2017年09月05日

資本コストから見たPBR効果~要因分析から今後の動向を考える~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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5――資本コストと成長率の推計

次に、低PBR銘柄、高PBR銘柄ごとに株価に織り込まれている資本コストと残余利益の成長率を(式1)を変形したROEとPBRの関係式から推計します(詳しくは最後の詳細をご覧ください)。
資本コストと残余利益の成長率
各6月時点で(式5)のように今期予想ROE(東洋経済予想純利益を使用)を被説明変数、PBRを説明変数としたクロスセクションの回帰分析を低PBR銘柄と高PBR銘柄それぞれで行います。
クロスセクションの回帰分析
なおサンプルに異常値がある場合には、回帰分析の結果は異常値の影響を大きく受けます。そのため、回帰分析前に異常値処理を行います。異常値処理として、今期予想ROE、PBR共に「平均値±3・標準偏差」から外れる銘柄は回帰分析のサンプルから外します。

直近の2017年6月時点の今期予想ROEとPBRの分布を見たものが【図表3】です。低PBR銘柄、高PBR銘柄ともPBRが高いほどROEが高い傾向があることが分かります。さらに、2017年6月時点と同様に各6月時点で回帰分析をした結果が【図表4】です。
【図表3】 2017年6月時点の今期予想ROEとPBRの分布
【図表4】資本コストと成長率の推計結果 と 資本コストのイメージ
資本コストの推移を見ると、2012年6月を除いて高PBR銘柄の資本コストが低PBR銘柄と比べて高くなっていました(【図表4】右上)。高PBR銘柄の株価に占める将来の収益の現在価値の割合が低PBR銘柄と比べて大きいためだと思います。将来の収益は保有資産と比べて不確実でリスクが高く、高PBR銘柄は低PBR銘柄と比べてリスクが高いと考えられます。リスクが高い分、高PBR銘柄の資本コストは低PBR銘柄と比べて高くなっているのではないでしょうか。(【図表4】右下)。そのため、資本コストの差が小さかった2012年6月や2016年6月は、低PBR銘柄に(資本コストからみて)割安感があったといえるでしょう。

成長率については、全ての時点で高PBR銘柄が低PBR銘柄と比べて高くなっていました(【図表4】左下)。PBRが高い銘柄ほど、投資家は高成長を株価に織り込んでいることが分かります。
 

6――2016年度はバリュエーション変化が大きく寄与

6――2016年度はバリュエーション変化が大きく寄与

前章で推計した資本コストと成長率を用いて、寄与分析した結果が【図表5】です。結果を詳しく見ていきましょう。

まず、「①業績の寄与」の推移をみると2015年度を除いて、低PBR銘柄の方が高PBR銘柄に比べて大きくなっていました(【図表5】左上)。これは各6月時点で予想EPS/株価が低PBR銘柄の方が大きくなっており(【図表6】左)、実際の業績着地が予想から大きく乖離しなければ、低PBR銘柄の業績寄与が相対的に大きくなるためです。2015年度以外は業績が概ね予想通りの着地になったため、業績面はPBR効果にプラスに働いていたといえます。

その一方で2015年度は、高PBR銘柄では業績の寄与がプラスだったのに対して、低PBR銘柄ではマイナスだったため、PBR効果にマイナスに働いていました。2015年度は資源価格の急落し、資源関連銘柄(原油関連、商社)が赤字に転落しました。その影響などによって特に低PBR銘柄の業績が期初予想から大きく外れ、低迷したためです。低PBR銘柄の業績低迷は、2015年度にPBR効果が逆効果になった理由の一つといえるでしょう(【図表5】右下)。
【図表5】 リターンの要因分解
次に「②成長の寄与」の推移をみると、高PBR銘柄では全ての年でプラスでした(【図表5】右上)。高PBR銘柄の残余利益は、一貫して成長(拡大)していたことがわかります。その一方で低PBR銘柄では、2013年度は大きくプラスに寄与していましたが、2012年度と2015年度はマイナスに寄与していました。高PBR銘柄の方が低PBR銘柄よりも高成長であったため、成長面はPBR効果に対してマイナスに働いている年が多かったことが分かります。

最後に「③バリュエーションの変化」については、2014年度までは高PBR銘柄の方が低PBR銘柄に比べて大きくなっていました(【図表5】左下)。その一方で、2015年以降は逆に低PBR銘柄の方が高PBR銘柄に比べて大きくなりました。

2012年度や2014年度のように、資本コストが全体的に低下した年は(【図表6】右)、「③バリュエーションの変化」は高PBR銘柄が大きくなりやすいことが分かります。これは高PBR銘柄の方が低PBR銘柄と比べて資本コストと成長率の差が小さく、株価が資本コストの変化の影響を受けやすいためです。逆に資本コストが全体的に上昇した2015年度は、低PBR銘柄の方がバリュエーションのマイナス寄与が高PBR銘柄と比べて相対的に小さくなっています。

2016年度は低PBR銘柄と高PBR銘柄で「③バリュエーション変化」の符号が異なっていました。低PBR銘柄では資本コストが低下してプラス、その一方で高PBR銘柄では資本コストが上昇してマイナスだったため、低PBR銘柄と高PBR銘柄のバリュエーション変化の差が大きくなりました。2016年度に久々にPBR効果があらわれたのは、「③バリュエーション変化」の差が大きかったことが主な要因であることが分かります(【図表5】右下)。

では、なぜ2016年度に低PBR銘柄と高PBR銘柄のバリュエーションが調整したのでしょうか。まず、2015年度に低迷した低PBR銘柄の業績が、2016年度は再び拡大したことを投資家が好感したことが挙げられます。ただ業績の反転だけでなく、2016年6月時点で低PBR銘柄と高PBR銘柄との資本コストの差が小さく、低PBR銘柄に割安感があったことも大きく関係したと思います(【図表6】右)。つまり、割安感が元々あったところに、期中に業績が反転したため、低PBR銘柄が大きく反発したのではないでしょうか。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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