2024年12月25日

米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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11――検討

1|一般検索サービス市場は関連市場か
シャーマン法2条違反(私的独占違反)となるためには、まず当該事業者(ここではGoogle)が独占力を有する市場を特定しなければならない。この特定された市場が関連市場である。関連市場として認識するためには、事業者が商品・サービスの値段を引き上げたときに、需要が他に流れる範囲内で確定される。ただ、一般検索サービスには価格がないので、従前のプラットフォームの競争法の裁判例ではサービスの品質を低下させた場合に他に需要が流れる範囲で市場を画定する考えが示されていた4。この点、本件でも事実認定のなかでは、Googleは品質低下研究を行っており、ほとんど収益に影響がなかったことが述べられている(3-Google検索の3|社内品質研究を参照)。

しかし、本判決においては、このようなアプローチを取らず、クエリに対して応答する互換性の認められる可能性のある他のサービス、すなわち、SVP(Amazonなど)やソーシャルメディア(Facebookなど)が一般検索サービスの代替にならないことを詳らかに判示している。すなわち、応答は販売されている商品あるいは投稿されたコンテンツという「限られた庭」からのものしかなく、一般検索サービスの代替とはならないと判示している。このようなアプローチで、一般検索サービス市場の範囲を画定している点に特色がある。
 
4 基礎研レポート「Facebook 反トラスト訴訟中間判決の概要」 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/68608_ext_18_0.pdf?site=nli p8等参照。
2|一般検索サービス市場での独占力
一般検索サービス市場が独立した関連市場であると判断されれば、Googleが独占力を有していることは10年以上8-9割のシェアを有していることから明白である。

また、新規参入には数十億ドル~数百億ドルかかるというのであるから参入障壁の存在が認められる。加えて、実態的にも新規参入者が二社しかおらず、一社は数%のシェアのみ、かつもう一社は退出したというのであるから、参入障壁は十分に高いと言える。
3|一般検索サービス市場での反競争的行為
排除行為(反競争的行為)として認定されているのは、Appleや端末を販売している通信業者やOEM、ブラウザ提供会社であるMozillaとの間で、Google検索をデフォルトに設定するという契約である。契約の内容はさまざまであるが、たとえば端末の中央に検索枠を設定するといった規定になっている。この場合、Apple及び端末販売者が複数の検索枠を設けるのが現実的ではないというのは、判決が述べる通りであろう。

判決文の事実認定のところでも記載がある(本稿では省略)が、Windows PCを購入したときにユーザーの多くが行うのは、デフォルトで設定されているEdgeブラウザをChromeに変更することである。これはGoogle検索を利用するためである。したがって、端末にデフォルト設定すること自体はそのままでは反競争的行為とはならない。

しかし、このことはシェアの小さな一般検索エンジン事業者について言えることで、シェアの大きな一般検索エンジン事業者では問題となり、独占的事業者が行えばシャーマン法2条違反となる。具体的には、Google検索がデフォルトで設定されている端末は、スマートフォンではほぼすべて(iPhone端末およびAndroid端末)である。また、PCでもApple社製のPCではGoogle検索がデフォルトで設定されている。これらの端末においては、ユーザーがほとんど他の検索エンジンを利用することがない(最も有力な競合者であるBing(Windows端末のデフォルトに設定)が検索全体で10%程度に過ぎない)。この点を考えれば、Google検索がデフォルトに設定されていることは、他の検索エンジンがユーザーに注目され、利用されることを阻んでいると言ってよいだろう。したがって反競争的行為も認められると考える。
4|一般検索テキスト広告市場は関連市場か
一般検索テキスト広告市場は特有の関連市場であろうか。本文で述べている通り、ディスプレイ広告と検索広告は前者がユーザーの認知を高めることを目的(ファネル上部)として広告主が出稿するのに対し、後者は購買行動に誘導することを目的(ファネル下部)とする。

