コラム
2023年07月12日

将来人口推計に基づく2070年の外国人労働者依存度について-産業別の推計

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――総人口に占める外国人比率は2070年に 10.8%まで拡大

本年4月に、国立社会保障・人口問題研究所から日本の将来人口推計が公表された。この推計は、社会保障政策や制度の立案時に使用されてきた。厚生労働省が行う国民生活基礎調査などをもとに、5年に1度改定される。本来であれば、昨年に改定の時期を迎えるはずであったが、コロナ禍の影響で関連統計が調査中止となり、1年遅れでの公表となった。

今回の人口推計における最大の特徴と言えるのが「外国人の入国超過数」の増加である。推計では、2070年に総人口は8,700 万人と2020年国勢調査による1億 2,615 万人から▲31.0%減少する見込みである一方、外国人人口は939万人と2020年同調査による275万から+2.4倍に増加する見込みとされた。これは、入国超過数が高水準にあった直近の状況が、維持されるとの仮定に基づいている。具体的には、コロナ禍の影響が大きかった2020年を除く、2016年から2019年までの実績値から入国超過数の平均を求め、その水準の入国超過数が今後も続くとの想定を置いている。これは、外国人の入国超過数が、前回2017年推計との比較で約+2.4倍に増える計算であり、毎年16.4万人ずつ増えるとされる。

日本人人口は、少子高齢化と人口減少により減少が続くと見込まれる一方、外国人人口は増加が続くとの見込みであり、総人口に占める外国人比率は、2070年に10.8%(2023年1月1日時点:2.3%1)まで上昇する。
 
1 総務省統計局「令和5年6月報」(2023年1月確定値)

2――労働者に占める外国人比率は2070年に 12.3%まで拡大

今回の推計では、外国人が日本社会を下支えしていく構図が明確である。日本で暮らす外国人の多くは若く、社会にとって貴重な働き手となっている現状を踏まえると、この構図は労働力の面から見たとき、より一層鮮明になる。

外国人労働者に対する依存度は、就業者数に占める外国人労働者数の割合として表すことができる。[図表1]は、現在の労働参加率や産業構造などが変わらないという一定の仮定を置いたうえで、2022年時点の日本人と外国人それぞれの労働者数を、今回推計における生産年齢人口(15歳以上64歳未満)伸び率で、引き伸ばした推計結果である。
[図表1]外国人労働者に対する依存度
これを見ると外国人労働者への依存度は、2070年に「産業計」で12.3%(2022年時点:2.7%)、「サービス業(他に分類されないもの)2」で28.5%(同:6.3%)、「宿泊業,飲食サービス業」で24.4%(同:5.4%)、「製造業」で20.9%(同:4.6%)、「情報通信業」で12.5%(同:2.7%)、「学術研究,専門・技術サービス業」で11.7%(同:2.6%)に高まることが予想される。

これは、産業全体が2050年頃には、現在のコンビニと同程度の依存度(2020年時点の外国人従業員比率:9.0%3)に上昇することを意味する。とりわけサービス業では、3人に1人が外国人となるなど、もはや外国人抜きには産業が立ち行かない状況が生じると見込まれる。
 
2 サービス業(他に分類されないもの)には、ビルメンテナンス業、自動車整備業、警備業などが含まれる。
3 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「新たな外国人材受入れに係るコンビエンスストア業界の考え方」
(2020年6月11日)

3――人口減少社会を乗り越える、日本の選択肢

今回の人口推計は、日本社会に「日本の将来像をどう描くのか」の重い問いを投げ掛けたものだと言える。 日本の人口減少は深刻な問題であり、このままでは経済・労働・産業等、あらゆる面で問題が出て来る。とりわけ、少子高齢化で進む働き手の枯渇という問題は、現実的な対応をもって当たる必要があり、即戦力となり得る外国人には大きな期待が掛かる状況である。

ただ、これだけ外国人が増えると、様々な面で課題が生じると思われる。例えば、外国人子女の教育問題や金融包摂の問題、日本の雇用慣行の問題など。社会の法制度や企業の商習慣など、多くのことを大きく変えていくことが必要になる。

また、今回の推計では、外国人が毎年16.4万人ずつ増えていくとの前提が置かれているが、世界的に高齢化が進む中で、外国人材をめぐる獲得競争は、激しくなっていくことが予想される。外国人に日本を選んでもらうためには、今から準備を進めていくことが欠かせない。そろそろ現実的な外国人政策が、本気で必要になって来たと言える。

なお、これとは逆に、外国人への依存度を極力下げる方向に舵を切るのであれば、日本は相当大きな構造転換を覚悟しなければならない。少子化対策に今から振り切ったとしても、働き手が実際に増えるのは20年近く先の話であり、その間の生産年齢人口の減少は、毎年平均▲72.3万人という計算になる。これは、人口規模で全国第44位の徳島県に匹敵する規模であり、この規模の働き手が毎年消滅していくことを意味する。個人の働き方、企業のビジネスモデル、社会の規範制度など、様々なものを大きく変えていく必要がある。

将来の在り方は、国民の総意に基づいて決められるべきものである。日本の将来像をどう描くのか。議論を始めるだけでなく方向性を決めて、実際に動くところまで求められていると言えよう。
 
 

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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年07月12日「研究員の眼」)

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