コラム
2025年03月24日

若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【未婚化時代の東京都の『若者』の声の重要性】

筆者は研究テーマの関係上、2024年も青森県から山口県まで東奔西走した。その中で、20代人口の就職期の流出が地方の社会減(転入―転出<0の転出超過)が婚姻減へ、そして出生減へと連鎖し、もはや社会減が自然減に直結ともいえる人口動態にあることを痛感している(詳細分析は別途)。
 
令和時代の現在、東京都は「20代人口の就職聖地」として「全国の若者人流のデッドエンド」となっており、その東京都の若者の考え方が、今後の日本の就職、結婚、出産のトレンドを築いていくことが予想される。

ただ、東京都は長く住み慣れた地元を離れて、食文化、言語などを含む「普通」が異なる若者が就職期に集うことによって形成される、いうなれば「日本一の20代多民族国家」ともなっている。つまり、若者の数や密度は日本一であっても、地元を離れて新たな土地で、新たな社会人生活を始めることとなる20代の若者たちの「出会い」が、そう簡単に発生するわけではないことは想像に難くない。

そこで、この令和時代に東京都に集う若者たちが、一体どのような出会い方を求めているのか、興味深いデータを紹介してみたい。

【デジタルジェネレーションの出会い方】

東京在勤の若者が交際に関して求める出会い方の1位は「友人・知人からの紹介」で、2人に1人以上(54%)の支持を得た1

これは、昭和では珍しくなかった上司や親からの紹介と同じではないのかと言われそうだが、実は全然違っている。

厚生労働省の人口動態調査を分析すると、初婚同士の結婚において「同年齢婚」が群を抜いて多く(23年・22%、5.3万件)、次に男性1歳上(3.3万件)、女性1歳上(2.5万件)の結婚が続いているのである(1歳差までの結婚で全体の48%)。つまり、お互いが受けてきた教育、そして急速に進むデジタル化の中で、情報収集力が近似しているほぼ同年齢の出会いが最も成婚につながっているという状態ともいえるだろう。このため、友人・知人からの紹介といった「自分と近い年齢の人を紹介してくれる可能性が高そうな出会い方」に期待するのは、妥当な考え方ともいえる。
【図表】東京在勤18~34歳 交際を考えるにあたり「出会い面」であればよいと思うもの
しかし、東京都において地方から就職で20代前半を主として集まる2男女の半数が支持する「友人・知人」経由の出会いを都内において短時間で新規に作るには、地元に残った同世代たちに比べるとかなり難しい側面がある。先に述べたように、東京都は20代の「多民族国家」化が進んでいる場所だからである。
 
そういった中で、出会いにおいてあればよいと思う2位が「信頼性が高くリーズナブル3なマッチングアプリ」43%となっていることも納得感が強い。

東京都に就職で出てきて、生活面、仕事面の双方の大きな環境変化で多用な中で、場所と時間を選ばず出会いを探せるメリットは極めて大きい4。ただ、「信頼性が高く」という条件は非常に重要で、デジタルジェネレーションの男女にとってアプリにおける相手情報の信頼度の付加価値は高い。

一般的に民間のマッチングアプリとして知られる媒体は、「独身証明書」という自治体が発行している「私は既婚ではありません」という公的証明書の提出を登録時に必要としていない(このため、独身証明書の存在を知らない男女も少なくない)。つまり、いまだスマホの向こう側に並ぶ相手が既婚であるかどうかの確認をシステム上では確信出来ない状態が主流である。
 
こういった中で、「安心安全な出会い」を強く求める声が若者からあがっている。これに関して、「もしウソの情報を書いて交際に至り、ウソがばれてしまった場合、身バレリスクが非常に高い」という意味で、都会よりも地方のほうが安全かもしれない、といった地方の若者アプリユーザーからの声が出てきている。言い換えれば都会では、人口の多さに紛れて身バレせずに逃げてしまう懸念を感じるがゆえに、より「安心安全な出会い」を強く求める声が出てくるのだろう。
 
1 そもそも交際したくない割合は1割未満にとどまっている。
2 2024年の東京都の社会増人口は世代で見ると20代:10代=85:15であり、20代人口のうち7割以上が20代前半人口となっている。
3 東京都とはいえども、小規模企業が80%を占める(中小企業庁HP:中小企業の企業数・事業所数)。
4 特に夜勤を伴う仕事の男女(工場、警備、輸送、看護、介護など)のメリットは大きい。

【出会った先の『雇用』問題】

以上、東京商工会議所の2024年の東京都在勤の若者の調査結果を紹介したが、この結果をそのまま地方に転用する場合、1つ大きな問題がある。

それは女性の仕事問題である。

地方での未婚化対策議論では「できれば、県内同士、さらには地元男性と地元外女性の出会いを進めたい」という「男性は動かず、女性に動いてもらう」案が少なからず出てくる。しかしそもそも、東京への若者の流出は「雇用」が原因であり、2024年に社会減となった40道府県合計において、男性の1.3倍もの女性が流出していることを考えると、地方のジェンダーレス雇用を進め、地元に雇用で若い女性が定着できるようにすることが出会いを生み出すための第一歩である。
 
そうであるにもかかわらず、「女性の雇用は特に用意しないが、県外女性に移住して地元男性に出会いに来てほしい」という考えは、「いい人だと思うけれど、彼の居住地には私の仕事がないから、彼を結婚相手としては考えられない」という結論につながりかねない。

若者の結婚希望は高止まりのまま、未婚化が進む日本。エリアの人流構造とその原因のエビデンスをしっかり理解した上で、若者の出会いを生み出せる政策が検討されることを期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月24日「研究員の眼」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は年度最新順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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