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2021年 都道府県・人口動態解説(下)-男女移動純減差が示す「ニッポン労働市場の大きな課題」
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
1――正確な人口動態の把握なくして、地方創生はならず/これまでのまとめ
21年の人口移動を実数で正確に把握すると、47都道府県中37道府県において移動による人口の純減現象(転出超過)合計9万7165人が発生した。対して、残りの7都府県では、同数の人口が純増(転入超過)した。
転出超過となった37道府県における人口減の性差をみると、平均で男性の1.36倍の女性が減少した。男性4万1257人に対して女性は5万5908人減少している。また、37道府県のうち男性よりも女性が多く減少したのは30道府県(うち女性のみ減少が3道県)となり、転出超過となった道府県のうち約8割の自治体において、男性を超える女性を失ったという状況である。
男女の転出超過格差が顕著だったのは、鹿児島県(男性の約39倍の女性が減少)、熊本県(増加した男性の約11倍の女性が減少)、北海道(増加した男性の約7倍の女性が減少)であり、これらの転出超過状況を具体的な数字で確認することにより、それぞれの自治体における人流の性差の深刻さを垣間見ることができる。
次に、自治体を広域エリアでみると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)が人流に関しては一強状態であることが見えてくる。
21年に転入超過(社会増)となった10都府県合計では9万7165人が増加したが、そのうち東京圏だけで8万1699人も純増している。転入超過による増加数の実に8割超が東京圏において発生しているのである。
コロナ禍の2021年においては、以下の2点が示された。
(1) 東京都における社会増が女性だけによってもたらされた
(2) 東京圏の人口集中力の強さが明確となった
感染回避で人口の出控えが続いた21年においてさえも、ほかの三大都市圏と呼ばれる大阪圏(大阪府,兵庫県,京都府,奈良県 ▲4912人)や名古屋圏(愛知県,岐阜県,三重県 ▲1万914人)はコロナ禍前にほぼ匹敵する人口の社会減の状態であり、東京圏以外は大都市圏においてさえも、人口の定着に関して大きな課題を抱え続けていることが浮き彫りとなった。
以上の結果を受けて、シリーズ「2021年 都道府県・人口動態解説」の最後となる(下)では、この人流の男女格差が彼らのライフデザイン上、「どのタイミングで発生しているのか」に焦点をあて、人流の実態データに基づいて解説する。
分析結果からは、ニッポンが抱える人流が示す「根本的な課題」の解決なくしては、地方創生はおろか、少子化対策も奏功しないだろうことが浮き彫りとなっている。
2――人流の年齢分析が語る深刻な「女性の労働の居場所問題」
21年はコロナ禍が長期化するなかで、平常時よりも慎重かつ覚悟をもって移動した人の割合が高い、つまり根源的な(容易には動かしがたい)人流を浮き彫りにしたデータといえるだろう。
「できれば感染を回避したい」という意識が感染拡大前よりも強く働く状況下での決意となるため、より覚悟の強い傾向をもつ移動の結果であり、自治体が人口問題に取り組む上で、看過してはならない課題を示唆しているといえるだろう。
21年の移動による年齢ゾーン別の転出超過状況を37道府県合計で示したい。まずは男性から見てみよう(図表1)。
男女合計では37エリアが転出超過であったが、男性のみの転出超過は35エリア1となる。
最も純減しているのは30代前半の▲7062人で、以下30代後半▲5342人、10代後半▲5271人、20代後半▲5182人、20代前半▲4060人、と続く。
しかし、(上)で解説したように、社会減エリアでは男性の1.36倍の女性が減少している。つまり、純減要因の約6割が女性減に因るものであること、そして何よりも、そのエリアで女性が減少するということは、そのエリアで生まれる「ふるさと人口」の未来も生物学的に期待できないことから、少子化対策、未来の人口対策として、男性よりも女性の人流を最優先課題とすべきことは間違いないだろう。
続いて、男女で違いがあるのかを確認するために、女性の年齢ゾーン別の転出超過状況を見てみよう(図表2)。男女合計で転出超過となったのは37道府県であるが、女性だけにフォーカスすると38道府県2に増加する3。
男性のグラフと比較してみると、その違いは明確である。女性の転出超過は圧倒的に20代前半に集中しており、ほかの年齢ゾーンとの格差が非常に大きい。
20代前半の▲4万416人に続いて、10代後半が▲1万3961人、20代後半が▲8136人となっており、女性全体の純減に対する20代前半女性の純減寄与率が72%にも達するという状況である。
1 ちなみに男性転入超過=増加エリア12エリアは、増加数が少ない順に、熊本県・北海道・滋賀県・長野県・山梨県・群馬県・大阪府・茨城県・福岡県・千葉県・埼玉県・神奈川県であった。
2 ちなみに女性が転入超過(増加)した9エリアは、宮城県・山梨県・滋賀県・福岡県・大阪府・東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県であった。
3 誤解しやすいが、男女合計で純減したエリア数と男女別の純減エリア数は一致するとは限らない。
例えばABCの3エリアがそれぞれ-100人純減したとして、Aだけは男女の純減・純増がプラスマイナス一致せず、男性+130人、女性-230人であるならば、男女別にみると、Aエリアは男性純減エリアにはカウントされない。
女性の年齢ゾーン別の転出超過に関してあまりにも顕著な傾向がみられることから、さらに詳細を各歳ベースで見てみたい。
10代後半から20代後半で人口減少の山を描いている(図表2)ことから、15歳から29歳の各歳の減少数でランキング表を作成した(図表3)。その年齢ゾーンタイミングでの住居地の変更が示唆するライフデザイン上のイベント(推定)についてもランキングにあわせて表記するようにした。
図表からは、4年制大学卒業後の就職のタイミングでの住民票の移動(転出)が圧倒的に多いことが示されており、純減全体に対して実に1/3の影響力を及ぼすレベルとなっている。
20年の女性の4年制大学への進学率は51%(男性は57%で僅差)であることから、女性の約半数は高校卒または専門学校卒であるともいえる。従って、2位の18歳での移動も、大学進学による転出超過だけでなく、高卒での就職による転出超過も含まれることに注意したい。また、3位の20歳も専門学校や高専の卒業者の就職年齢となる。
そもそも大卒=高学歴というような考え方は、4年制大学進学者が男女ともに半数を超える令和時代においては、時代遅れといえるだろう。大卒は統計的に見ればもはや高学歴ではなく、普通である、ともいえる。
また、1位と3位の状況からは、大卒女性のちょうど半数の高専・専門・短大卒の女性が地元から失われていることがわかる。大卒女性に限らず、あらゆる教育課程を経た女性が、自らの地元に仕事を見出せず、職業選択において地元が彼女たちから選ばれていない、ということを暗示しているデータであると感じるのはおそらく筆者だけに限らないだろう。
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