コラム
2019年09月11日

介護ロボットの導入・活用への着実な取組-東京都の「次世代介護機器の活用支援事業」への取組

青山 正治

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継続される介護ロボットの開発・活用促進への取組

介護ロボット(ロボット介護機器を含む)の開発・普及への国の政策的支援が本格化して7年ほどが経過した。その当初には様々な姿・形の介護ロボットが、テレビ報道等を賑わせた。なお、介護ロボットは人と協働する新しい機器のため、開発に時間がかかると同時に介護現場における活用方法の開発がとても重要である。このため、現在も経済産業省と厚生労働省が連携しつつ介護ロボット・福祉用具の開発や標準化、導入と活用の支援事業が継続されている。また、都道府県に設置される地域医療介護総合確保基金(介護分)を活用した介護施設等への「介護ロボット導入支援事業」や地方自治体による独自事業も加わり、介護ロボットの開発・導入支援事業等が推進されている。

その中で東京都の「次世代介護機器の活用支援事業」の一環で7月下旬に(公益財団法人)東京都福祉保健財団が主催する普及啓発セミナーで、同事業の活用支援への充実した取組内容等が公表された。このため本稿では、そのセミナー概要を記した後、筆者の感想や考察を簡略に記す。

東京都の「次世代介護機器の活用支援事業」の概要

東京都は平成28(2016)・29(2017)年度に「ロボット介護機器・福祉用具導入支援事業」の中でモデル施設(特養と老健の2施設)にアドバイザーを入れ、導入した介護ロボットの効果検証事業等を実施した。それらモデル事業等の内容を踏まえて平成30(2018)年度からは「次世代介護機器の活用支援事業」1の中で、東京都が「導入経費補助」を、(公財)東京都保健福祉財団が「普及啓発セミナー」等を両者が相互に連携して行う体制となった。なお、セミナーについては次世代介護機器の公募・機器購入(導入)と並行して、「導入前セミナー」、「普及啓発セミナー・公開見学会」、「導入後セミナー」、そして「アドバンストセミナー」(後述の「模範施設」育成支援)という合計4種のセミナー等が施設の機器導入・活用段階(平成31(2019)年度事業)に応じて実施されている。

2019年7月下旬に都内2カ所でこの「普及啓発セミナー」が介護関係者等向けに実施された。当初、基調講演として同事業のアドバイザー(講師)から「次世代介護機器の効果的な導入へのアプローチ」として、介護ロボットの導入から活用への段階毎の要点が分かり易く解説された。また、介護ロボット導入検討の情報収集に役立つ複数のWebサイトの情報源や、セミナーを主催する財団に複数の介護ロボットの常設展示場があり、見学や機器の体験、相談が出来ることがセミナー参加者に紹介された。

次いで以前よりモデル事業に参加してきた特養の施設長の講演に続き、事業参加の介護施設の管理職や施設長などが参加し「次世代介護機器導入における組織全体の合意形成」と題するシンポジウムが行われた。その内容は介護ロボットを操作する職員の心理的な負担感を低減したり、やる気を引出す具体的な方法など、実践的な経験に裏付けられた様々なマネジメント情報であった。

また、会場に展示された次世代介護機器(介護ロボット)の各事業者から、各機器の手短な解説やビデオ動画での説明もあり、セミナー終了後に多数の参加者が各社の機器を取り囲んだ。
 
1 東京都福祉保健局高齢社会対策部計画課「次世代介護機器の活用支援事業 平成31年度事業説明会」(平成31年3月20日)資料1を参照

印象に残ったシンポジウム登壇者のコメント

今回、筆者にはセミナー後半のシンポジウムでとても印象に残った点があった。

それは、登壇した各施設の介護現場の施設長らが、強い確信を持って話されているのに対して、参加の介護関係者が頷きながら話に聞き入り、一言も聞き逃さないようにノートを取る姿である。各登壇者は以前より東京都のモデル事業等に参加し、介護現場への介護ロボットの導入・活用に真摯に取組んでこられているが、その経験の重みがみんなをその行動に促したにちがいないのである。そこで、その取組み内容をホームページ内の資料から見てみよう。

着実な取組

恐らく、幾つもの有効な取組みがあろうが、それらの中で二つの点に目が留まった。

その一つは「次世代介護機器導入前セミナーのお知らせ」のプログラム内容にある、企業のビジネス研修等でも用いられる「課題の見える化」である。新しい機器導入というと、取りあえず介護現場に機器を設置して使ってみるという取組みが少なくないと推測される。しかし「導入前セミナー」で介護ロボットを導入する介護現場の課題を「課題の見える化」の手法でしっかりと把握し、その介護ロボットが有効かどうかを事前検討することができる。

二つ目は、「次世代介護機器の活用支援事業」の説明会資料2(2019年3月20日付け)にある前述の「アドバンスト施設」(機器の導入・活用の模範施設)への期待として挙げられている9つの視点である。それらは、(1)利用者に対するケアの質の向上、(2)アドバンストセミナーや公開見学会への協力姿勢等、(3)次世代介護機器に関する情報収集行動、(4)チームづくり、(5)多職種の連携、(6)検討の場の設定、(7)法人も巻き込んだ検討、(8)課題の共通認識、(9)導入機器の分野、である。なお、(9)は、「アドバンスト施設」に「見守り」及び「移乗介助」分野の次世代介護機器でなく、事例の少ない「移動支援」、「排泄支援」、「入浴支援」分野の機器の導入・活用を勧めるものである。

さて、前述のとおり、シンポジウムの登壇者の確信に満ちたコメントの背景には、この「アドバンスト施設」への期待にある(1)や(4)~(8)のような日常の介護現場でも重視される目標と次世代介護機器の導入・活用を融合させる取組が着実に進行しつつあると推察する。

今後の事業推進により「アドバンスト施設」がさらに増え、進化して将来的に介護施設における「次世代介護」の実現を期待したい。
 
2 出所は前頁の脚注1の資料に同じ。「アドバンスト施設に期待すること(9項目)」(P12)についてはP13~P16に解説が記載されている。
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青山 正治

研究・専門分野

(2019年09月11日「研究員の眼」)

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