2021年10月27日

コロナ禍における子育て不安(1)-感染や経験不足など不安が強いのは小学生の親、父親より母親

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~感染力の強い変異種による感染拡大下で始まった新学期、親の不安の状況は?

10月におよそ5カ月ぶりに全国で緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルスの新規感染者数がおさえられた状況が続いている。一方で今夏は感染力の強い変異種による感染拡大によって、9月からの新学期の開始を不安に思う親は多かっただろう。特に12歳未満でワクチン接種外の子どものいる家庭では、学校等でのクラスターの発生や子どもからの家庭内感染、急な休校等による仕事への影響など、様々な不安を抱えながら新学期を迎えたのではないだろうか。

一方で足元ではワクチンの2回目接種率が国民全体の6割を超え(内閣官房「ワクチン接種の状況」)、接種対象外の子どもを除く全人口の約7割まで接種が進んでいる。今冬はワクチンの予防効果等によって感染状況が抑えられる可能性もある。しかし、感染状況が落ち着いている今こそ、改めて感染拡大時の親の不安の状況を把握することは、万が一、事態が悪化した時の備えにつながるのではないか。

よって、本稿を皮切りに数回に分けて、コロナ禍における親の抱える子ども関連の不安を見ていきたい。第一弾の本稿ではライフステージ、すなわち子どもの年齢による違いを捉える。なお、分析にはニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」を用いる。
 
1 ニッセイ基礎研究所「2020・2021年度特別調査 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」、第1回は2020年6月、第2回は同年9月、第3回は同年12月、第4回は2021年3月、第5回は同年7月、第6回は同年9月に実施。それぞれ全国の20~74歳の男女約2,500名(第4回までは20~69歳で約2,000名)を対象にインターネットで調査。株式会社マクロミルのモニターを利用。本稿では、感染力の強い変異種による感染拡大を経て、子どもに関わる不安についての設問を増やした第6回調査(2021年9月下旬実施)を中心に見ていく。

2――コロナ禍における子どもに関わる不安

2――コロナ禍における子どもに関わる不安

1全体の状況~9月調査で不安層が多いのは「行事等縮小による経験不足」や「生活リズムの乱れ」
子どものいる回答者に対して、いくつかの子どもに関わる不安をあげ、それぞれについて「非常に不安」「やや不安」「どちらともいえない」「あまり不安ではない」「不安ではない」「該当しない」の6つの選択肢で回答を得たところ、2021年9月の不安層(「非常に不安」+「やや不安」)の割合を高い順に見ると、「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(32.4%)や「子どもからの家庭内感染」(32.3%)、「(子ども関連施設の休館や入場制限などの)遊び場不足による(子どもの)ストレス」(30.7%)で3割を超える(図表1)。次いで僅差で「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(29.9%)、「オンライン教育増加による教育格差」(29.3%)、「家で過ごす時間が増えネット使用時間が長くなる」(26.6%)、「家で過ごす時間が増えゲーム時間が長くなる」(26.4%)、「急な休校や休園等による仕事への支障」(20.6%)と続く。

また、7月と比較できる項目では、いずれも9月の不安層はやや上昇している(+3%pt前後)。

なお、いずれも「該当しない」が4~5割を占めて目立つが、当該層ではライフステージが第一子独立(結婚・就職)や末子独立(結婚・就職)、孫誕生の層、すなわち子育てがおおむね終了した層(以下、子育て終了世代と表記)の占める割合が8割を超える。

「該当しない」層を除いた不安層が占める割合を見ると(図表略)、割合の高い順に「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(58.6%)、「(子ども関連施設の休館や入場制限などの)遊び場不足によるストレス」(56.6%)、「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(55.6%)、「オンライン教育増加による教育格差」(53.9%)、「子どもからの家庭内感染」(51.7%)までが半数を超える。次いで「家で過ごす時間が増えゲーム時間が長くなる」(49.6%)、「家で過ごす時間が増えネット時間が長くなる」(48.8%)、「急な休校や休園等による仕事への支障」(41.1%)と続く。また、7月と比較できる項目では、いずれも9月の不安層は上昇しており(+6~8%pt程度)、先の「該当しない」を含めた結果と同様の傾向を示す。
図表1 コロナ禍における子ども関連不安(7月 n=1,355、9月 n=1,332)
2ライフステージ別の状況~感染や経験不足をはじめ多くの面で不安が強いのは小学生の親
ライフステージ別に9月の不安層の割合を見ると、第一子誕生から第一子大学入学までの子育て世代では、いずれの不安においても、おおむね全体を大きく上回る一方、第一子独立以降の子育て終了世代では全体を大きく下回る(図表2)。

子育て世代に注目して不安層の割合を見ると、第一子小学校入学や第一子誕生では「子どもからの家庭内感染」や「遊び場不足によるストレス」、「急な休校や休園等による仕事への支障」など、第一子小学校入学から第一子大学入学では「式典や行事の縮小・中止による経験不足」や「登校機会減少による生活リズムの乱れ」、「オンライン教育増加による教育格差」などが高い傾向がある。
図表2 ライフステージ別に見たコロナ禍における子ども関連不安のある割合(%)
つまり、未就学児をはじめとした比較的低年齢の子どもの親では、子どもがワクチン接種の対象外であるために子どもの感染や子どもからの家庭内感染の不安が強いほか、子育てに手がかかるために休校等による仕事への支障などへの不安が強い一方、学校へ通う子どものいる親では、コロナ禍で学校生活が変わることによる子どもの教育や経験に対する悪影響への不安が強い様子がうかがえる。

