、外出や地域の介護予防の体操の集いなどへの参加を可能とできよう。
2様々な福祉用具や機器を活用して歩行や移動を支援しQOLの向上を
勿論、多様な状態像の高齢者にとって残存能力を維持・増進する上で適した福祉用具、例えば杖や歩行器、歩行車、シルバーカー、各種車いすの選択もある。また、それら福祉用具の活用以前にも様々なエビデンスに裏打ちされた介護予防の体操やストレッチも数多く考案されている。
図表-7 自立歩行や移動を支援する機器群の活用で期待される効果 (イメージ図) しかし、全ての高齢者にとって中長期的な加齢の進行に伴う心身の機能低下は基本的に不可避である。その心身の変化に応じて最適な福祉用具や介護ロボット等を上手に活用することは、単に低下した移動能力を補うだけでなく、様々な移動手段を得てその移動目的の実現、例えば友人たちとの茶話会に参加したり、孫や家族とピクニックに出かけることによる楽しみや生きがいを得ることを可能にできるのではないだろうか(図表-7)。

今回、1章で紹介した最新のパーソナルモビリティや複数のコンセプトモデル、さらに移動(歩行を含む)支援型の介護ロボット(ロボット介護機器)などは、超高齢社会における様々な移動手段をユーザーに提供し、その活用によって自身の活動を維持・拡大しQOL向上の大きな可能性を有していると筆者は感じている。高齢化の進行は、多様で新たな歩行支援や移動手段の提供を既に必要としている。
<参考資料>
1. 政府及び行政などの公表資料
・厚生労働省「福祉用具・介護ロボットの開発と普及 2016」(平成29年3月)
・公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具支援論  自分らしい生活を作るために 」(2006年9月)  など
 
2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-」(2016年12月27日)
・「ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向 -東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-」(2016年11月22日)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)
・「超高齢社会を支援する福祉機器-国際福祉機器展の概況と今後の福祉機器開発・活用への期待-」(2015年11月30日)
・「3年度目となる「ロボット介護機器」開発補助事業の動向 -2015年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施-」(2015年9月29日)
・「利用意向高い介護ロボット-「平成27年版情報通信白書」の介護用ロボット利用の意識調査-」(2015年8月28日)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット -紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護”の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」 (2015年4月30日)
 
3.ニッセイ基礎研究所 「基礎研レター(Web版)」
・「ロボット介護機器の『重点分野』が改訂され6分野13項目に –コミュニケーションロボットや排泄予測機器など1分野5項目を追加-」(2017年11月1日)
・「高まる介護ロボット導入による『効果的な活用』への注目度 –多くの関係者が詰め掛けた『介護ロボットフォーラム2016』 -」(2017年3月30日)
・「技術革新が進む『障害者自立支援機器』の開発 –シーズ・ニーズのマッチングを促進する重要な取組-」(2017年2月13日)
 
4.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
 
(※上記、2~4のレポート類及び、2012~2014年度の過去のレポート類は「執筆一覧」よりダウンロード可能)
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青山 正治

研究・専門分野

(2017年12月04日「基礎研レター」)

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