2021年07月06日

コロナ禍で成立した改正医療法で何が変わるか-医療計画制度の改正、外来医療機能の見直しを中心に

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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5――改正医療法の内容と影響(3)~外来医療機能の明確化~

1|改正の主な内容と経緯、背景
3番目の外来医療機能の明確化では、医療機関の役割を明確にする意図が込められている。この点を考える上では、医療機関の役割や機能が不明確という日本の医療制度の特徴を踏まえる必要がある。通常、医療サービスは身近な病気やケガに対処する1次医療(プライマリ・ケア)、精密検査や入院手術に対応する2次医療、重篤な患者を手当する3次医療に区分けされるが、日本の医療制度では医療機関の役割分担が不明確であり、難しい手術や治療に備えて、専門的な人材や高額機器を配置している大病院でさえ、外来では日常的な病気やケガに対応している。

しかし、こうした状況は非効率であり、機能分化を進める一環として、紹介状を持たずに500床以上の大病院などを受診した場合、5,000円の追加負担を求める制度が2016年度に創設された。その基本的なイメージは図1の通りであり、対象病院は2018年度に400床以上に拡大された。つまり、紹介状なし追加負担の対象を拡大するため、右端の「大病院」の対象を大きくする制度改正が実施されたと言える。
図1:紹介状なしに大病院に行った場合の追加負担のイメージ
その後、首相官邸に設置されていた「全世代型社会保障検討会議」が2019年12月、紹介状なし追加負担の対象医療機関の一層の拡大を提唱した21。これを受けて、2020年度診療報酬改定22では、紹介状なし追加負担の対象が200床以上の地域支援病院23に広げられた。

さらに、全世代型社会保障検討会議や厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」で議論が進んだ結果、「医療資源を重点的に活用する外来」(仮称)を地域の実情に応じて明確化する方針が固まった。以下、厚生労働省の医療計画の見直し等に関する検討会が2020年12月に公表した「外来機能の明確化・連携、かかりつけ医機能の強化等に関する報告書」に沿って、制度改正の大枠を捉える。

まず、「医療資源を重点的に活用する外来」のイメージとしては、医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来とか、高額な医療機器・設備を必要とする外来、特定の領域に特化した機能を有する外来などが挙がっており、紹介患者を基本とする外来として位置付ける考えが示されている。

しかし、日本は民間中心の提供体制であり、国や都道府県がダイレクトに民間医療機関に介入しにくい。そこで、実際の運用では地域の実情に応じた合意形成に力点が置かれており、報告書は「不足する医療機能の確保を含め、各医療機関の自主的な取組等の進捗状況を共有」「地域における必要な調整を行う」としている。さらに報告書では、議論の実効性を高めるため、医療機関から都道府県に現状を報告させる「外来機能報告制度」(仮称)を創設することで、各医療機関が果たしている外来の機能・役割を可視化する考えが示されている。このほか、報告書は「外来機能報告制度」の対象として、「一般病床又は療養病床を有する医療機関を基本」とし、無床診療所は任意とする考え方を示した。

つまり、「医療資源を重点的に活用する外来」は紹介患者を基本とする病院として位置付けられるとともに、「外来機能報告」で可視化されるデータなども参考にしつつ、「どの医療機関が担うか」という具体的な協議については、地域の議論と合意形成に委ねられたわけだ。

ただ、「医療資源を重点的に活用する外来」「外来機能報告制度」の詳細は詰まっておらず、厚生労働省の「第8次医療計画に関する検討会」に設置されたワーキンググループで調整が進む見通しだ。
 
21 併せて、負担額の引き上げが模索されたほか、患者の追加負担を医療機関の収入にしない代わりに、保険財政に繰り入れる方針も決まった。
22 2020年度診療報酬改定の動向に関しては、拙稿4月24日「2020年度診療報酬改定を読み解く」を参照。
23 地域医療支援病院とは、紹介患者に対する医療の提供や医療機器の共同利用、救急医療の提供、地域の医療従事者に対する研修などを担う病院であり、200床以上のベッド数などが要件。
2|外来医療計画との一体化
今後の制度化の焦点としては、▽「医療資源を重点的に活用する外来」に期待される機能の具体化、▽「医療資源を重点的に活用する外来」を担う医療機関に対する支援策、▽外来機能報告制度に基づいて提出を義務付ける情報などの詳細な制度設計――といった点が想定される。さらに、大きな論点として、(1)「外来医療計画」との一体化、(2)地域医療構想との一体化、(3)曖昧な「かかりつけ機能」の明確化――も考えられるため、以下は3つの点について私見と予想を述べる。

