2021年05月14日

2021年度介護報酬改定を読み解く-難しい人材不足への対応、科学化や予防重視の利害得失を考える

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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5在宅サービスの機能と連携の強化
4番目は在宅サービスの機能と連携の強化である。在宅ケアの提供に際しては、患者・利用者の生活は「13時から介護保険」「14時から医療保険」と明確に線引きできない以上、医療・介護関係者が意思疎通を図る必要があり、多職種連携は近年の診療報酬や介護報酬の改定では必ず重視されている点である。

今回の改定でも、訪問入浴介護の事業所が新規利用者の自宅を訪ねて調整した上で利用者に対して初回のサービスを提供した場合、算定を認める「初回加算」(1カ月当たり200単位)が新設された。このほか、▽訪問看護の「看護体制強化加算」の要件、加算額の見直し、▽グループホームなどにおける緊急時短期利用の要件緩和、▽小規模多機能に関して、登録者以外の短期利用に関する要件緩和――といった制度改正も盛り込まれた。
6介護保険施設や高齢者住まいにおける対応の強化
5点目の施設・住宅系の改定では、特養など施設系サービスや短期入所などのうち、少人数の利用者を一つの単位として集団ケアを実施する「ユニット型」に関する人員要件が緩和された。具体的には、1ユニット当たり定員を10人以下と定めた省令を改正し、原則として概ね10人以下としつつも15人を超えない範囲で、実態を勘案した職員配置を認めるとされた。
7ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保
利用者にとって、介護保険サービスを利用する際の「入口」となるケアマネジメントに関しては、(1)ケアマネジメントを担うケアマネジャー(介護支援専門員)が勤める居宅介護支援事業所同士の連携に向けた支援、(2)ICTを用いた事務効率化に向けた支援、(3)利用者が医療機関で診察を受ける際、ケアマネジャー同席による医師などへの情報提供、(4)軽度者のケアプランの作成を地域包括支援センターから居宅介護支援事業所に委託する際の情報提供――に関して加算措置が盛り込まれた。
ケアマネジメント費に関する特定事業所加算の改定内容
このうち、(1)では上級資格の主任ケアマネジャーを多く配置する居宅介護支援事業所に加算する「特定事業所加算」の加算額、体系が見直された。具体的には、要件に応じて区分されている特定事業所加算(I)~(III)の加算額が表3の通りに引き上げられたほか、事業所間の連携に向けた体制確保を支援するため、(A)という区分が創設された。これは小規模な事業所の連携を促すことが企図されており、他の加算に上って行くための「踊り場」「踏み台」的な位置付けと言える。

一方、特定事業所加算(IV)については、病院との連携や看取りへの対応の状況を要件に設定しているとして、医療と介護の連携を推進する観点に立ち、特定事業所加算から切り離した別個の「特定事業所医療介護連携加算」に整理された。加算額は1カ月当たり125単位で変わらない。

このほか、ボランティアや民間企業が提供している制度以外のケア(いわゆる保険外サービス)を充実させる観点に立ち、多様な主体による生活支援サービスの提供も特定事業所加算の要件として加わった。この点はケアマネジメント改革の部分で改めて言及する。

次に、(2)ではICTを用いた場合、ケアマネジャーが受け持てる上限を事実上、引き上げる措置が取られた。改定前の仕組みでは、1人のケアマネジャーが40件以上のケアプラン作成を受け持った場合、居宅介護支援費が逓減する仕組みであり、例えば要介護3~5の場合は1,373単位から686単位に減る仕組みだった。しかし、今回の改定ではICTを用いた場合、44件まで受け持てるようにした上で、45件以上の場合には677単位まで引き下げる措置が盛り込まれた。

さらに、(3)の関係では、「通院時情報連携加算」(1カ月当たり50単位)が創設され、医療・介護連携の強化が企図された。具体的には、ケアマネジャーが利用者の通院に付き添うとともに、利用者の心身状況や生活環境などを医師などに情報提供したり、医師から情報を提供してもらったりした上で、これらをケアプランに記録した場合、加算を受け取れるようにした。この意味合いに関しては、ケアマネジメント改革の部分で改めて考察する。

このほか、(4)では軽度者のケアプラン作成について、「委託連携加算」(1カ月当たり300単位)が創設された。この加算では、地域包括支援センターが居宅介護支援事業所に軽度者のケアプランを委託した後、両者が情報共有などに取り組んだ場合、報酬の上乗せを受け取れる。
8地域の特性に応じたサービスの確保
「地域包括ケアシステムの整備」の7番目は「地域の特性に応じたサービスの確保」と整理されており、地域の実情に応じた地方分権の対応と言える。具体的には、離島や中山間地域での介護サービス提供を促す観点に立ち、条件不利地域におけるサービス提供を後押しする「特別地域加算」を受けられるサービスの対象が拡大されたほか、▽グループホームのユニット数の弾力化、本体施設とは別の場所で運営される「サテライト型」事業所の創設、▽小規模多機能の基準・報酬・定員に関する市町村への部分的な権限移譲――といった内容が盛り込まれた。
 

