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- Google独禁法違反被疑事件-公正取引委員会による審査・意見募集
コラム
2023年11月08日
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2023年10月23日、公正取引委員会はGoogleに対する独占禁止法違反被疑事件の審査の開始および一般に対する意見募集を開始した1。本稿ではこの事件に関する背景事情等を解説したい。
意見聴取の対象となる独占禁止法被疑事件の対象となる行為は、概略、以下である。
(1) GoogleはAndroid端末スマホメーカーとの間で、アプリストアである「Google Play」を当該メーカーのスマホに搭載させるにあたって、Googleの検索サービスアプリ(Google Search)を搭載させ、かつ検索アプリの配置を指定していたこと2
(2) GoogleはAndroid端末スマホメーカーとの間で、競合する検索サービスアプリを搭載しないことを条件に、Googleの検索サービスからの収益を分配する契約を締結すること
これらが問題視しているのは、Google検索サービスアプリと競合する検索サービスアプリを市場から排除する行為が行われ、それが独占禁止法の私的独占の禁止に該当するかどうかであると考える (独占禁止法2条5項)。ただし適用条文は明記されていないので、可能性としては排他条件付き取引(独占禁止法19条、不公正な取引方法11項)もありうるが、本稿では市場競争に重大な影響を及ぼす行為として私的独占の禁止に該当するかどうかとして検討を行う。
私的独占に該当するには主に以下の要件を満たす必要がある。
イ)他の事業者の事業活動を排除し、支配すること、
ロ)一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、
ハ)イ)によりロ)が生じたこと
である。
イ)について、今回問題とされている端末(=スマートフォン)の市場において、仮にGoogleが市場支配力を有しているとすれば、その力の源泉はアプリストアであるGoogle Playである。アプリがなければスマートフォンは大きな携帯電話に過ぎず、今日のようにほとんど誰でも持つような普及はしなかったであろう。そして、アプリを配信するアプリストア(ここではGoogle Play)はいわゆる両面ネットワーク効果を有している。すなわち、アプリ利用者・購買者が増加するとアプリ提供業者が増加し、また逆に、アプリ提供業者が増加するとアプリ利用者・購買者が増加するという効果を有している。そしてGoogle Playは十分なアプリ利用者・購買者およびアプリ提供業者を保有しており、Google Playを搭載することはAndroid端末メーカーが端末を販売するために死活的に重要であることになる。そうすると、Android端末メーカーはGoogle Play搭載のためにGoogleの要請を受け入れざるを得ないことになる。
ロ)について、一定の取引分野における競争を実質的に制限するかどうかであるが、通常は市場の支配力を有するとされる事業者がシェアを失わずに市場支配者が価格を一方的に引き上げることができるかどうかで競争が制限されているかどうかを判断する。ただし、今回問題となっているのは無料の検索サービスであることから、サービスの品質水準の高低で検討することになる。品質水準の高低を判断するのはなかなか難しいが、たとえばGoogle検索サービスと競合関係にあるDuckDuckGoは高度な個人情報保護を検索サービスにあたって提供する。Android端末メーカーがDuckDuckGoを自発的に選択できないようになっており、DuckDuckGoが排除されているとすればこの要件を満たすことになる(ただし後述のコメントを参照)。
ハ)について、上記ロ)の事情が存在し、かつその理由が上記(1)で指摘した事業によるものとすることが事実だとすると、この要件を満たすことになる。
本件に関するコメントを2件ほど述べたい。
まず、一点目であるが、上記ロ)に関して、検索サービスアプリとしてのGoogleの品質についての判断についてである。スマートフォン検索サービスではGoogleのシェアが75%という数字がある3。この数字は純粋にGoogleの検索サービス結果の的確性といったサービス自体の優秀さからきていると見ることも可能と考えられ、Google Playとの抱き合わせに起因してより品質の高い検索サービスを排除していると言えるのかどうかが本質的な問題となる。この点、近時では、生成AIを利用した検索サービスが登場してきており、Google Play搭載を梃子とした他の検索サービス排除がより現実の問題として生じてきたと言えるかもしれない。
二点目であるが、今回の審査対象はAndroid端末メーカーだけを対象としている。日本のスマートフォン市場には6割強のシェアを有するiPhoneもある。公取委の審査はAndroid端末メーカーだけの市場を画定するかのようである。この点に関連して、米国司法省などは2020年11月にGoogleに対して提起した訴訟の中で、GoogleがAppleとの間で、検索サービスによる広告報酬をAppleに分配する代わりにiPhoneにGoogle検索をデフォルトで設定する契約を締結していると主張している4。すなわちスマートフォン市場全体を市場として画定している。
公取委がこの点をどう判断して審査に入ったのかは不明である。仮にAppleとの契約を対象外としているとすると、Android端末メーカーだけの市場は画定できるのかという問題になる。この点、スマートフォン市場全体を市場として画定するのが一般的と思われるので、今回の審査では市場の一部を問題にしていることとなり、私的独占の禁止を適用できるのかという問題が生じる。そうすると上記で述べた不公正な取引方法である、排他条件付き取引に該当するかどうかを本筋として審査を行っているのかもしれない。排他条件付き取引では市場における有力な事業者(私的独占よりシェア要件のハードルが低い)が排除行為を行うことで独占禁止法違反とからである。
これらの問題については、今後審査が進行するにあたって、適宜開示がなされることを期待したい。
1 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/oct/231023ikenboshu.html 参照
2 公表文にはブラウザアプリであるGoogle Chromeも記載されているが、審査対象の本命は検索サービスアプリである。
3 総務省https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nf306000.html#d0306110 参照
