コラム
2023年04月17日

特定デジタルプラットフォームの年次評価(3)-苦情処理・紛争解決

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、法)では、経済産業大臣によって指定された特定デジタルプラットフォーム提供者(以下、DPF提供者)からの報告書の提出を受けて、経済産業大臣が透明性及び公正性についての評価を行う(法9条2項)ことについては本シリーズ初回の研究員の眼で触れた通りである。

当該規定に基づいて、Amazon、楽天、ヤフー、Apple、Googleからの報告書を基にした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(総合物販オンラインモール及びアプリストア分野)」(以下、透明性評価)1が2022年12月22日公表されており、これについて三回目の紹介をすることとしたい。今回は総論の「(3)苦情処理・紛争処理の状況」である(図表1)。
【図表1】評価の項目立て(網掛け部分が今回)
法は、DPF提供者と利用事業者との相互理解の促進のための取組の一つとして、利用事業者からの苦情の処理および紛争解決のために必要な体制及び手続の整備に関する事項を定めている(法7条3項3号)。また、DPF提供者は苦情および紛争の件数、主な類型、平均処理期間等を定期報告書において報告する(法9条1項2号、規13条2項)こととされており、今回の透明性評価はこの報告に基づいている。

ところで、前回の研究員の眼「特定デジタルプラットフォームの年次評価(2)―相互理解のための手続・体制整備」でも簡単に触れたが、EUのデジタルプラットフォーム透明化法(以下、EU規則)では、紛争については事後調整・解決を重視している。簡単に述べると(1)無料で利用できる内部苦情処理制度を設けること、(2)裁判外での紛争解決を目的として、二人以上の調停者を契約で指名すること、(3)欧州委員会と加盟国は、オンライン仲介サービス事業、オンライン検索サービス事業において調停を行う組織を設立するよう奨励すること、(4)オンライン仲介サービス企業、オンライン検索サービス企業に対しては利用事業者を代表する団体が訴訟提起できることが定められている(EU規則11条~14条)。

そこで、透明性評価を見てみると、DPF提供者からは苦情解決のためにさまざまな取り組みが報告されており、透明性評価でも一定の評価をしている。しかし、利用事業者からの苦情等に対して、DPF提供者から定型の回答文での回答が行われていることが多いとのことであり、そのため、問題が結局解決しない、あるいは問題が発生したときに十分なコミュニケーションがとれないなどの意見が利用事業者から提出されている。また、たとえばAppleでは苦情対応の専門家からなるクロスファンクショナルチームを設置し、苦情を調査、評価し、検討結果を個別に回答している旨の説明があった。しかし、Appleへの申立件数自体が少ないことから、そもそも苦情申し立てフォームが認知されていないおそれがあるとの懸念があり、透明性評価では「利用事業者の認知を高める取り組みを期待する」とされている2

このようなDPF提供者の現状の運営についてどう考えるかであるが、EU規則では、内部苦情処理は合理的な期間内に処理されるものでなければならないとされており、かつ透明性・公平性の下で苦情をその重要さや複雑さに適切に応じた方法で扱うものでなければならないとされている(EU規則11条)。このような考え方は日本の法の下でも妥当すると考えられる。

したがって、類型的に多件数発生する簡単なトラブルはともかく、基本として具体的な事情を踏まえた苦情対応を行うよう工夫を行うべきと考えられる3。ただ、透明性評価で触れられているように、アカウント停止や消費者からの返金要請対応など、利用事業者の事業上で特に重要と考えられる事案での苦情発生が多い一方で、DPF提供者においては利用事業者数が特に多いため、結局、処理の迅速さと処理内容の丁寧さのバランスが重要になると考える。

なお、透明性評価ではさらに進んで、利用事業者の求めに応じてADR(裁判外紛争解決手続)を利用することや、費用の合理的負担についての検討が行われれば高く評価できるとする。上述の通りEU規則では調停が義務であることからすると、日本でもADR利用を義務化とすることも考えられそうである。ただし、この点は法令の改正を通じて求めるべき4ものであるため、今後の課題であろう。
 
1 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221222005/20221222005.html 参照。
2 同上p5参照
3 この点、透明性評価でも「継続的に、利用事業者とのコミュニケーションの質の改善に取り組んでいくことを期待する」とされている。(前掲注1 別添2 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(詳細)p4参照)
4 たとえば生命保険会社が指定生命保険業務紛争解決機関(ADR)と手続実施基本契約を締結すべきことは保険業法105条の2で規定されている。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2023年04月17日「研究員の眼」)

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