5――介護報酬改定の内容(3)

5――介護報酬改定の内容(3)~自立支援・重度化防止に向けた取組の推進~

13項目に分かれた介護予防・重度化防止
3番目の柱である「自立支援・重度化防止に向けた取組の推進」に関しては、表4の通り、(1)リハビリテーション・機能訓練・口腔・栄養の取組の連携・強化、(2)介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進、(3)寝たきり防止など重度化防止の取組の推進――の3つに区分けされている。しかし、「自立」という言葉は元々、高齢者の自己決定を意味していたものの、近年は給付費抑制の観点で介護予防に力点が置かれる過程で身体的自立を専ら意味するようになるなど、地域包括ケアと同じく多義的である。このため、施策や実践を論じる際、「自立が何を意味するのか」という点を明らかにする必要があると考えている12

一方、厚生労働省の改定資料を見ると、ここでの「自立」は専ら身体的な機能改善、つまり「身体的自立」を意味していると考えられるため、「自立支援」という言葉を使わず、原則として「介護予防・重度化防止」という言葉に置き換えて議論を進めたい。
表4:介護報酬改定のうち、自立支援重度化防止に関する項目
 
12 自立の多義性については、2019年2月8日拙稿「社会保障関係法の『自立』を考える」、2017年12月20日「『治る』介護、介護保険の『卒業』は可能か」を参照。介護保険発足20年を期した連載コラムの第10回でも取り上げた。
2リハビリテーション・機能訓練・口腔・栄養の取組の連携・強化
まず、リハビリテーションや機能訓練、口腔ケア、栄養改善の関係から見る。これらが一体的に整理されている理由として、厚生労働省は「リハ・機能訓練、口腔嚥下、栄養を三位一体で考えなければいけない」と説明13しており、細かい報酬改定が積み重ねられた。

この関係では、外部のリハビリテーション専門職との連携を強化するデイサービスや特養を支援する「生活機能向上連携加算」(改定前は1カ月当たり原則200単位)の要件が見直された。今回の改定では(I)~(II)という2つの類型に区分され、従前の要件・加算は(II)で据え置かれた。一方、(I)の要件では、外部のリハビリテーション専門職がICTを用いて事業所を訪ねなくても状態把握や助言などに従事した場合、1カ月当たり100単位が加算されることになった。

このほか、施設系サービスでは「口腔衛生管理体制加算」「栄養マネジメント加算」が廃止された一方、口腔衛生や栄養管理に関する体制整備が義務付けられたほか、計画的な栄養管理を評価する「栄養マネジメント強化加算」(1日当たり11単位)が創設された。デイサービスなどに関しては、専門的な栄養アセスメントの実施などを評価する「栄養アセスメント加算」(1カ月当たり50単位)が新設された。低栄養状態の利用者に対して管理栄養士を中心に栄養改善に取り組む「栄養改善加算」については、1回150単位から1回200単位に引き上げられた。

さらに、▽訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションの継続的な管理などを評価する「リハビリテーションマネジメント加算」の要件見直し、▽老健施設における継続的なリハビリの実施と管理を評価する「リハビリテーションマネジメント計画書情報加算」(1カ月当たり33単位)の創設、▽デイサービスにおけるリバビリテーションを評価する「個別機能訓練加算」に新たな区分を新設することで、2区分から3区分に細分化、▽適切な入浴介助に取り組むデイサービスなどを支援する「入浴介助加算」の新たな加算区分の創設、▽デイサービスなどが日常的な口腔・栄養状態をチェックした場合に受け取れる「口腔・栄養スクリーニング加算」の見直し、▽グループホームにおける日常的な栄養ケアの改善に向けて、管理栄養士が介護職を助言・指導した場合に受け取れる「栄養管理体制加算」(1カ月当たり30単位)の創設――など、細かい改定が積み重ねられた。
 
13 2021年2月5日に開催された慢性期リハビリテーション学会における老健局の眞鍋馨老人保健課長(当時)の説明。『社会保険旬報』No.2812を参照。
3介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進
「介護予防・重度化防止」の2つ目として、介護サービスの質評価と科学的介護の関係を取り上げる。これは後述する通り、今回改定の重要なポイントと考えられるので、詳しく見て行こう。

