コラム
2019年07月11日

新しい放送メディアの開発と超高齢社会での活用-4K・8Kの普及やパブリックビューイングの展開を期待

青山 正治

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1.新しいメディア技術を広く一般公開

毎年、5月下旬にNHK放送技術研究所(世田谷区砧)の一般公開が行われ、2019年は73回目の「技研公開2019」が開催された。同研究所は、1930(昭和5)年に開設され、現在も日本の最先端のテレビ放送技術等の開発を先導している。そして、今回も開発中の新技術が複数のブースで展示された。

毎年、開催期間中の土日の会場は小学生同士や親子連れ、学生グループ、高齢者ファンなど多彩な見学者で溢れている。筆者も以前には家族と一緒に見学してきたが、その昔、こども向け番組に登場する人気キャラクターの着ぐるみが、こどもたちに気が付いて近づいて来てくれたことがあった。TV画面に納まる小さなサイズに比べて、3次元の実物の着ぐるみは巨大で、見上げたこどもたちは眼を丸くしたが、すぐに大きな着ぐるみに抱きつき大はしゃぎした。

2.継続される近未来のメディア技術の開発

過去から技研公開で見学してきた開発中の様々な最先端の放送メディア技術には、データ放送や地上デジタル放送、スーパーハイビジョン等々があった。そして毎年の公開ごとに展示内容が完成度を増し、やがて順次、社会実装されていく一連の流れを、筆者は幾度も実感してきた。この毎年の技研公開は、放送メディアのイノベーションの歴史を体感できる貴重な機会を生活者に提供し続けている。

また、2019年の展示内容一覧を見ると多数ある開発テーマも、他の産業界と同様にSociety 5.0の技術革新テーマであるAIやIoT、さらにAR(拡張現実)、VR(仮想現実)の応用開発、最近では3次元映像の新技術となっている。さらに新たな通信技術との融合や未来の放送メディア技術の開発が動いており、今後の公開内容を大いに注目していきたい。

3.大画面のフルスペック8K映像のインパクト

ここでは大きなスクリーンで視聴できたフルスペック8K映像に絞って感想等を記す。筆者は、2018年12月より4K・8K(スーパーハイビジョン)の本放送が開始されることから、同年5月に久し振りに技研公開に出かけ、最新のフルスペック8K映像を大型スクリーンで視聴することが出来た。

そのデモ映像はバレエやフィギュアスケートの演技シーン等であったが、映像は隅々まで高精細で色彩も自然で、各人物には立体感も感じられた。さらに人の速い動きに殆どブレが感じられず、演技者をクローズアップするとその躍動感が直接伝わって来る印象で、経験したことのない感動を覚えた。また、立体音響の効果で演技終了時の爆発的な頭上の拍手で、自身も立ち上がって拍手しなければと瞬間的に錯覚した。実際の舞台等で後方の観客席からの鑑賞・観戦に比べ、大画面映像の選りすぐりのシーンが編集され、それらの印象深いシーンは今も筆者の記憶に残っている。

4. 超高齢社会での4K・8Kの日常的活用について

さて、以下では生活者の目線から超高齢社会の日常生活での4K・8Kの活用について考察する。

(1)TVやPV(パブリックビューイング)によるスポーツ観戦での活用
過去、4K・8K放送実現に向けた総務省の報告書1の「4K・8K推進のためのロードマップ」(2015年7月公表)に2020年の3つの<目指す姿>が記載され実現に向けた取組が進展している。
「4K・8K推進のためのロードマップ」2020年の3つの<目指す姿>
筆者は、2018年中に4Kの冬季スポーツのPVに感動し、4K・8Kの普及広報用の大型のスクリーンによる様々なデモ映像を複数の会場で視聴した。それらの映像は、過去のTV視聴の印象とは異なり、大変迫力があった。そして2018年12月からは4K・8Kの本放送が開始され、複数の民間放送局も4K放送を開始している。上記枠内の<目指す姿>の2番目の実現に向け、新しい超高精細映像の放送技術を活用した全国各地域でのPVやイベント開催の計画が進められている。その開催には、大型スクリーンを使った大規模な複合イベントから、地方自治体(市町村等)が大型スクリーンやTVを設置し、地域住民が一体となって観戦するなど幾つかのパターンがある。超高齢社会や人口減少の進行によって低下する地域の社会関係資本に対して有形無形の様々な効果が生じることを期待したい。
 
1 出所: 総務省「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合 第二次中間報告 参考資料」P.6~7(2015年7月公表)
(2)4K・8K技術の社会での活用の工夫
家電量販店の店頭では主要メーカーから4Kチューナー内蔵TVが出揃い、購入前の下見に訪れる家族連れも増えている。価格も50インチ前後の製品群に値ごろ感も出て、今後の普及を注視したい。

さて東京五輪2の競技観戦の点では、会場での臨場感に浸りながらのライブ観戦は価値が高い。しかし高齢者や体力に自信のない人には、夏場の競技会場への往復や人の混雑、熱中症のリスクを考慮すれば、自宅や冷房の効いた会場でのPVも価値ある選択肢であると思う。その理由は、50インチクラスのTVで観戦する競技中継は、過去のハイビジョンと比べ臨場感に富み、後方の観客席での競技観戦と比べ高い満足感もあろう。また、散歩がてら近隣の公民館のPVに出かけるのもよいだろう。

4K・8Kの超高齢社会での応用や利活用の本格化はこれからであるが、産業用途以外にも、コンテンツの受動的な視聴だけでなく、高齢者等の行動変容を促すようなコンテンツ開発の工夫も必要である。また、医療や教育領域での活用や、地域の高齢者施設向けにカラー化された過去の地域の様々なイベントシーン、例えば、地域の運動会や夏祭り等のコンテンツ活用もあり得よう。
 
2 「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」を「東京五輪」と省略表記。

<参考資料>

・「NHK放送博物館(ガイドマップ)」(2019年1月版、配布資料)・「技研公開2019」NHK放送技術研究所、(配布資料)
・総務省「4K放送・8K放送 情報サイト」(総務省のホームページ内) ほか
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青山 正治

研究・専門分野

(2019年07月11日「研究員の眼」)

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