まず、1つ目に挙げた外来医療計画とは、2018年の医療法改正を経て、都道府県が2020年3月までに策定した計画であり、医師の偏在是正を目的としている24。具体的には、「外来医師偏在指標」という指標を国が設定した上で、外来医師の過不足を全国一律の水準で可視化した。さらに、外来に携わる医師が過剰とされた区域(外来医師多数区域)に開業しようとする医師に対しては、初期救急や在宅医療など地域で不足する機能を担うように要請する仕組みが導入された。その際には医療機関を交えた協議の場を中心に協議し、その結果に沿って医療機関が自主的に対応することが意識されている。

ここで外来医療計画の目的や事務の流れを確認するため、東京都のケースを考える。東京都では13区域に分かれた2次医療圏のうち、9つが外来医師多数区域に該当しており、これらの地域で診療所を新規開業しようとする場合、医師は地域で足りない医療機能の実施を求められることがある。

その際には東京都のウエブサイト25で公開されている「(様式)地域医療への協力意向の確認について」という書類をダウンロードした上で、電子メールまたは郵送で東京都まで送るように求められる。さらに、書類には「新規に診療所を開設するにあたり、開設場所の二次保健医療圏における外来医療機能の状況をはじめとする『東京都外来医療計画』の内容を理解し、地域医療の充実に向けて、可能な範囲で協力・貢献していきます」という一文とともに、これに沿って地域医療に協力する意向を持っているか確認する質問も設定されており、「合意します」「合意しません」というチェックボックスが記載されている。ここで言う「地域医療に協力」とは、在宅医療など各地域で足りない医療機能への協力を意味する。

さらに、「合意しません」と答えた場合、合意できない理由を記述するコーナーもあり、回答内容に関して、地域医療構想調整会議で確認する可能性があると定めているほか、「合意いただけなかった開設者の方には、同会議(筆者注:地域医療構想調整会議)へ御出席いただき、地域医療における課題解決に向け、御発言を御願いさせていただく場合がございます」としている。

しかし、こうした要請や文書は強制力を有しておらず、診療所を開業しようとする医師に従う義務はない。実際、東京都の外来医療計画でも「開業者自身の自主的な行動変容を促すものであり、開業を制限するものではありません」と記しており、実効性という面で疑問があった。

さらに筆者としては、競争政策の観点でも問題含みと考えていた。つまり、地域で足りない医療機能を充足する義務を既存の事業者ではなく、新規開業希望者だけに課している制度設計が公正とは言えないのではないか、という問題意識である26

一方、今回の法改正を通じても、開業の自由が制限されるわけではないが、競争政策上の欠点が解消される可能性がある。具体的には、外来機能報告制度(仮称)が作られることで、各医療機関が果たしている外来機能の役割や内容が明らかになる上、既存の医療機関も平等に自主的な対応を促されるような展開も想定される分、新規参入者だけに責任を負わせる不公平な現行制度が是正される可能性がある。
 
24 このほか、医療機器の共同利用を促す規定も盛り込まれている。ただ、コロナ禍の影響で一部の県で策定・公表が遅れた。
25 東京都ウエブサイト「東京都外来医療計画」を参照。https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/kanren/gairaikeikaku.html
26 外来医療計画に関する評価は2020年3月2日拙稿「医師偏在是正に向けた2つの計画はどこまで有効か(下)」を参照。
3|地域医療構想との一体化
次に、2点目として挙げた地域医療構想との一体化という点でも、現行の外来医療計画がヒントとなる。外来医療計画の推進では、地域医療構想と同じく医療機関の自主的な対応が想定されており、その場として地域医療構想調整会議が意識されていた。

