2024年07月29日

2024年度トリプル改定を読み解く(中)-重視された医療・介護連携と急性期見直し、政策誘導の傾向鮮明に

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

医療・介護・障害福祉サービスの公定価格の新たな体系が2024年6月からスタートした。今回は医療機関向け診療報酬本体が2年ぶりに改定されたほか、3年サイクルで見直されている介護報酬、障害福祉サービス報酬も変更された(いわゆる「トリプル改定」)。トリプル改定を総括する3回シリーズの(上)では、物価上昇に対応する賃上げに関連し、改定率を巡る攻防や内容を検討したほか、生活習慣病に関する加算の見直しとか、不可解な訪問介護の基本報酬引き下げなどをピックアップした。

今回の(中)では、急性期医療や高齢者救急の見直し、多職種連携の促進など提供体制改革を医療、介護の両面に渡って横断的に検討する。特に、今回の改定で特筆できる点として、診療報酬と介護報酬を話し合う審議会による意見交換会が例年以上に綿密に実施され、医療と介護が重なる部分について見直し論議が進んだことが挙げられる。具体的には、意見交換会では9つのテーマが議論され、高齢者救急の見直しに関して、医療機関と介護保険施設の連携を促すテコ入れ策が診療報酬、介護報酬の両面で講じられた。外来や介護予防の分野でも専門職同士の意思疎通を密にするための改定が実施された。こうした点を本稿では取り上げる。

さらに、高齢者救急の見直しは急性期医療の適正化という長年の懸案も絡んでおり、ICU(集中治療室)の厳格化など関連する報酬改定を取り上げることで、医療提供体制改革を診療報酬の見直しで進める動きが一層、強まった点を指摘する。その上で、報酬改定による誘導のメリットとデメリットを整理しつつ、医療・介護について様々な提供体制改革を現場で担う自治体の主体性が問われる可能性を論じる。

最終回となる(下)では、医師の長時間労働を見直すため、2024年4月に本格施行された「医師の働き方改革」に関する改定とか、医療と障害者福祉の連携などをピックアップした上で、主に診療報酬改定に関して、審議会の議論がバイパスされている動向や背景などを取り上げる。

■目次

1――はじめに~重視された医療・介護連携と急性期見直し、政策誘導の傾向鮮明に~
2――膨大な改定資料
3――医療・介護・福祉の連携に関わる経緯
  1|6年前、12年前と比べると…
  2|ダブル改定ではなく、トリプル改定を意識
  3|9つのテーマの内容
4――医療・介護連携の全体像
5――急性期医療、高齢者救急の改定内容
  1|地域包括医療病棟の創設
  2|協力医療機関の義務化
6――入退院支援、看取取りや在宅、外来などの改定内容
  1|入退院支援、看取りでの連携
  2|外来、在宅での連携
  3|リバビリテーション、口腔、栄養でのテコ入れ
7――過去の改革や改定との対比を通じた考察(1)~急性期医療の見直し~
  1|2006年度改定から地域医療構想の制度化、2022年度改定までの流れ
  2|地域包括医療病棟の政策的な意味合い
  3|協力医療機関の政策的な意味合い
  4|またもや公益裁定となった7対1基準の数値見直しを加味すると…
  5|ICUの要件厳格化も
  6|DPCの要件厳格化など
  7|急性期医療の見直しという共通点
8――過去の改革や改定との対比を通じた考察(2)~入退院支援や看取り、外来、在宅など~
  1|地域医療構想、かかりつけ医の機能強化、過去の改定
  2|介護予防の強化
  3|今回改定の政策的な意味合い
9――強まっている診療報酬改定による誘導の傾向
  1|「地域の実情」に応じた体制整備と報酬改定の関係性は?
  2|元々は報酬改定による誘導の限界が話題に
  3|強まる政策誘導型改定の傾向
10――おわりに

(2024年07月29日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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