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- 新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-
近年、多様な介護ロボット等が姿を現す中、福祉用具にも注目される先進的な機器が登場してきている。それらは新規の技術開発やICTの活用によって、従来、実現困難であったことを可能とし、利用者のQOL向上に大きく寄与する機器群である。
本稿ではそれら福祉用具等の中から、筆者が注目する3機種についてその特長や活用の効用などに触れ、それらの開発の背景や共通点などについて簡略に考察する。
■目次
はじめに
1――福祉用具の概要
2――技術革新が進む福祉用具
1|電動車いす「WHILL」(肢体障害者用):(WHILL株式会社)
2|分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」:(株式会社オリィ研究所)
3|卓上型対話支援システム「comuoon(コミューン)」
:(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社)
3――ユーザー目線での機器開発と真のユーザー・ニーズ把握に向けて
1|3機種の開発・実用化に見る共通点
2|真のユーザー・ニーズの把握に向けて
おわりに
はじめに
本稿ではそれら福祉用具等の中から、筆者が注目する3機種についてその特長や活用の効用などに触れ、それらの開発の背景や共通点などについて簡略に考察する。
1――福祉用具の概要
「福祉用具」という用語は、平成5(1993)年10月に施行された「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(以降、福祉用具法)」の第二条で「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう。」と定義されている。具体的には車いすやリフト等の一般的な福祉用具の他にも治療訓練用具(リハビリテーション用など)や障がい者用の補装具(義肢・装具など)など、非常に幅広い製品群2を含んでいる。また、この法律が施行される以前には福祉機器や介護機器、介護用品等々の様々な呼び方がされており、その経緯から現在も福祉機器などの呼び方がされるケースもある。
また、様々な福祉用具を真に必要とする人には国や自治体による支援策が設けられている。介護保険の居宅サービスの一つである福祉用具貸与事業では、現在、介護保険適用が認められた車いすから自動排泄処理装置までの13種目に含まれる多数の福祉用具が、要介護(要支援を含む)認定を受けた人(機器ごとに要介護度や状態像の要件もある)へ、通常のレンタル費用の1~2割の自己負担で貸与されている。このほかにも、他の法律等によって補装具や日常生活用具等の各種支援事業がある。
このような福祉用具等の開発にも近年、技術革新による新たな機器が登場しており、次章で触れる。
1 本稿では明確な定義がされていない介護ロボット等を含む場合は福祉用具等、福祉用具法に準ずる場合は福祉用具と表記する。
2 国内における福祉用具の分類には、福祉用具の国際規格(ISO9999)を元としつつ公益財団法人テクノエイド協会による分類コード(CCTA95)があり、登録された福祉用具が同協会の情報システムTAISで情報提供されており、ホームページより検索ができる。
2――技術革新が進む福祉用具
図表-1の近未来的なデザインの機器は、WHILL株式会社が製造を行い、グッドデザイン大賞2015(内閣総理大臣賞)のほか多数の賞を受賞している電動車いすである。
<特長等>
特長の一つ目は、四輪駆動であるためデコボコ道や芝生などを走破できる点にある。前輪がオムニホイールと呼ばれる特殊な構造の車輪で、進行方向に対して横方向にも回転するため小回りが効き、その場での旋回(最小回転半径70センチメートル)も行なえる。二つ目の特徴は、7.5センチメートルまでの段差であれば、安全に乗り越えることができ、10度の傾斜を上ることもできる点である。従来の電動車いすでは、未舗装道路や芝生の走行、さらに段差を乗り越えるということが困難であったが、この機器はそれらの制約を技術力で突破して、ユーザーに新たな価値の提供を実現している点が注目される。
<操作方法>
筆者は過去、展示会において同機に試乗したが、初めて乗った時点から自由自在に動かすことが可能であった。その操作については、右アーム上部にあるパソコンの小型マウスのようなコントローラーを使ってスタート・ストップと方向転換を極めて簡単に行なうことが出来る。スピードは左アーム上部のレバーで3段階の調整が可能(最高速度6km/h)であり、勿論、歩道を走行することができる。さらに、部屋の隅などに置いてあるWHILL Model Aへ、下肢の不自由な人が移乗する際には、手許にあるアイホンやアイパッドで専用アプリを使って、自身の傍らへ呼び寄せる遠隔操作も可能である。これらはユーザー目線での使い勝手の良さの追求の結果であろう。
<効用・その他>
この走破能力を高めた高機能でスタイリッシュな製品の効用は、従来の電動車いすの制約された活動範囲を大幅に拡大できる点にあり、利用者のQOL向上に大きく寄与できよう。
また同機は2014年9月から販売が開始され、2015年7月には介護保険制度の福祉用具貸与の対象商品となっている。さらに、2016年2月には米国FDAより医療機器として認可がおり、今後の中長期的な事業拡大が大いに期待されよう。
図表-2の高さ20センチメートルの小型ロボットは、コミュニケーションを支援する「分身ロボット」で、この「分身」とは、利用者の代理を意味している。開発者は「心の車いす」とも表現する。
<特長等>
このロボットの特徴的な顔のデザインについての開発者の意図は、「様々な表情に見える」能面を参考にしたという。本体にはマイク、スピーカー、カメラ(眉間上)を内蔵し、ネットを使ってビデオ通話ができる。さらに、スマホやPCで専用アプリを使って首を上下左右に自由に動かして、内蔵カメラで見たいところを見ることが出来る。また、モーションボタンを使って簡単に「手を挙げる」「拍手する」などの感情表現が可能である(図表-3)。
<活用例>
この「分身ロボット」の活用について、実際の活用シーンを交えて触れてみよう。ある小学生が入院を余儀なくされたが、このオリヒメを導入し、家庭の団欒の場にオリヒメの姿で加わった。病院のベッド上の小学生は、ネットを経由して家族の姿を端末で見ながら会話に加わり、モーションボタン(図表-3のパッド端末の画面右端縦のボタン)を使ってオリヒメを動かし自分の存在感をアピールしつつ、離れたところに居る家族とのコミュニケーションを大いに楽しんだ。
<効用等>
開発者によると、この開発コンセプトは「孤独感の解消と社会参加」であるという。オリヒメの機能をフル活用することで、さらに多様な活用シーンが広がろう。スマートフォンなどのビデオ会話を超える、深みのあるコミュニケーションの実現で、“参加している”という感覚が得られ、利用者とその場に居合わせる人々のQOLを高めることに寄与しよう。様々なレンタル制度も設けられているので、さらに多様な活用方法が生み出されることを期待したい。
(2016年05月26日「基礎研レポート」)
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