2025年03月07日

若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.336]

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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1―激変した理想の生き方

統計的には日本の少子化は未婚化(初婚同士婚姻減)とパラレルに進行し、1970年の出生数・初婚同士婚姻数は193万・103万だったが、2023年は73万・36万と、出生数は38%水準、婚姻数は39%水準にまで減少した。出生数と婚姻数は減少率にほぼ差がない6割減*1という大幅減となっている。婚姻減理由の感覚論としてまず挙げられることが多い「結婚意欲」はあまり減少しておらず*2、婚姻大幅減の説明力に乏しい。一方、半世紀における婚姻に関する統計的「激変」要因としては、現在の若者とその親世代とでは「理想とする夫婦像」が大きく変化したことが挙げられる[図表1]。
[図表1]親世代(50代以上)と子世代(20・30代)の理想のライフデザインの変化
若い世代の理想の家族形成に関するライフデザインが大きく変化しているにも関わらず、昔ながらの家族形態をイメージした雇用概念を雇用主が持ち続けるならば、若い世代は就職してくるかもしれないが、その先の夫婦形成については理想でもないライフコースに進まず、単身生活の充実を優先した生き方に向かうのはごく自然の流れとも思われる。

一目でわかるのは、80年代までは大半だった専業主婦世帯を理想とする回答者割合が、父親世代では4割弱存在するが、息子世代ではわずか7%にまで支持が激減している点である。一方、親世代では「そんな理想を妻に持つ男性はあまりみかけない」レベルに支持が低かった(10.5%)両立コース(子どもが生まれても妻が仕事を辞めずに働き続ける世帯)の理想割合が、息子世代では39%とトップの支持を得ている状況である。管理職や経営者などの主たる年齢層である父親世代が「男性社員がこれで結婚を考えたり、子をもう一人持とうとしたりするかもしれない」という期待から、夫が経済主戦力的な家族を想定した男性収入上昇策等を打ったとしても、若手男性社員には響きにくく、喜ぶどころか「多様性の令和時代に、男性だけが経済的に頑張って、女性や子どもを養うことがなぜ当然とされねばならないのか?」と受け止められ、人材確保すら難しい状況にもなりかねない。女性の方も、かつては1/5程度だった両立コースを若い女性の1/3以上が理想の生き方と回答している。
 
*1 両データの時系列相関係数0.97
*2 社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(2021年)参照

2―東京都在勤の若者が最も支持した働き方は?

全国で有効求人倍率がほぼ1以上と人手不足が強まる中、東京都は年間を通して約1.8倍と人材確保激戦区であり*3、東京一極集中もほぼ20代前半の就職期に集中して発生している。そのような背景から、東京商工会議所が24年に東京在勤の18~34歳の若者の理想のライフコースを調査した。「結婚・子育てを想定した場合、望ましいと思う制度」について、制度の利用状況とともに質問した結果が以下である[図表2]。家族を持つまで(結婚)、持った後(子育て)についてあわせて尋ねたところ、1位がテレワーク61%、2位がフレックスタイム制度59%となり、その他の柔軟な働き方を大きく引き離した。柔軟な働き方というと、中高年は時間視点のみで捉えがちだが、テレワークという「働く場所」の柔軟さが若い世代から強く求められていることを雇用者は知る必要がある。また、その希望にこたえることが人口減の抑制につながる可能性を高めることも知っておきたい。
[図表2]結婚・子育てを想定した場合、望ましいと思う制度
現在の10~20代後半人口までのZ世代は、デジタルジェネレーションとしても知られている。親世代よりも圧倒的にデジタルに慣れ親しみ精通した情報強者世代が、「タイムレス」のみならず「ボーダレス」な働き方*4も重視するのは当然といえるかもしれない。
 
*3 独立行政法人労働政策研究・研修機構ホームページ「職業紹介-都道府県別有効求人倍率」
*4 ボーダレス=国際的といったイメージではなく、同業種、同職種であっても「場所に縛られずに勤務できる」DXが求められていることに気づきたい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月07日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は年度最新順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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