2025年04月17日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2024年】~都心は価格上昇が加速。一方、下期にかけて南西部は伸び率鈍化、北部と東部は下落に転じる。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(4) 新築マンション市場を取り巻く需給環境
次に、東京23区の新築マンション市場を取り巻く需給環境を確認し、2024年の価格上昇要因について考察する。不動産経済研究所によれば、東京23区の新築分譲マンションの新規供給は、2013年をピークに減少傾向が続いている。2024年の新規供給戸数は8,275戸(前年比▲31%)となり、31年ぶりに1万戸を下回った。直近のピークである2013年(約2.8万戸)と比較すると、約3割の水準にとどまっている(図表-5)。
図表-5 新築分譲マンションの新規供給戸数<東京23区>
建設物価調査会「建築費指数」によれば、東京の「集合住宅(RC造)」の建築費は、構造的な人手不足や資材価格の上昇などを背景に、上昇基調で推移している。特に2021年以降は上昇率が顕著で、2024年は「132」(前年比+7%)となり、直近4年間の上昇率は+26%に達している(図表-6)。
図表-6 「集合住宅(RC造) 建築費指数 (東京)
土地総合研究所「不動産業業況等調査」によれば、「住宅・宅地分譲業」における「用地取得件数」の動向指数は、2024年に入りマイナス幅が縮小傾向にあるものの、マイナス圏(取得件数減少)で推移している。不動産投資家の関心が訪日外国人需要に沸くホテル市場に集まる8なか、マンション開発適地が、ホテル開発用地として取得されるケースも増加している9。こうした状況を踏まえると、デベロッパーによる開発用地の取得は引き続き低調な状況にある(図表-7)。

人手不足等に伴う建築コスト上昇や開発用地の不足を背景に、マンションデベロッパーは慎重な供給姿勢を崩しておらず、新築マンションの新規供給は低水準で推移していると考えられる。
図表-7 「住宅・宅地分譲業」の「用地取得件数」の動向指数
続いて、マンション需要に影響を及ぼす人口移動(日本人移動者)を確認する。総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2024年の東京23 区の「転入者数」は35.7万人(前年比▲0.4%減少)、「転出者数」は31.3万人(同▲2.6%減少)、「転入超過数」は+4.8万人(前年比+14.2%)となった(図表-8)。

東京23区への人口流入は、依然としてコロナ禍前の水準に至っていないものの、着実に回復傾向にある。こうした良好な需給環境を背景に、東京23区の新築マンション価格は上昇基調を維持していると考えられる。
図表-8 転入者数および転出者数(日本人移動者・東京23区)
 
8 今年1月にニッセイ基礎研究所が国内の不動産実務家等に実施した「不動産市況アンケート」において、「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「ホテル」(73%)との回答が最も多かった。
 吉田資『良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。~期待はホテルと産業関係施設(データセンターなど)が上位。リスク要因として、国内金利と米国政治・外交への警戒高まる~第21回不動産市況アンケート結果』 (ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート 2025年2月4日)
9 日本経済新聞 ビジネスTODAY「首都圏マンション発売5割減 用地争奪、ホテルに敗れる」(2024年9月12日)
2-2.「エリア別価格指数」の算出
(1) 「エリア別価格指数」(年次)の算出結果
図表-9に、東京23区の「エリア別価格指数(年次)」の算出結果を示した。同指数は、東京23区を、居住世帯等の特徴が異なる4つのエリア(都心10・南西部11・北部12・東部13)に分類したサブインデックスである。

2024年の価格指数(2005年=100)は、都心が「310.8」(前期比+29%)、南西部が「218.6」(同11%)、東部が「221.4」(同+15%)、北部が「208.8」(同+9%)となり、都心が最大の上昇率を記録した。

リクルート「2024年首都圏新築マンション契約者動向調査」によれば、「住まいの購入理由」として、「子どもや家族のため、家を持ちたいと思ったから(36.1%)」(前年比±0ppt)との回答が最も多く、次いで、「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから(34.7%)」(同±2.7ppt)との回答が多かった。新築マンション購入時に、資産性を重視する傾向が強まっており、都心のマンション価格を押し上げた要因の1つと考えられる。

また、都心のマンションは、外国人の購入意欲も高い。日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」(2024年10月時点)によれば、東京(港区元麻布)のハイエンドクラスのマンション価格を「100.0」とした場合、香港は「258.7」、ロンドンは「206.3」、ニューヨークは「140.8」、シンガポール「138.6」となっている。東京の住宅価格は、世界の主要都市と比べると円安の影響などもあり、低い水準にある。こうした状況のなか、港区の一部地域(青山・麻布・赤坂)は資産性に加えて、大使館や主要外資系企業の通勤アクセスが良好であるため、特に高い人気を集めている14
図表-9 「新築マンション価格指数」(東京23区、都心、南西部、北部、東部)(2005年=100、年次)
 
10 都心:「千代田区」・「中央区」・「港区」・「渋谷区」・「新宿区」・「文京区」
11 南西部:「品川区」・「目黒区」・「大田区」・「世田谷区」・「杉並区」・「中野区」
12 北部:「北区」・「板橋区」・「練馬区」・「豊島区」
13 東部:「江戸川区」・「江東区」・「台東区」・「墨田区」・「荒川区」・「足立区」・「葛飾区」
14 日本経済新聞電子版「気がつけば「2億ション」 東京都心100平米未満も」(2024年12月2日)
(2) 「エリア別価格指数」(半期)の算出結果
続いて、図表-10,11に、「エリア別価格指数」の半期毎の算出結果を示した。

2024年下期の価格指数(2005年上期=100)は、都心「334.0」>東部「226.8」>南西部「224.4」>北部「214.6」となった。

2024年の上昇率を上期と下期に分けて確認すると、都心(上期13%/下期16%)は下期にかけて上昇率が拡大した一方、南西部(上期8%/下期3%)は下期に上昇率が縮小し、北部(上期5%/下期▲1%)と東部(上期11%/下期▲1%」は下期に下落に転じる結果となった。
図表-10 「エリア別価格指数」 (都心、南西部)(2005年上期=100、半期)
図表-11 「エリア別価格指数」 (北部、東部)(2005年上期=100、半期)
国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」によれば、分譲集合住宅に住み替えた世帯に、住宅選びの際に妥協した点を質問したところ、「価格(予定より高くなった)」(46%)との回答が最も多く、約5割を占めた。また、スタイルアクト「マンション購入に関する意識調査」(2025年2月時点)によれば、東京23区でマンション購入を検討している層に、現在のマンション価格に関する認識を質問したところ、「購入をためらうほど高い」(57%)との回答が最も多く、次いで「購入を諦めるほど高い」(27%)が多かった。東京カンテイの調査によれば、2023年の新築マンション価格の年収倍率15は、東京都では約18倍に達した。マンション購入の実需層が、価格高騰に追随することが難しくなり、投資目的での購入を多く含む「都心」を除き、周辺エリアでは価格上昇が頭打ちとなった可能性が考えられる。
 
15 マンション価格(70m2換算)を平均年収で除し、新築価格が年収の何倍に相当するかを算出したもの。

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(2025年04月17日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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