2025年03月05日

「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年3月時点)

金融研究部 主任研究員 吉田 資

文字サイズ

(2) 「千代田区」
「千代田区」では、内幸町一丁目街区では、都心最大となる総延床面積約110万m2の開発プロジェクトが進行中である。同街区の南地区では、第一生命保険、中央日本土地建物、東京センチュリー、東京電力パワーグリッドが、地上43階建ての「サウスタワー」(延床面積約31万m2)を開発中で、2028年度に竣工予定である(図表-16 ①)。

また、同街区の中地区では、NTT都市開発・公共建物・東京電力パワーグリッド・三井不動産が地上46階建ての「セントラルタワー」(延床面積約37万m2)を開発中で、2029年度に竣工し、北地区では、帝国ホテルと三井不動産が地上46階建ての「ノースタワー」(延床面積約27万m2)を開発中で、2030年度に竣工する予定である19

大手町2丁目では、三菱地所が地上62階建ての「Torch Tower」(延床面積55万m2)を開発中で、2028年3月に竣工予定である20(図表-16 ②)。同ビルは、2023年竣工の「麻布台ヒルズ森JPタワー」を超えて日本一の高さ385mとなる計画である。
図表-16 「千代田区」・「中央区」におけるオフィス開発計画
 
19 「TOKYO CROSS PARK構想」HP
20 三菱地所株式会社「「Torch Tower」新築工事着工」(2023年9月27日)
(3) 「中央区」
「中央区」では、八重洲1丁目で東京建物が、地上51階の複合ビル(延床面積約23万m2)を開発中で、2025年度に竣工予定である21(図表-16 ③)。また、東京建物、東京ガス不動産、大成建設、明治安田生命保険は、「八重洲一丁目北地区」の南街区で地上44階の複合ビル(延床面積約19万m2)を開発中で、2029年度に竣工予定である22(図表-16 ④)。

八重洲2丁目では、鹿島建設、住友不動産、都市再生機構、阪急阪神不動産、ヒューリック、三井不動産が地上43階建ての複合ビル(延床面積約39万m2)を開発中で、2029年1月に竣工予定である23(図表-16 ⑤)。

また、日本橋1丁目で、三井不動産と野村不動産が、MICE 施設を含む地上52階の複合ビル(延床面積約37万m2)を開発中で、2026年度に竣工予定である24(図表-16 ⑥)。
 
21 東京建物HP「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業」
22 東京建物「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」新築着工東京駅直結、首都高地下化により生まれ変わる日本橋川沿岸に水辺空間が誕生」(2024年12月10日)
23 八重洲二丁目中地区市街地再開発組合・鹿島建設株式会社・住友不動産株式会社・独立行政法人都市再生機構・阪急阪神不動産株式会社・ヒューリック株式会社・三井不動産株式会社「「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工~都心最大級「東京駅前3地区再開発」の集大成、ミクストユース型プロジェクトが始動~」(2024年8月26日)
24 三井不動産株式会社・野村不動産株式会社「「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工」(2021年12月7日)
(4) Aクラスビルの新規供給見通し
三幸エステートの調査によれば、新規供給量は、2025年約15万坪、2026年約13万坪となり、過去10年(2015年から2024年)の年間平均供給量(13万坪)と同水準となる見通しである。2027年は一旦落ち着くが、2028年以降、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給は、2028年に約15万坪、2029年には約28万坪に達し、過去最高水準を更新する見通しである(図表-17)。
図表-17 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し
3-2.Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し
東京都の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境についてはオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」では人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、都心のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。

一方、「テレワーク」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続すると考えられる。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブースやリフレッシュルームを充実させる等、テレワークを取り入れた働き方に即した利用形態が増加するだろう。また、働き方の多様化を進むなか、引き続き「サードプレイスオフィス」市場の拡大が予想される。

また、人手不足等を背景に、従業員間のコミュニケーション促進や従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指し、ビルグレードアップを図るオフィス環境の整備は続くと見込まれる。

以上の状況を踏まえると、都心部のオフィス需要は底堅く推移すると見通しである。

こうしたなか、都心部では、多くの大規模開発が進行中である。2027年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2029年は28万坪の大量供給が予定されている。

以上を鑑みると、東京都心部A クラスビルの空室率は、2027年まで改善基調で推移し、その後は上昇に転じることが予想される(図表-18)。Aクラスビルの新規供給は続くものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要は堅調で、空室率は3%~6%のレンジで推移すると見込まれる。成約賃料は、安定的な需給環境のもと上昇基調で推移し、2024年の賃料を100とした場合、2025年に105、2028年に114、2029年に110となる見通しである(図表-19)。
図表-18 東京都心部Aクラスビルの空室率見通し
図表-19 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月05日「不動産投資レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年3月時点)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年3月時点)のレポート Topへ