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成立した年金制度改正が将来の年金額に与える影響

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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今回の改正で実施される主な見直しは、(1)厚生年金の適用拡大、(2)在職老齢年金の減額対象者の縮小、(3)標準報酬月額の上限の引上げ、(4)遺族厚生年金の男女差解消、(5)厚生年金の給付調整(マクロ経済スライド)の緩和した上での継続、である。これらを反映した改正後の将来見通しを改正前の将来見通しと比べると、基礎年金(1階部分)では、経済前提が成長型経済と過去30年投影のいずれでも、給付調整の停止年度が早まり、給付調整停止後の給付水準の目減り度合が縮小する(図表1)。他方で、改正後の将来見通しは、今回の改正のうち厚生年金の適用拡大のみを反映した将来見通し(図表1の[拡大のみ])1と、ほぼ同じになっている。このことから、前述した改正の影響の大半は、適用拡大によるものと考えられる。
厚生年金(2階部分)については、成長型経済(実質1%成長)で給付調整の停止年度が2030年度となっているのは、今回の改正で2030年度までは給付調整を緩和した上で継続することとした影響と考えられる。過去30年投影(実質ゼロ成長)では給付調整の停止年度が2031年度に延びているが、このうち2028年度までの延びは[拡大のみ]で確認できる厚生年金の適用拡大の影響であり、それ以上の延びは前述した他の改正の影響と考えられる2。
1 厳密には、[拡大のみ]は2024年7月に公表されたオプション試算の1つであり、パート労働者の企業規模要件の拡大の施行時期や個人事業所の業種要件撤廃の配慮措置などの点で、成立した改正とは異なる。
2 改正後では、[拡大のみ]と比べて、給付調整の停止年度が延びているにもかかわらず給付水準の将来的な目減り度合が同程度なのは、今回の改正で2030年度までは給付調整が緩和されるためだと考えられる。
65歳時点の年金月額が10万円未満となる比率を見ると(図表2上段)、将来に受給する世代では改正前よりも改正後で低く、その傾向は女性で強い。これには、(1)年金額が少ない場合には厚生年金が低額で年金額に占める基礎年金の割合が大きい場合が多いため、年金制度全体で生じる基礎年金の目減り度合が縮小する影響が現れやすい、(2)女性は男性と比べてパート労働者の期間が長い傾向があるため、厚生年金の適用拡大によって厚生年金の加入期間が増えて厚生年金額が増える影響が現れやすい、という理由が考えられる。これらは、改正後の比率が図表2の[拡大のみ]と概ね同じになっている点で、確認できる。
65歳時点の年金月額が20万円以上となる比率を見ると(図表2下段)、将来に受給する男性で、改正前よりも改正後で高い傾向が見られる。改正後の比率は[拡大のみ]よりも高いことから、この傾向は標準報酬月額の上限が引き上げられる影響だと考えられる。この点は、改正前の上限に該当する割合が、女性では2%なのに対して男性では10%であることからも裏付けられる。
3 改正の影響を把握するには、同じ世代や性別で改正前と改正後を比較する必要がある。65歳時点の年金額(名目額)は物価上昇率よりも高い賃金上昇率に連動して毎年度改定されるため、物価上昇率で現在価値に換算しても、将来の年金額ほど増える仕組みになっている。
(2025年09月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
中嶋 邦夫のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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