そして検索広告市場と一般検索テキスト広告市場との関係は、後者が前者の一部であると判決文は述べる。そして一般検索テキスト広告市場が独自の市場として成立する最も重要なポイントとして、幅広い広告主が利用できる点を判決文は指摘する。そして、例として挙げられているのはJPモルガンである。確かに投資銀行業務や証券取引を行う同社が、自社のウェブページに見込み客を誘導する手段として、もっとも考えうる方法としては、一般検索テキスト広告の利用であろう。逆に、一般検索テキスト広告以外で有望な見込客を自社ウェブページに誘導する効率的な方法はないようにも思われる。一般検索エンジンなしにはJPモルガンのウェブページは訪問者の訪れない場所になってしまいかねない。

したがって、一般検索テキスト広告市場は関連市場と考えてよいと思われる。
5|一般検索テキスト広告市場でGoogleは独占者か
判決文の反競争的効果の部分ではGoogleの一般検索テキスト広告市場でのシェアを45%と認定している。この数字はデフォルト設定された検索枠からの検索結果をベースとするもので、それ以外も含むとGoogleの一般検索テキスト広告市場シェアは判決文の事実認定の部分にある通り88%である。45%という数字は、上述の関連市場の独占力を認定した部分でも80%~88%としたことと矛盾しているように見える。さらに、これまでシャーマン法違反となるシェアの目安は65%以上、あるいは3分の2以上などと判示されてきた5。65%という数字が絶対的なものではないにせよ、デフォルト経由の45%の認定だけで独占力を認定できるのか問題がある。しかし、この点については、以下のように考えるべきではないだろうか(図表11参照)。
【図表11】裁判所が考えているだろう反競争的行為
まず、Googleは一般検索テキスト広告市場において、広告費の支出を競合者に流出させることなく一度に5%から15%の引き上げを行ってきたという事実が認定されている。その結果、広告収入が毎年、対前年比20%以上の成長率を維持しているとのことであった。また、判決文にある通り、広告主がBingへ割り当てる一般検索テキスト広告料は全体の10%を超えることがないという反競争的効果が生じている。つまり裁判所は直接的アプローチである超競争的価格の設定を関連市場内でGoogleが行ってきたと考えているのではないか。そうだとすると価格を支配し、競争を排除したことは同時に、反競争的行為であり、またその効果も認められる。判決文は、このような考え方からシャーマン法2条違反を導いたものと考えられる。
 
5 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/69124_ext_18_0.pdf?site=nli p11参照

12――おわりに

12――おわりに

はじめにでも述べた通り、米国司法省はGoogleに対して、Chromeの切り離しを要求しているとのことである。Chromeがデフォルトでプリセットされているのは、Android端末だけである。したがって、Apple製品およびWindowsは影響を受けない。

現在、ChromeにはGoogle検索がデフォルトで設定されているので、仮に切り離すことになった場合、買い受ける主体にはGoogle検索以外の一般検索エンジンを採用するように要請することになろう。なぜならばChrome自体が収益を生んでいるわけではなく、Google検索広告が収益を生むからである。

Googleは控訴する構えである。Chromeが切り離され、Google検索以外の一般検索エンジンを搭載することになれば、大きな影響を受けるからである。本文で述べた通り、Chrome経由のクエリは米国内のシェアの20%を占めている。

ここでEUのデジタルマーケット法(Digital Market Act、以下「DMA」)が一般検索エンジンをどう取り扱っているのかを見ておこう。DMAではGKはオンライン検索サービスを提供する第三者事業者に対して、その要求により、公正かつ合理的、非差別的な条件において、GKの運営するオンライン検索サービスにおけるランキング、検索ワード(query)、クリック、閲覧データを開示しなければならない。検索ワード、クリック、閲覧については匿名化されなければならない(6条11項)とする。DMAにより、Googleからデータを開示させることで競合社の出現を促進することをEUは考えていたと思われる。

まだ第一審段階であるが、本判決の意義は大きい。引き続き注視していきたい。

(2024年12月25日「基礎研レポート」)

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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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