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2025年09月03日

外国人が支える人口動態~多言語対応等の居住支援が喫緊の課題

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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不動産市場に大きな影響を及ぼす「人口動態」は、出生・死亡に伴う「自然増減」と、転入・転出等に伴う「社会増減」に大別される。特に、「社会増減」は、地域経済や居住環境などの地域の魅力を表した指標とも言われており、住宅等の不動産需要を見通す上で重要といえる。
 
総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2024年)をもとに、社会増減数1を都道府県別にみると、「社会増加」(社会増減数がプラス)の都道府県は「20」となり、半数以下であった(図表1)。社会増減数を日本人と外国人に分けて確認すると、外国人は全ての都道府県で「社会増加」であったのに対し、日本人が「社会増加」であった都道府県は「6」(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・大阪府・福岡県)のみであった。約3割の都道府県が日本人の減少を外国人の増加で補い全体で「社会増加」を維持していたことになる。また、日本人の「社会増加」が外国人を上回った都道府県はなかった。人口動態において、外国人の影響力は非常に大きい。
 
図表1:都道府県別社会増減数
続いて、政令指定都市の社会増減数を確認すると、「浜松市」(▲533人)と「広島市」(▲258人)を除く全ての都市が「社会増加」であった(図表2)。一方で、社会増減数を日本人と外国人に分けて確認すると、日本人が「社会減少」であった政令指定都市は「20」の内、「9」に達した。「7」政令指定都市(新潟市・静岡市・京都市・堺市・神戸市・岡山市・北九州市)では、日本人の減少を外国人の増加で補い全体で「社会増加」を維持しており、日本を代表する大都市の人口動態においても、外国人が支えている部分が大きい。

最後に、東京23区の社会増減数を確認すると、全ての特別区が「社会増加」であった(図表3)。社会増減数を日本人と外国人に分けて確認すると、日本人の「社会増加」が外国人を上回った特別区は「9」(中央区・台東区・墨田区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区・練馬区・足立区)と半数以下であり、東京23区でも、外国人の存在感が高まっている。
 
総務省「令和2年国勢調査」によれば、「外国人のみの世帯」では、「民営の借家」に住む世帯が最も多く、46%を占めている。日本各地で賃貸住宅の利用者として、外国人の存在感が高まっている一方、受け入れの体制はまだ不十分な部分もあるようだ。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「賃貸人の実態調査」(2022年度)によれば、外国人入居者の受け入れを行っていると回答した賃貸人は3割弱に留まった。
 
また、サーベイリサーチセンター「2023第三回在留外国人総合調査」によれば、在留外国人が住宅を探す課題として、「外国人という理由で入居を断られた」(40%)との回答が最も多く、「保証人がいなかった」(33%)が多かった。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「外国人入居者の実態調査」によれば、外国人が日本で賃貸住宅を探す際に、約7割の外国人が何らかの不便を感じており、具体的な事例として、「母国語に対応した不動産会社やポータルサイトがない」等が挙がっている。
 
今後も、外国人労働者や留学生の流入は続くと見込まれ、不動産サービスの利用者として外国人の存在感は更に高まると見込まれる。一方、外国人の住居選択は、上記の問題等に伴い、選択肢が豊富とはいえない現状にある。不動産オーナーは自治体等と連携し、多言語対応等の外国人に向けた居住支援を行う必要性が高まっているだろう。
図表2:政令指定都市別社会増減数・図表3:東京23区社会増減数
 
1 社会増減数=(転入者数-転出者数)+(国外からの転入者数-国外への転出者数)+移動前の住所地不詳 -職権消除等

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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