コラム
2023年05月25日

特定デジタルプラットフォームの年次評価(8)-商品・アプリの表示順位の決定要素等

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、単に法という)では、経済産業大臣によって指定された特定デジタルプラットフォーム提供者(以下、DPF提供者)からの報告書の提出を受けて経済産業大臣が透明性及び公正性についての評価を行う(法9条2項)ことについては本シリーズ初回の研究員の眼で触れた通りである。

当該規定に基づいて、Amazon、楽天、ヤフー、Apple、Googleからの報告書を基にした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(総合物販オンラインモール及びアプリストア分野)」(以下、透明性評価)1について第八回(最終回)の紹介をすることとしたい。今回は各論の「(5)商品・アプリの表示順位の決定要素、アプリ審査の予見可能性」である(図表1)。
【図表1】評価の項目立て(網掛け部分が今回)
透明性評価では、商品・アプリの表示順位の決定要素と、アプリ審査の予見可能性を一つの項目として取りまとめている。順に解説を行う。

まず一点目、商品・アプリの表示順位ということのイメージは図表2の通りである。
【図表2】比較アプリの商品表示順位の例
法は、一般利用者が検索により求める商品等に係る情報その他の商品等に係る順位を付して表示する場合における、その順位を決定するために用いられる主な事項をDPF提供者が開示すべきことを求めている(法5条2項1号ハ)。

この点にかかわる事案として、本シリーズの5回目で紹介したAmazonの確約計画がある2。「商品の表示順位」に関しては、目立つ位置に配置される等のメリットがあるBuy Box(またはFeatured Offer)欄に自社あるいは自社の保管・運送サービスである(Fulfilment By Amazon、FBA)を契約している第三者販売業者を優先的掲載しているとの暫定的評価(preliminary assessment)を欧州委員会が発出した。これに対して、自社優先を行わず、かつFBAを利用しているかどうかを表示順位決定の要素としないとの確約計画をAmazonが提出し、これを欧州委員会が了承している。

ところで、i)Amazonの検索順位決定では、単なる自社優遇という形式面だけでなく、商品の質・価格、在庫の有無、お届けまでにかかる時間など様々な要素が勘案されている3。この観点から即日配送にも一部対応するFBAを契約している利用事業者が上位に来ることはある程度は自然なことでもあるように思われる。また、別途、ii)Googleの見解として、ランク付けする方法について情報を過度に提供すると、利用事業者がルールを操作して(又は「裏をかいて」)実際よりも関連性が高いように見せることを可能にする恐れがあるとする4

これらi)ii)の事情・見解にも一定の合理性が認められると考えられることから、ある程度の客観的ではあるが抽象的な基準を開示する以上のことを求める(=完全な公平性を客観的に実現する)ことは難しいようにも思われる。この点、ヤフーについて透明性評価が「『おすすめ順』の表示順位を決定する主要な事項をどのように抽出したか具体的に説明するとともに、これら主要事項を利用事業者が閲覧可能な数値等とできる限り一致するかたちで項目化するなど、利用事業者の理解増進に資する取組を行っており、高く評価できる5」としているように相互の意思疎通により改善を図ることが重要と思われる。

次に二点目、アプリ審査(の予見可能性)のイメージについては図表2をご覧いただきたい。スマートフォンでいえば、アプリストア、すなわち、iPhoneのApp StoreとAndroid端末のGoogle Playに採用されるかという問題である(図表3)。
【図表3】アプリの審査
この点について参考になるのはEUのデジタル市場法(Digital Market Act、DMA)の6条4項である6。DMA6条4項ではアプリ(またはアプリストア)のインストールをGK(=DPF提供者)が当然に認めるべきことを定めている。ただし、GKがハードウェアやOS の完全性を危険にさらすことのないように手段を採ること、およびエンドユーザーのセキュリティ確保のための手段を採ることは否定されていない。ただし、これらの手段は比例的で GK によって正当化される必要がある(同項)。

DMAが掲げる項目のほかに、知的財産権を侵害するアプリや、過剰な性的あるいは暴力といった不適切なアプリを規制するといったこともアプリ審査基準として合理的であると考えられる。

透明性評価では、「アプリ審査の手続や体制については、利用事業者から一定の改善を指摘する声がある一方で、その予見可能性や公平性・公正性について課題を指摘する声もある。アプリ審査の予見可能性は、利用事業者の事業活動や投資判断に影響するものであるところ、Apple 及び Google には、利用事業者と対話しつつ、継続的にアプリ審査プロセスの改善に向けて取り組んでいくことを期待する」7としている。

アプリ事業者のなかにはAppleとGoogleに受け入れてもらえなければ事業展開がそもそもできないという事業者もあると思われる。その意味では、AppleとGoogleには重大な責務が課されていると考えられる。
 
1 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221222005/20221222005.html 参照。
2 基礎研レポート「EU における Amazon の確約計画案―非公表情報の取扱など競争法事案への対応」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/73040_ext_18_0.pdf?site=nli 参照。
3 前掲注1 別添2:特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(詳細)p20参照。
4 同上p21参照。。
5 前掲注1 p10参照
6 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応」 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74016?site=nli 参照
7 前掲注1 P10参照
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2023年05月25日「研究員の眼」)

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