- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 介護保険制度 >
- 「治る」介護、介護保険の「卒業」は可能か-改正法に盛り込まれた「自立支援介護」を考える
「治る」介護、介護保険の「卒業」は可能か-改正法に盛り込まれた「自立支援介護」を考える

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
「治る」介護、介護保険の「卒業」は可能か-。筆者は先月25日、「自立支援は誰のため?」と題するイベントで講演者及びモデレーターとして関わり、「和光方式」と呼ばれる行政主導の地域包括ケアを独自に構築している埼玉県和光市保健福祉部長の東内京一氏、元日本経済新聞編集委員で福祉ジャーナリストの浅川澄一氏、約100人の参加者とともに、国の「自立支援介護」について議論した。
ここで言う「自立支援介護」とは、リハビリテーションの充実などを通じて、「治る」介護、あるいは要介護認定を外れる介護保険の「卒業」を含め、要介護状態の維持・改善を目指す国の政策であり、増大する介護給付費の抑制が主な目的である。特に経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)では、要介護認定率が下がった和光市や大分県の事例を引き合いに出し、自立支援介護を強化する必要性が主張され、来年4月施行の改正介護保険法では要介護度を改善した市町村を財政的に優遇するインセンティブ制度が盛り込まれたほか、来年4月に控えた介護報酬改定でも重点項目として挙がっている。
しかし、要介護度の維持・改善を図る「治る」介護、あるいは介護保険の「卒業」がどこまで可能なのだろうか、そしてどのような論点や課題があるのだろうか。本稿では自立支援介護を巡る動向を考察し、「治る介護」や介護保険からの「卒業」がどこまで可能かどうか検証する。その上で、自立支援介護の論点や課題を考えるとともに、イベントの内容を通じて、必ずしも和光方式が要介護認定の引き下げを狙っているわけではない点を指摘する。
さらに、和光方式が給付抑制の手段として国策に位置付けられたり、自治体の注目を集めたりしている背景を考察し、(1)介護保険を巡る負担と給付の在り方を考える必要性、(2)地域の事情・特性に応じたケア体制を整備する重要性-を論じることにしたい。
■目次
1――はじめに
2――自立支援介護を巡る制度化プロセス
3――国の自立支援介護を巡る論点
1|全ての高齢者に当てはまるのか
2|「自立」の意味が変化しているのではないか
3|自己選択の理念は失われないか
4|論理的な整合性が取れているか
5|和光方式は予防だけか
4――自立支援介護に注目が集まった背景
1|「和光方式=予防」のイメージ
2|国の事情
3|自治体の事情
5――おわりに
(2017年12月20日「基礎研レポート」)
関連レポート
- 介護保険料引き上げの背景と問題点を考える-財政の帳尻合わせではない真正面からの負担論議を
- 地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)-都道府県はどこに向かおうとしているのか
- 地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(2)-「脱中央集権化」から考える合意形成の重要性
- 地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(3)-「医療軍拡」と冷戦期の軍縮から得られる示唆
- 地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(4)-日常的な医療ニーズをカバーするプライマリ・ケアの重要性
- 都道府県と市町村の連携は可能か-医療・介護の切れ目のない提供体制に向けて
- 介護保険の自己負担、8月から最大3割に~求められる一層の財源確保、給付抑制の議論~

03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
三原 岳のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/17 | 政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を詳しく検討し、問題の真の原因を探る | 三原 岳 | 研究員の眼 |
2025/02/06 | 2025年度の社会保障予算を分析する-薬価改定と高額療養費見直しで費用抑制、医師偏在是正や認知症施策などで新規事業 | 三原 岳 | 基礎研レポート |
2025/01/17 | 分権から四半世紀、自治体は医療・介護の改正に対応できるか-財政難、人材不足で漂う疲弊感、人口減に伴う機能低下にも懸念 | 三原 岳 | 研究員の眼 |
2024/12/24 | 「地域ケア会議」はどこまで機能しているのか-多職種連携の促進に効果も、運用のマンネリ化などに懸念 | 三原 岳 | 保険・年金フォーカス |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月18日
今週のレポート・コラムまとめ【2/12-2/17発行分】 -
2025年02月17日
タイ経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比3.2%増~純輸出と政府支出が拡大、2期連続で+3%台の成長に -
2025年02月17日
ロシアの物価状況(25年1月)-サービスインフレ加速で前年比9.9%まで上昇 -
2025年02月17日
政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を詳しく検討し、問題の真の原因を探る -
2025年02月17日
QE速報:10-12月期の実質GDPは前期比0.7%(年率2.8%)-3四半期連続のプラス成長も、内需は低迷
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【「治る」介護、介護保険の「卒業」は可能か-改正法に盛り込まれた「自立支援介護」を考える】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「治る」介護、介護保険の「卒業」は可能か-改正法に盛り込まれた「自立支援介護」を考えるのレポート Topへ