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コラム
2025年07月30日

ビザ・ワールドワイドの確約計画-拘束条件付き取引

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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2025年7月22日、公正取引委員会は、クレジットカードの国際ブランドであるビザ・ワールドワイドから提出された確約計画を認定した1。確約計画については後述することとし、まず、クレジットカードに係る取引を見てみる。構造はやや複雑だが、下記図の示す通りである。
【図】クレジットカード取引
取引の流れは以下の通りである。

(1) カード提示:利用者は支払いにあたって、加盟店に対してカードを提示する(図の一番上)。

(2) オーソリゼーション:カード利用にあたっては、加盟店(図の右上)が加盟店契約に従って、加盟店契約会社(アクワイアラー、図の右中段)経由でクレジットカードが利用可能であることを確認する(オーソリゼーション)。オーソリゼーションは、国際ブランドカード会社またはIT事業者の提供する「取引・処理ネットワーク(図の中央、太字部分)」経由でカード発行会社(イシュアー、図の左中段)に対して行われる。カードが利用可能であれば、利用者と加盟店間のクレジットカード取引が完了する。

(3) 立替金の請求・支払:加盟店契約会社がカード発行会社に立替金(利用者の支払額)の請求を行う。カード発行会社は利用者の銀行口座から立替金額を引き落とすとともに加盟店契約会社に支払いを行う。加盟店契約会社への支払金額は、立替金からカード発行会社の手数料(インターチェンジフィー)を差し引いた額である。この情報と資金のやり取りも「取引・処理ネットワーク」経由で行われる。

(4) 加盟店への支払:最後に加盟店契約会社が加盟店に支払相当額からカード発行会社と加盟店契約会社の両方の手数料を差し引いた金額を振り込む。
 
ここで、カード発行会社の手数料(インターチェンジフィー)は国際ブランドカード会社が標準料率を設定している。慣行としてIT業者独自の料率が設定されることはなく、国際ブランドカード会社の設定する料率と異なる料率が適用されている例は確認されていない。ここで、取引日またはオーソリゼーションから一定の日数以内に決済された場合には基本料率より低い優遇レートが適用される。ただし、令和3年11月以降、優遇レートが適用されるのは、国際ブランドカード会社経由でオーソリゼーションを行った場合にビザ・ワールドワイドが限定していた2ことを公取委が問題視した。

この結果、加盟店契約会社は優遇レートを適用されるために、国際ブランドカード会社のネットワークを利用せざるを得ず、他の取引・処理ネットワークを運営するIT事業者の取引機会を減少させるおそれがある。公取委はこのような国際ブランドカード会社の行為は独占禁止法(以下、「法」)19条に基づき定められた不公正な取引方法12項の拘束条件付き取引3に違反する疑いがあるとし、その旨をビザ・ワールドワイドに通知した。

この通知を受け、ビザ・ワールドワイドは、どの「取引・処理ネットワーク」を利用しても同等の料率を適用するなどの措置をとることを確約し、公正取引委員会はそれを認定した(確約計画)。

確約計画とは、独占禁止法違反被疑行為がある場合に、被疑会社が被疑行為を止めるなど一定の措置を取ることを確約し、その計画を公取委が認定することで被疑行為を解消する制度である(独占禁止法48条の3、48条の7)。この制度による認定は被疑会社による独占禁止法の違反事実を認定するものではないが、排除命令などの強烈な効果を持つ行政処分を行わなくとも、市場での競争を促進又は回復することができる。また、計画の履行状況については、被疑会社又は被疑会社が履行状況の監視等を委託した独立した第三者(公正取引委員会が認める者)が公正取引委員会に対して報告することとされている4

なお、ビザ・ワールドワイドはシンガポールに本社を置く企業であり、海外の事業者を対象として独占禁止法違反のおそれのある行為を是正する取組として注目される。
 
1 公正取引委員会https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/jul/250722_daisan.html参照。
2 具体的には、国際ブランドカード会社経由でオーソリゼーションを行った際に生成される取引識別子が存在する場合にのみ優遇レートを適用することとしていた。
3 拘束条件付き取引とは「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」を指す。
4 公正取引委員会https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/kakuyakutaiouhoushin.htm参照。 

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月30日「研究員の眼」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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