まず、科学的介護14とは元々、2018年度制度改正で浮上した言葉であり、主な経緯は表5の通りである。具体的には、当時の塩崎恭久厚生労働相が2016年11月の未来投資会議(当時)で、「データ分析を通じた科学に裏付けられた介護に変えていきた」「良くなるための介護のケア内容のデータがなく科学的分析がなされていない」と説明した15。つまり、身体的な自立を重視したデータを集めるとともに、それをリハビリテーションなどに役立てることを目指していた。その後、厚生労働省は2017年10月、有識者で構成する「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(以下、検討会)を発足させ、18年3月に中間まとめ、19年7月に最終報告が公表された。この結果、利用者の基本情報やADL(日常生活動作)、食事、栄養状態、認知症の状態などのデータを集める「CHASE」(Care, Health Status & Events)」)というデータベースが2020年度から創設された。
表5:科学的介護に関する主な経緯
表6:科学的介護推進体制加算に関する報酬改定の主な内容 一方、リハビリテーション系の情報を集める「VISIT」(monitoring & evaluation for rehabilitation services for long-Term care)というデータベースも2016年度に作られていたため、これを統合して2021年度からは「科学的介護情報システム」(LIFE、Long-term care information system for evidence)というデータベースが構築されることになった。その上で、厚生労働省は加算の取得要件などに際して、介護事業者に対して情報の提供を義務付けることで、データベースを充実させるとしている。さらにデータベースに集められた情報を現場にフィードバックすることで、ケアの質向上を図ると説明している。例えば、先に触れた老健施設における「かかりつけ医連携薬剤調整加算」(II)や、デイサービスなどにおける「栄養アセスメント加算」の算定には、LIFEへの情報の提出とフィードバックの活用が要件となっている。

このほか、科学的介護の充実に向けた方策として、ほぼ全てのサービス類型について、「科学的介護推進体制加算」も創設された。この加算では表6の通り、施設系サービスでは(I)(II)の2区分が設けられており、(I)は1カ月40単位、(II)は1カ月60単位、デイサービスなど通所系、訪問介護など居住系、小規模多機能など多機能系は1区分だけで1カ月40単位と区分けされている。このうち、施設系の(I)と通所系、居住系、多機能系の算定要件としては、利用者や入居者の心身状況に関して基本的な情報を提出すること、さらにLIFEからのフィードバックをサービス提供に役立てていることが挙げられており、(II)に関しては(Ⅰ)の要件に加えて、疾病、服薬の状況についても情報提供を義務付ける要件が設定されている。つまり、「計画書の作成→計画書に基づいたケアの実施→利用者の状態、ケアの実績などの評価・記録・入力→フィードバック情報による計画書の改善」というPDCAサイクルを生み出すことが意識されている(科学的介護で集められるデータの活用に関して、国の説明が不十分な点は後述する)。

さらに、デイサービスで2018年度から導入された「ADL維持等加算」が拡充された。これはADLを測定する「バーセル・インデックス」(Barthel Index)と呼ばれる評価指標を用い、一定期間内でADLの改善に取り組んだ事業所を評価する仕組みであり、2018年度改定の時点では「ADL等維持加算は試験的導入の意味合いも強い」と説明されていた16

しかし、ADL等維持加算の取得率が極端に低く、大幅な見直しを求める声が強まった17ため、2021年度改定では加算を取得できる対象がデイサービスだけでなく、認知症対応型デイサービス、地域密着型デイサービス、特定施設入居者生活介護(地域密着型を含む)、特養(地域密着型を含む)に拡大された。さらに、要件に応じて1カ月当たり3単位、または6単位だった加算額についても、30単位または60単位に大幅に引き上げられた。

さらにADL等維持加算の要件についても大幅に見直された。2018年度にADL等維持加算が創設された時、身体的な自立を期待できる軽度者だけを集める事業者の「クリームスキミング」(ソフトクリームのクリーム部分だけを食べるように、美味しいところだけを食べる行動)が懸念されていたため、「5時間以上と5時間未満の利用回数を比べた場合、5時間を上回る利用者の総数が20人以上」「評価対象利用期間の最初の月で、要介護度が3以上の利用者が15%以上」などの要件が細かく定められていた。しかし、2021年度改定では、前者の要件が20人以上から10人以上に引き下げられたほか、後者の要件が撤廃されるなど、加算の要件が大幅に緩和または廃止された。
 
14 科学的介護の経緯や論点については、拙稿2019年6月25日「介護の『科学化』はどこまで可能か」を参照。
15 2016年11月10日未来投資会議資料、議事概要。
16 『日経ヘルスケア』2018年4月号における老健局老人保健課の鈴木健彦課長(当時)のインタビュー記事。
17 2020年7月20日介護給付費分科会資料、議事録、同7月24日『シルバー新報』を参照。
4寝たきり防止、重度化防止の取組の推進
「介護予防・重度化防止」の3つ目として、寝たきりや重度化を防ぐための改定である。ここでは、施設系サービスでのリハビリテーション、機能訓練などに関する医学的な評価について加算する「自立支援促進加算」(1カ月当たり300単位)が創設されたほか、▽寝たきりに伴う床ずれリスクを減らすため、2018年度改定で創設された「褥瘡マネジメント加算」(改定前1カ月当たり10単位)を2区分に細分化するとともに、1カ月当たり最大加算額を13単位に引き上げ、▽2018年度改定で創設された「排せつ支援加算」を3区分にする細分化――などの見直しが図られた。これらの加算についても、LIFEのデータベース充実を図る観点に立ち、厚生労働省に対する情報提供が義務付けられている。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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