コラム
2019年06月19日

高齢者の移動支援等を含めた日本型のモビリティ改革への期待

  青山 正治

MaaS、CASE 高齢者のQOL(生活の質) などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

1.路線バスの車内で響いた音

最近、筆者の知人から、地方への小旅行で乗車した路線バス内でおこったある出来事を聞いた。それは、数人の乗客のバスが、人通りのない農村の道を走行し、停留所に停まった際のことだという。車両先頭の乗降ドアが開いたと同時に、車内にカラン、カランという甲高い音が響いた。後方の席にいた知人は何事かと通路を覗くと、女性物の赤い杖が通路前方に転がっており、続いて運転席横の二段ある入り口のステップから、かなり高齢の女性が這い上がってきたそうだ。つまり、その音とは小柄で腰が90度近く曲がった高齢者が、ツーステップの階段を四肢で這い上がるため、乗車前に杖を通路に放り上げた音だったという。また、前席にいた幾分若い高齢女性が、杖の高齢女性の着席を助け、その後、バスは何事も無かったかのように発車した。

この話の光景は、地方で移動(買物や通院等)に苦労する高齢者の日常生活の姿と低床のノンステップバスの必要性を筆者に再認識させた。

2.高齢者の日常の移動支援策も含めた対策

この所、高齢ドライバーによる事故が多発している。このため政府も早急に交通安全緊急対策を決定した。内容は大きくは三つあり、一つ目はこどもの安全確保策で保育所周辺などにキッズゾーンの創設や安全・安心な歩行空間の整備などが盛り込まれた。残りの二つが高齢者を支える内容である。その一つ目は高齢者の安全な運転を支援する安全運転支援機能を備えた自動車(「安全運転サポート車」)のみ運転できる高齢者向けの限定免許制度を視野に入れ、詳細を検討するという。

高齢者向けの二つ目の支援策とは、日常的な高齢の生活者の移動支援策であり、全国で「相乗りタクシー」を導入したり、地方で自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」の規制を緩和するという。このほかにも自動運転バスの実用化に向けた検討も進めるという。地方では公共交通の利便性が低下し、免許を持たない高齢者や免許証を返納した高齢者の大きな課題は、買物や通院等のための移動手段の十分な確保にある。これらの様々な移動手段の確保策の実現を大いに期待したい。

3.最近、自動車や交通の分野でよく聞く2つのキーワード 

さて世界のハイテクノロジー開発競争の動向は、21世紀に突入後、デジタル技術による世界的なイノベーションが急加速した。そして巨大IT企業等の世界展開により企業経営から個人の生活面に至るまで、多様な変化が押し寄せている。その環境下で世界の自動車産業が大きな変革期を迎えている。それを象徴するのが、「CASE(ケース:Connected、Autonomous、Shared、Electric)」と「MaaS(マース:Mobility as a Service)」と呼ばれている2つのキーワードであろう。

前者の「CASE」はMobility(移動性、移動)を巡り既に世界中で開発競争が激化している重要な要素技術やサービスを束ねた内容であり、後者の「MaaS」は様々な移動サービスをICTで効率的に活用するサービスである。具体的には、前者はICTやAI・IoT等々を活用し低環境負荷のEV等で理想的な自動運転を目指す動きであろうし、後者は様々な交通(移動)サービスをスマホのアプリケーションで最適な各種交通サービスを一括して検索・予約・決済するという合理的な移動サービスである。後者は国内で様々な取組が開始され、今後の中長期の動向と成果を注目したい。

4.高齢社会の移動の課題解決で何を目指すか

筆者がこれらの動向で注目しているのは、少子高齢社会に多彩な技術革新の成果を効率的に社会実装して、様々な社会的課題を効果的に解決していけるか、という点である。今後、登場する移動サービスが買物や通院に困る高齢者の自立した生活を支援してQOLを高められるだろうか。また、様々な安全装置の導入や限定免許証の新設等で多くの交通事故発生をさらに抑制できるだろうか。

すでに国内でも新しいモビリティや都市と地方の交通サービスに関する課題検討が行われてきている。そして国土交通省を中心に総務省や経済産業省、環境省が連携しつつ、日本の都市や地方の状況に適した日本版「MaaS」の実現へ向けた実証実験への取組も多数開始されている。また同時に、様々な企業が手を組み、まちづくりや地域経済活性化を目指す動きもある。今後、既存の未活用の様々な移動手段を法改正などで有効活用しつつ、都市や地方の生活者に役立つ経済性に優れた交通システムを開発・導入し、地域ごとに有効活用することが重要であろう。

同時に、高齢者や障がい者の歩行支援や移動支援機器等の活用とリンクする取組や地域におけるラストマイルの支援、さらなるバリアフリー化の進展にも大いに期待したい。
<参考資料>

1. 政府及び行政などの公表資料
・国土交通省総合政策局公共交通政策部「日本版MaaSの実現に向けて(参考資料)」2019(平成31)年4月
・国土交通省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 中間とりまとめ」2019(平成31)年3月14日
・政府「未来投資戦略2018 -「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革-」2018(平成30)年6月15日  ほか

2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「高齢社会の深化で必要性高まる多彩なハイテク福祉機器 -「H.C.R.2018」の開発最前線に見るアートやICT、IoTの活用-」(2018年12月18日)
・「介護ロボットの『導入・利用で考えられる課題・問題』の一部再考-「平成28年度介護労働実態調査」に見る導入状況と課題-」(2018年3月14日)
・「小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-」(2016年12月27日)  ほか

3.ニッセイ基礎研究所 「基礎研レター(Web版)」※:紙出力の「ニッセイ基礎研REPORT」へ転載
※「超高齢社会の人の“移動”を支援する機器開発の動き –モーターショーに見るパーソナルモビリティやコンセプトモデル-」(2018年2月冊子版)
・「超高齢社会の人の“移動”を支援する機器開発の動き –モーターショーに見るパーソナルモビリティやコンセプトモデル-」(2017年12月4日)
・「ロボット介護機器の『重点分野』が改定され6分野13項目に -コミュニケーションロボットや排泄予測機器など1分野5項目を追加-」(2017年11月1日)
・「高まる介護ロボット導入による『効果的な活用』への注目度 –多くの関係者が詰め掛けた『介護ロボットフォーラム2016』 -」(2017年3月30日)

4.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ユニークな歩道領域の自動運転システム開発への取組 -高齢社会のラストマイルを支援しユーザーのQOLを向上-」(2019年3月5日)
・「こどもたちの瞳に映る“介護の未来”シーン -厚生労働省の「こども霞が関見学デー」に見るこどもたち- 」(2018年8月30日)
・「ロボット介護機器の『重点分野』が改定され6分野13項目に -コミュニケーションロボットや排泄予測機器など1分野5項目を追加-」(2017年11月1日)

(※上記、レポート類及び、過去のレポート類は「執筆一覧」よりダウンロード可能)
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

青山 正治

研究・専門分野

(2019年06月19日「研究員の眼」)

アクセスランキング

レポート紹介

【高齢者の移動支援等を含めた日本型のモビリティ改革への期待】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

高齢者の移動支援等を含めた日本型のモビリティ改革への期待のレポート Topへ