例えば、2019年3月に定められた国の「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」では、協議の場に関して、「地域医療構想調整会議を活用することが可能」と定めていた。さらに、筆者の集計によると、2020年3月までに策定された各都道府県の外来医療計画では、43都道府県が協議の場として地域医療構想調整会議、あるいは医療計画を議論する場を活用すると定めていた27。このため、「医療資源を重点的に活用する外来」の明確化に向けた協議の場は今後、地域医療構想調整会議に委ねられる可能性が高く、地域医療構想との一体化が進みそうだ。

むしろ、地域医療構想は提供体制改革のうち、病床という一部に着目しているに過ぎず、提供体制の全体を見ているわけではなかった。このため、外来医療機能の見直しと地域医療構想が一体化することで、地域の医療提供体制の将来像を全体的に議論しやすくなる可能性がある。
 
27 奈良県は2021年6月30日現在で本文、概要が開示されていないため、46都道府県で集計。
4|かかりつけ医の曖昧さが焦点に
さらに、曖昧な「かかりつけ医」機能の明確化も焦点になる公算が大きい。この点は既に厚生労働省の審議会や検討会で繰り返し話題になっている28ので、私見も含めて論点を整理しよう。

そもそも、紹介状なし追加負担の対象拡大とか、「医療資源を重点的に活用する外来」の導入論議を考える上では、「大病院に患者を集中させない仕組みをどう作るか」という点が重要なポイントとなる。さらに具体的に言うと、大病院への患者集中を防ぐ上では、身近なケガや病気に対応するプライマリ・ケアに関しては、かかりつけ医となる診療所や中小病院で対応する一方、重度な病気やケガの場合、かかりつけ医が2次医療機関や3次医療機関に患者を紹介する流れを作る必要がある。このため、外来医療機能の明確化議論は「医療資源を重点的に活用する外来」の医療機関の対象範囲や機能に限らず、かかりつけ医機能の議論に発展する蓋然性を有している。

しかし、「かかりつけ医」の制度的な位置付けは曖昧である。例えば、かかりつけ医の要件は特に定められておらず、しかも患者は複数の医師を同時に訪ねることができる点で、制度的な縛りは非常に緩い。ここで、かかりつけ医の定義や機能を整理すると、日医などは2013年8月の報告書29で、かかりつけ医の定義として、表3の通りに「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定めた。
表3:かかりつけ医の定義、かかりつけ医機能
さらに、その定義に対応する機能としても、「日常的に行う診療で、患者の生活背景を把握し、適切な診療と保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合、地域の医師、医療機関などと協力して解決策を提供」「地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健などの社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携」「地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進」「患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供」などを列挙した。

それにもかかわらず、かかりつけ医の役割は曖昧である。何よりも、かかりつけ医は「機能」であり、一定の要件を満たせば認定されるような「能力」に着目した概念ではない。この曖昧さについては、プライマリ・ケアの専門医として、全人的かつ継続的に患者の生活をカバーする総合診療医との対比で浮き彫りになる。

例えば、2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書では、言葉遣いを微妙に使い分けている。まず、総合診療医に関して、報告書では「高齢化等に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が増加する中、これらの患者にとっては、複数の従来の領域別専門医による診療よりも総合的な診療能力を有する医師(総合診療医)による診療の方が適切な場合が多い」とし、総合診療医が高齢者の健康増進や保健活動、在宅医療に従事する重要性が指摘されており、「地域医療の核となり得る存在」という期待感さえ示されている。

これに対し、かかりつけ医に関しては、「幅広い領域の疾病と傷害等について、適切な初期対応と必要に応緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の普及は必須」と定めており、期待されている役割は同じように見える。

ここで注目すべきは「総合診療医=能力」「かかりつけ医=機能」という言葉遣いの違いである。つまり、総合診療医に求められているのは「能力」であり、専門医の試験や更新手続きを通じて、「総合診療医としての能力を果たしているか否か」が客観的に定められる。これに対し、かかりつけ医は「機能」であり、総合診療医よりも緩やかに定められている。

