2024年06月12日

2024年度トリプル改定を読み解く(上)-物価上昇で賃上げ対応が論点に、訪問介護は不可解な引き下げ

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

医療・介護・障害福祉サービスの公定価格の新たな体系が2024年6月からスタートした。今回は2年サイクルで改定されている医療機関向け診療報酬本体と、3年周期で変更されている介護報酬、障害福祉サービス報酬の見直しが同時に到来した(いわゆる「トリプル改定」)ことで、医療・介護・障害福祉にまたがる領域に関して、多機関・多職種の連携を促す見直しが講じられた。

さらに、今回の改定では、物価上昇に伴って現場の専門職の賃上げ対応も大きな論点となり、近年よりも高いプラス改定率になった。これは長く続いたデフレ下では見られなかった事象であり、「潮目」の変化と理解できる。このほか、急性期病床の見直しなど医療提供体制改革とか、訪問介護の基本報酬カットなど、トリプル改定には多くの論点がある。

そこで、本稿では3回シリーズで、トリプル改定の論点を読み解く。第1回の今回は医療、介護、障害福祉の横断的なテーマとして、賃上げ対応が話題になった点を取り上げた上で、その結果や意味合いを考える。具体的には、賃上げに関する財源確保や方法などについて、与党や財務省、日本医師会による激しい攻防が交わされたため、その経緯を振り返る。さらに、診療報酬本体の改定率がプラスになった「見返り」のような形で、生活習慣病関係の加算見直しも決まったため、その内容も検討する。

このほか、訪問介護の基本報酬を引き下げる不可解な決定に対し、現場や業界団体の不満が渦巻いており、その経緯なども考察する。(中)では急性期病床や高齢者救急の見直し、多職種・多機関連携の促進など提供体制改革を医療、介護、障害福祉に渡って横断的に検討する。(下)では医師の超過勤務削減を目指す「医師の働き方改革」などの論点とか、審議会の議論をバイパスする動きが継続した点などをピックアップする。

■目次

1――はじめに~2024年度トリプル改定を読み解く、物価上昇で賃上げ対応が論点に~
2――トリプル改定の全体像
  1|診療報酬本体はプラス0.88%、介護は1.59%プラスの改定
  2|診療報酬と一部の介護報酬は6月改定に移行
  3|複雑に入り組んだ診療報酬の「ミシン目」
3――改定率を巡る攻防
  1|骨太方針の文言の変化
  2|財務省の調査と主張、その反響
  3|与党のプレッシャーと改定率を巡る政治過程
4――診療報酬改定に対する評価
  1|賃上げ、インフレ対応の評価
  2|複雑な加算体系
  3|賃上げ対応を加算で縛る手法の利点と欠点
  4|生活習慣病関係の報酬見直し
  5|生活習慣病関係の報酬見直しの影響
5――介護・障害福祉の報酬改定に対する評価
  1|改定率に対する評価
  2|処遇改善加算の簡素化
  3|訪問介護の基本報酬引き下げと、現場・業界団体の反発
  4|訪問介護の基本報酬引き下げに関する国の説明
  5|やっぱり不可解?国の説明
  6|リフォームした家を再び建て増し?
  7|不可解な説明が続く理由は?
6――おわりに

(2024年06月12日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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