また、子どもの年齢が高いほど、「家で過ごす機会が増えネット使用時間が長くなる」や「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」の不安層が増える傾向があり、従来からネット利用などの多い年代の子どもを持つ親では、コロナ禍で一層、利用が増えることを懸念しているようだ。

総じて不安が強いのは、どの年代の子どもの親なのかを見るために、それぞれのライフステージで不安層の割合が6割を超えて高いものに注目すると、第一子小学校入学では「遊び場不足によるストレス」(67.3%)や「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(66.7%)、「子どもからの家庭内感染」(62.3%)、「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(61.1%)が、第一子高校入学では「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(66.7%)が、第一子大学入学では「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(61.7%)があがる。

つまり、小学生の親では他の年齢の子どもの親と比べて、比較的多方面において、コロナ禍で子どもに関わる不安が強い傾向が見て取れる。その背景としては、前述の通り小学生の大半はワクチン接種対象外であるために感染不安が強いこと、また、第一子である小学生の子に加えて、さらに幼く子育てに手のかかる第二子以降の子もいる親も少なくないであろうことや、コロナ禍における経験不足などが今後の人生における経験や記憶に影響を与え始める年代であろうことなどが考えられる。
3男女(父親・母親)別・ライフステージ別の状況~不安が強いのは育児の主な担い手である母親
父親・母親別に不安の状況を見るために、性別に各ライフステージにおける不安層の割合を見ると、全体と同様、男女とも子育て世代で不安のある割合が高く、子育て終了世代で不安のある割合が低い傾向があり、小学生の親で比較的多方面において不安が強い傾向が見られる(図表3)。

また、不安のある割合を男女で比較すると、子育て世代では、おおむね女性が男性を上回る。特に女性では第一子小学校入学で「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(76.8%)や「遊び場不足によるストレス」(73.7%)、「子どもからの家庭内感染」(72.6%)、第一子中学校入学で「オンライン教育増加による教育格差」(72.4%)、第一子高校入学で「式典や行事の縮小・中心による経験不足」(73.3%)や「遊び場不足によるストレス」(70.0%)で不安のある割合が7割を超えて高い。
図表3 ライフステージ別・性別に見たコロナ禍における子ども関連不安のある割合(%)
子育て世代の母親の方が父親よりコロナ禍における子どもに関わる不安が強い背景としては、日頃から家庭における育児の担い手が主に母親である影響が考えられる。

内閣府「令和2年版男女共同参画白書」によると、男女の家事・育児・介護時間を年齢別に見ると、いずれの年齢でも女性が男性を上回り、特に子育て世代が多いと考えられる30・40歳代では週平均で3時間半以上のひらきがある(図表4)。また、共働き世帯では週平均で3時間半以上、専業主婦世帯では約6時間、6歳未満の子どもを持つ夫婦では共働き世帯では4時間半以上、専業主婦世帯では8時間以上ものひらきがある。

以上のように母親の方が父親と比べて育児の多くを担っているために、コロナ禍における子どもの生活についても、おのずと母親の方が父親より強い不安を感じるのだろう。
図表4 性別に見た年代別や共働き世帯・専業主婦世帯別の家事・育児・介護時間(週平均)

3――まとめ

3――まとめ~これまでの経験から大きな混乱なく新学期が始まったが、親は子どもの「今」も「将来」も不安

本稿ではニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を用いて、ライフステージ別にコロナ禍において親が抱える子ども関連の不安を捉えた。その結果、12歳未満のワクチン接種対象外の子どものいる親では感染不安や休校等による仕事への支障不安が強く、学校へ通う子どものいる親ではコロナ禍による経験不足や教育への悪影響に対する不安が強いなど、子どもの年齢による違いが見られた。

なお、総じて小学生の親で不安が強く、その背景として、子どもがワクチン接種対象外であることに加えて、小学生の子より幼く子育てに手のかかる第二子以降の存在やコロナ禍における経験不足などが今後の人生における経験や記憶に影響を与え始める年代であろうことなどが考えられる。

父親と母親を比べると、育児の主な担い手である母親の方が総じて不安が強く、やはり特に小学生の子どものいる母親で不安が強い傾向があった。なお、2020年3月に政府が全国一斉休校を要請した際、共働き世帯が増える中で、特に居場所のない小学校低学年児童も少なくなかったことで大きな混乱が生じ、改めて母親への育児負担の大きさも浮き彫りとなった2。このことも踏まえられ、染拡大下の今年9月に始まった新学期では、全国一律の対応とはならずに、感染状況に応じて自治体が判断する形となった。地域によって夏休みが延長されたり、時差通学やオンライン授業、短縮授業などが実施されたが、コロナ禍1年半余りの中で学校側も生活者側も様々なノウハウが蓄積されたことで、大きな混乱は生じなかったようだ。

当初と比べてウィズコロナの日常生活をスムーズに進めていけるようになったとはいえ、本稿で見た通り、親はコロナ禍における子どもの生活について様々な面で不安を感じている。「今」の子どもの生活だけでなく、行事などの経験不足やコロナ禍で急速に進展したオンライン教育などの影響が「将来」どのような形で表出されるのかも懸念される。

次稿以降では、地域(緊急事態宣言の発出地域とそれ以外の地域など)や親の就業形態、世帯年収等による違いを分析していく予定だ。
 
2 久我尚子「新型コロナ、休校で子育て家庭大混乱の3つの背景」ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/3/25)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2021年10月27日「基礎研レター」)

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