こうした言葉遣いの違いとか、似た言葉が乱立している背景に関して、ここでは詳細な説明を省く30が、外来医療の在り方を議論するのであれば、曖昧なかかりつけ医機能の明確化が欠かせない。さらにオンライン診療の拡大策でも、かかりつけ医機能の議論が浮上している31点を踏まえると、「かかりつけ医とは何か」「どういう医療機関がかかりつけ医に相応しいか」「総合診療医との違いは何か」という疑問を払拭するような議論は不可欠となっている。

以上、改正医療法のうち、(1)新興感染症への対応を医療計画に追加、(2)病床再編・削減を支援する予算措置の恒久化、(3)外来医療機能の明確化――の3つに関して、それぞれの内容と背景、想定される影響などを考察した。

しかし、医師の働き方改革を含めて、それぞれの制度改正は複雑に絡み合っており、個別の点だけで見ていると、「木を見て森を見ず」になる危険性がある。さらに民間中心の提供体制の下で、国や都道府県が関われる余地は限定的であり、以上のような制度改正が「絵に描いた餅」になる危険性も想定される。

以下、医療行政における都道府県の役割と権限を強化する「医療行政の都道府県化」という切口で、今後の改革の論点や課題を展望する。
 
28 2021年6月4日、2020年12月25日『m3.com』配信記事、『社会保険旬報』No.2822、『週刊社会保障』No.3124を参照。
29 2013年8月8日「医療提供体制のあり方 日医・四病院団体協議会合同提言」。
30 これには歴史的な経緯が絡む。厚生省(当時)は1980年代半ばに「家庭医構想」を掲げ、イギリスのGP(家庭医、General Practitioner)のようなプライマリ・ケアの能力を持つ医師の育成を企図したが、国家管理の色彩が濃いイギリスの医療制度を参考にしようとしたことで、日医は「国家統制に繋がる」と反対した。さらに当時、厚生省は医療費抑制に力を入れ始めた時期であり、日医は厚生省の方針について、医療費適正化の意図が込められていると警戒した。このため、厚生省の企図は失敗に終わり、現行制度をベースとした形で、緩やかなかかりつけ医の仕組みが導入された。その後、専門医制度の見直しの過程で、高齢化に対応したプライマリ・ケア専門医の必要性が意識され、総合診療医の制度的な育成がスタートした。当時の経緯などについては、厚生省健康局総務課編(1987)『家庭医に関する懇談会報告書』第一法規などを参照。2018年5月2日の拙稿「2018年度診療報酬改定を読み解く(下)」も参照。
31 かかりつけ医機能の明確化に関しては、オンライン診療の拡大策でも焦点となっている。オンライン診療は2018年度診療報酬改定で初めて導入されたが、「対面の補完」とする日医の意向に配慮する形で、初診を対面で診た患者に限定する「初診対面原則」が導入された。さらに対象となる病気の種類も限定されるなど、要件が厳しく設定されたことで、必ずしも拡大しなかった。このため、2020年度に要件が部分的に緩和されたものの、新型コロナウイルス対応で院内感染を防ぐ観点に立ち、オンライン診療の拡大策が焦点になり、コロナ対応の特例として、安倍晋三政権による政治主導で初診対面原則の事実上の撤廃が決まった。さらに2020年9月に発足した菅義偉政権がオンライン診療の特例恒久化を言明し、厚生労働省の審議会で拡大策が議論された。しかし、日医はオンライン診療では、触診など患者から得られる情報が限定的になると主張しており、過去の受診歴があることを基本としつつ、かかりつけ医などから情報が提供されれば、初診でもオンライン診療が認められる方向となっている。つまり、この文脈でも「かかりつけ医はオンライン診療可」「初診を対面で診ていない患者も、かかりつけ医からの情報があればオンライン診療可」という方向になっており、かかりつけ医の機能が焦点になっている。オンライン診療を巡る経緯に関しては、拙稿2020年6月5日「オンライン診療を巡る議論を問い直す」を参照。最新の動向は『社会保険旬報』No.2822を参照。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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