4 基礎研レポートhttps://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66796?site=nli 参照。
意見聴取の対象となる独占禁止法被疑事件の対象となる行為は、概略、以下である。
(1) GoogleはAndroid端末スマホメーカーとの間で、アプリストアである「Google Play」を当該メーカーのスマホに搭載させるにあたって、Googleの検索サービスアプリ(Google Search)を搭載させ、かつ検索アプリの配置を指定していたこと2
(2) GoogleはAndroid端末スマホメーカーとの間で、競合する検索サービスアプリを搭載しないことを条件に、Googleの検索サービスからの収益を分配する契約を締結すること
これらが問題視しているのは、Google検索サービスアプリと競合する検索サービスアプリを市場から排除する行為が行われ、それが独占禁止法の私的独占の禁止に該当するかどうかであると考える (独占禁止法2条5項)。ただし適用条文は明記されていないので、可能性としては排他条件付き取引(独占禁止法19条、不公正な取引方法11項)もありうるが、本稿では市場競争に重大な影響を及ぼす行為として私的独占の禁止に該当するかどうかとして検討を行う。
私的独占に該当するには主に以下の要件を満たす必要がある。
イ)他の事業者の事業活動を排除し、支配すること、
ロ)一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、
ハ)イ)によりロ)が生じたこと
である。
イ)について、今回問題とされている端末(=スマートフォン)の市場において、仮にGoogleが市場支配力を有しているとすれば、その力の源泉はアプリストアであるGoogle Playである。アプリがなければスマートフォンは大きな携帯電話に過ぎず、今日のようにほとんど誰でも持つような普及はしなかったであろう。そして、アプリを配信するアプリストア(ここではGoogle Play)はいわゆる両面ネットワーク効果を有している。すなわち、アプリ利用者・購買者が増加するとアプリ提供業者が増加し、また逆に、アプリ提供業者が増加するとアプリ利用者・購買者が増加するという効果を有している。そしてGoogle Playは十分なアプリ利用者・購買者およびアプリ提供業者を保有しており、Google Playを搭載することはAndroid端末メーカーが端末を販売するために死活的に重要であることになる。そうすると、Android端末メーカーはGoogle Play搭載のためにGoogleの要請を受け入れざるを得ないことになる。
ロ)について、一定の取引分野における競争を実質的に制限するかどうかであるが、通常は市場の支配力を有するとされる事業者がシェアを失わずに市場支配者が価格を一方的に引き上げることができるかどうかで競争が制限されているかどうかを判断する。ただし、今回問題となっているのは無料の検索サービスであることから、サービスの品質水準の高低で検討することになる。品質水準の高低を判断するのはなかなか難しいが、たとえばGoogle検索サービスと競合関係にあるDuckDuckGoは高度な個人情報保護を検索サービスにあたって提供する。Android端末メーカーがDuckDuckGoを自発的に選択できないようになっており、DuckDuckGoが排除されているとすればこの要件を満たすことになる(ただし後述のコメントを参照)。
ハ)について、上記ロ)の事情が存在し、かつその理由が上記(1)で指摘した事業によるものとすることが事実だとすると、この要件を満たすことになる。
本件に関するコメントを2件ほど述べたい。
まず、一点目であるが、上記ロ)に関して、検索サービスアプリとしてのGoogleの品質についての判断についてである。スマートフォン検索サービスではGoogleのシェアが75%という数字がある3。この数字は純粋にGoogleの検索サービス結果の的確性といったサービス自体の優秀さからきていると見ることも可能と考えられ、Google Playとの抱き合わせに起因してより品質の高い検索サービスを排除していると言えるのかどうかが本質的な問題となる。この点、近時では、生成AIを利用した検索サービスが登場してきており、Google Play搭載を梃子とした他の検索サービス排除がより現実の問題として生じてきたと言えるかもしれない。
二点目であるが、今回の審査対象はAndroid端末メーカーだけを対象としている。日本のスマートフォン市場には6割強のシェアを有するiPhoneもある。公取委の審査はAndroid端末メーカーだけの市場を画定するかのようである。この点に関連して、米国司法省などは2020年11月にGoogleに対して提起した訴訟の中で、GoogleがAppleとの間で、検索サービスによる広告報酬をAppleに分配する代わりにiPhoneにGoogle検索をデフォルトで設定する契約を締結していると主張している4。すなわちスマートフォン市場全体を市場として画定している。
公取委がこの点をどう判断して審査に入ったのかは不明である。仮にAppleとの契約を対象外としているとすると、Android端末メーカーだけの市場は画定できるのかという問題になる。この点、スマートフォン市場全体を市場として画定するのが一般的と思われるので、今回の審査では市場の一部を問題にしていることとなり、私的独占の禁止を適用できるのかという問題が生じる。そうすると上記で述べた不公正な取引方法である、排他条件付き取引に該当するかどうかを本筋として審査を行っているのかもしれない。排他条件付き取引では市場における有力な事業者(私的独占よりシェア要件のハードルが低い)が排除行為を行うことで独占禁止法違反とからである。
これらの問題については、今後審査が進行するにあたって、適宜開示がなされることを期待したい。
1 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/oct/231023ikenboshu.html 参照
2 公表文にはブラウザアプリであるGoogle Chromeも記載されているが、審査対象の本命は検索サービスアプリである。
3 総務省https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nf306000.html#d0306110 参照
4 基礎研レポートhttps://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66796?site=nli 参照。
(2023年11月08日「研究員の眼」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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