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2025年07月08日

わが国のホテル投資市場規模(2024年)

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.340]

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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1―はじめに

日本の不動産投資市場は、J-REIT市場の開設以降、拡大が続いている。特に、ホテルに対する不動産投資家の関心が高まっている。

そこで、本稿ではニッセイ基礎研究所と価値総合研究所が共同で実施したわが国の不動産投資市場規模(収益不動産ストック)に関する調査*1のうち、「ホテル・旅館」に関する推計結果の内容を詳細に報告する。
 
*1 吉田資・室 剛朗・藤野 玲於奈・宮野 慎也 『わが国の不動産投資市場規模(2024年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024 年12 月27日)

2―ホテル・旅館の資産規模の推計結果

2-1│概要
ホテル・旅館の「収益不動産ストック」を把握するため、(1)現存するものすべてを対象とする「収益不動産」、(2)機関投資家の投資意欲が特に強い立地要件を満たす「投資適格不動産」のカテゴリーに分類し、推計を行った[図表1]。
[図表1]「収益不動産ストック」の定義(ホテル・旅館)
ホテル・旅館の資産規模は、「収益不動産」で約17.0兆円(前年比+71%)、「投資適格不動産」で約11.7兆円(前年比+58%)と推計された[図表2]。2024年は、NOIの大幅な回復とキャップレートの低下を受けて、前回調査から大幅に拡大し、「収益不動産」、「投資適格不動産」ともに過去最高水準を更新した。

不動産投資市場の将来を見通す上で、「不動産証券化」の視点は重要である。そこで、各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で14%、「投資適格不動産」で16%となり、2021年調査(「収益不動産:14%」、「投資適格不動産:7%」)とほぼ同じ水準であった。
[図表2]「ホテル・旅館」資産規模の推移
次に、ホテル・旅館の「収益不動産ストック」に対する年間の取引量(以下、市場回転率*2)を確認する。市場回転率は、不動産投資市場における市場流動性の高低を表していると考えられる。

RCAによれば、ホテル・旅館の年間取引額(全国)は、ファンドバブルと言われ活況を呈した2007年には約7,300億円に達した。その後、リーマンショックや東日本大震災等の影響により取引額は低迷したが、2013年にスタートしたアベノミクス以降、国内外の投資資金が流入し、増加傾向で推移していた。しかし、コロナ禍の影響を受けて、2020年の取引額は、約2,700億円(前年比▲47%)と半減した。その後、急速な宿泊需要の回復に伴い、取引額も2023年以降大幅に増加し、2024年は約9,000億円(前年比+20%)となり、過去最高水準を更新した[図表3]。

2007年から2024年のホテル・旅館の平均年間取引額は、全国で約3,600億円、政令指定都市+中核都市で約2,800億円であった。これに基づく平均市場回転率は、「収益不動産」で2.1%、「投資適格不動産」で2.4%と推計される。

時系列でみると、「収益不動産」の市場回転率は、2.5%(2021年)→2.5%(2022年)→7.5%(2023年)→5.3%(2024年)と推移しており、2023年以降大幅に上昇している。2023年以降、米国の平均市場回転率(約4.5%)を上回っており、流動性が急速に高まっている。
[図表3]ホテル・旅館の取引量(2007年~2024年)
 
*2 「市場回転率」=年間取引額÷収益不動産ストック
2-2 │エリア別にみたホテル・旅館の「収益不動産」
ホテル・旅館の「収益不動産(17.0兆円)」を都道府県別にみると、「東京都」が約5兆6,200億円(占率33%)と最も大きく、次いで「大阪府」が約1兆8,600億円(同11%)、「神奈川県」が約9,700億円( 同6%)、「京都府」が約8,900億円( 同5%)、「北海道」が約8,500億円(同5%)と推計された。

次に、都道府県別に収益不動産(全体)のうち、J-REITが保有する比率(J-REIT保有比率)を確認すると、「沖縄県」(55%)が最も高く、次いで「奈良県」(50%)、「石川県」(41%)、「山梨県」(33%)、「大分県」(31%)、「栃木県」(30%)の順に高い。

続いて、都道府県別に平均市場回転率*3を確認すると、「千葉県」(5.3%)が最も高く、次いで「沖縄県」(5.1%)、「広島県」(4.4%)、「石川県」(3.9%)、「奈良県」(3.9%)の順に高い[図表4]。

沖縄県は、J-REIT保有比率、市場回転率ともに高位であり、一定の資産規模(約4,700億円)を有している。沖縄県では、投資資金の流入が活発なホテル開発を下支えした可能性がある。

また、「東京都」や「神奈川県」、「京都府」、「愛知県」、「兵庫県」、「埼玉県」は一定の資産規模を有している一方、J-REIT保有比率ならびに市場回転率が低水準に留まっており、証券化拡大の余地は大きいと考えられる。
[図表4]「収益不動産」、「資産規模」、「J-REIT保有比率」、「市場回転率」
 
*3 各都道府県の平均年間取引額(2007年から2024年)÷各都道府県の収益不動産の資産規模

3―「収益不動産」の市場規模と延べ宿泊者数の関係

最後に、ホテル・旅館需要を示す指標の一つである「延べ宿泊者数」と収益不動産の資産規模の関係を確認した。

「延べ宿泊者数」を都道府県別にみると、「東京都」(約9.9千万人泊)が最も多く、次いで「大阪府」(約5.1千万人泊)、「北海道」(約4.0千万人泊)、「沖縄県」(約3.3千万人泊)、「京都府」(約3.2千万人泊)の順に多い[図表5]。

また、「外国人比率」(「延べ宿泊者数」に占める外国人の割合)は、「東京都」(43.9%)が最も高く、次いで「京都府」(37.8%)、「大阪府」(37.0%)、「福岡県」(23.8%)、「北海道」(18.0%)の順に高い。そのほか、「山梨県(17.9%)」、「大分県(17.1%)」、「岐阜県(15.6%)」も相対的に比率は高い。
[図表5]延べ宿泊者数と外国人比率
図表6(左図)は「延べ宿泊者数」と「収益不動産の資産規模」の関係を示しており、正の相関が強く、線形近似曲線に従うことがわかる。具体的には、「延べ宿泊者数」が1万人増加すると、「収益不動産の資産規模」が約4.8億円拡大する関係がみてとれる。需要が安定的に大きい地域では客室が多く整備される、もしくはADR(客室平均単価)が高いと推察される。

「延べ宿泊者数」を「外国人」と「日本人」に分けて、「収益不動産の資産規模」との関係をみると、「外国人」の方が、傾きの絶対値が大きく、相関係数も大きい結果となり、外国人延べ宿泊者数の多い都道府県では、収益不動産の資産規模が大きい傾向がみられた[図表6(中央図・右図)]。
[図表6]収益不動産の資産規模と延べ宿泊者数の関係
政府は2024年4月に行われた「第23回観光立国推進閣僚会議」において、2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人に、訪日外国人旅行消費額を15兆円に増やす方針を示した。

収益不動産の資産規模が比較的小さい一方、外国人比率の高い都道府県(山梨県や岐阜県、福岡県、大分県等)は、収益不動産の資産規模拡大が期待される[図表7]。
[図表7]収益不動産の資産規模と延べ宿泊者数における外国人比率の関係(東京都除く)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月08日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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