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2025年05月28日

4月から始まった「かかりつけ医」の新制度は機能するのか-地域の自治と実践をベースに機能充実を目指す仕組み、最後は診療報酬で誘導?

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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3――かかりつけ医機能報告制度の概要

1|2023年通常国会における法改正の内容
まず、2023年通常国会で改正された医療法の内容は図表2の通り、(1)医療機関や薬局の機能を明らかにするため、都道府県が運営している「医療機能情報提供制度」の刷新、(2)「かかりつけ医機能報告制度」の創設、(3)患者に対する説明――という3つに整理できる。

このうち、(1)では、医療機関や薬局の状況を住民に公表するため、都道府県が運営している「医療機能情報提供制度」を抜本的に見直すことで、患者に対する情報提供の充実が企図されている。さらに、(2)では、かかりつけ医機能の現状について、都道府県が診療所や中小病院から報告を受ける「かかりつけ医機能報告制度」を創設する部分である。(1)(2)は一体的に運営されることになっており、制度運営の流れを説明する中で、併せて説明する。

(3)の「患者に対する説明」では、慢性疾患の患者の求めに応じて、(2)の確認を受けた医療機関が提供する医療の内容を書面で交付する仕組み。こちらは(1)(2)を説明した後、簡単に述べる。
図表2:2023年通常国会で成立した仕組みの概要
2|新制度の主な流れ(1)機能報告の「1号」
今回の新制度では図表3の通り、かかりつけ医機能を果たしている診療所や中小病院が自らの機能を都道府県に報告する部分から始まる。これは「1号機能」「2号機能」に分かれているので、別々に説明する。
図表3:かかりつけ医機能報告制度の流れ
このうち、1号機能では「かかりつけ医が身近な病気やケガに対応できているか」という点を可視化することに力点が置かれている。具体的には、図表4の通り、診療現場で一般的な17の診療領域、40種類の疾病について、医師が対応しているかどうか報告する。特に、40種類の疾病については、厚生労働省が実施している『患者調査』を基に、推計の外来患者数が多い傷病から設定された。

つまり、かかりつけ医機能報告制度に手を挙げる中小病院や診療所の医師が普段、診療や検査などに際して、どこまで身近な病気やケガに対応しているか、報告してもらうことに力点が置かれている。

さらに、▽日医が実施している「かかりつけ医機能研修制度」の修了者数、▽総合診療医の専門医資格を有している医師の数、▽マイナンバーカードを保険証代わりに使う「オンライン資格確認」を含めた「全国医療情報プラットフォーム」の参加・活用状況、▽服薬の一元管理に関する実施状況――なども報告してもらうことになっている。

このうち、かかりつけ医機能研修制度は2016年度から始まった取り組みであり、身近な病気やケガへの対応とか、在宅医療、学校医、オンライン診療、感染症対策などについて、日医幹部や現場の医師らが講義し、希望する医師が所定の講座を受講。有効期間(3年)の間に修了すると、都道府県医師会から修了証書または認定証が発行される11

しかし、「機能」を強化するための研修であり、数字で試験結果を測定したり、合否が決まったりする「能力」試験ではない。これは「患者さんにもっともふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできません」12という日医の考え方に基づいている。
図表4:かかりつけ医機能報告の「1号機能」で報告が求められる情報
 
11 具体的には、かかりつけ医が「患者中心の医療」「継続性を重視した医療」「チーム医療、多職種連携」「社会的な保健・医療・介護・福祉活動」「在宅医療」といった機能を果たせることを目指しており、カリキュラムについては、▽日医が発行する「生涯教育認定証」の取得などを要件とする「基本研修」、▽かかりつけ医としての倫理や質・医療安全や健康増進、在宅医療・緩和医療などの講座を日医幹部や現場の医師らから学ぶ「応用研修」、▽学校医や多職種連携会議への参加、訪問診療などを現場で学ぶ「実地研修」――の3つに分かれている。これまでに認定期間(2021~2023年度)で有効な実人数は4,195人、累計で1万4,162人が受講しているという。
12 2022年4月27日会見における日医の中川会長の発言。同日『m3.com』配信記事を参照。
3|新制度の主な流れ(2)機能報告の「2号」
さらに、新しい制度では、1号機能を報告した診療所や中小病院が「2号機能」を都道府県に報告することになっている。ここでは図表5の通り、(1)通常の診療時間外の診療、(2)入退院時の支援、(3)在宅医療の提供、(4)介護サービス等と連携した医療提供――という4つが示されており、それぞれ公表を求める活動状況が細かく書かれている。

例えば、1番目の時間外診療では、自院または連携している医療機関で実施されている時間外診療の状況や夜間・休日などの診療を評価する診療報酬上の加算(ボーナス)である「時間外対応加算」の取得状況13などが挙がっている。

2つ目の「入退院時の支援」では高齢者などが急変時に入院したり、回復時に退院したりする際、手術などを実施する医療機関と、外来や在宅医療を提供する診療所や中小病院の円滑な連携が重視されている。具体的には、▽急変時に患者を受け入れる「後方支援病院」の確保状況、▽「入院時支援加算」など患者が入院した際の情報共有に関する加算の算定状況、▽地域で作られている「退院支援ルール」「地域連携クリティカルパス」の参加状況、▽診療所や中小病院から紹介患者を受け入れる「特定機能病院」「地域医療支援病院」「紹介受診重点医療機関」から紹介を受けた患者数14――などが列挙されている。
図表5:かかりつけ医機能報告の「2号機能」で報告が求められる4つの機能に関する情報
3点目の「在宅医療の提供」では、▽自院または他の医療機関との連携の下で提供されている在宅医療の体制状況、▽訪問診療や往診、訪問看護の診療報酬項目の算定状況、▽在宅看取りの実施状況――などの報告を診療所や中小病院に求める。

最後の「介護サービス等と連携した医療提供」では、要介護認定に用いられる「主治医意見書」の作成とか、多職種連携の場である「地域ケア会議」などへの参加15、介護保険サービスの調整などを担う介護支援専門員(ケアマネジャー)や障害者福祉の支援計画を作る相談支援専門員からの相談機会の設定、この情報共有に関する診療報酬項目の算定状況、介護保険施設に対する医療の提供状況なども挙がっている。

さらに、介護との連携では報告事項として、「ACP」(アドバンス・ケア・プラニング)の実施状況も盛り込まれた。これは将来の医療や介護について、患者が家族や専門職と話し合うとともに、その内容を共有する取り組み。2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が策定され、これに基づく対応が2020年度診療報酬改定の後、医療機関や介護事業所に対する要件の一つとして段階的に加えられている。

このほか、4つの機能以外でも、学校医など厚生労働省令で定める機能も報告対象となっており、概ね図表1の定義と一致した内容になっている。
 
13 時間外対応加算は要件や加算額に応じて、「1~4」の4種類に分かれている。
14 ここで言う特定機能病院とは高度医療の提供を担う医療機関、地域医療支援病院とは紹介患者への医療提供や医療機器の共同利用などを担当する医療機関、紹介受診重点医療機関とは紹介患者を中心に受け入れる医療機関を指す。
15 ここで言う「地域ケア会議」とは多職種連携の下、「個別課題解決」「ネットワーク構築」「地域課題発見」「地域づくり・資源開発」「政策形成」という5つの機能が期待されている。現状と論点については、2024年12月24日拙稿「『地域ケア会議』はどこまで機能しているのか」を参照。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月28日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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