コラム
2023年04月03日

特定デジタルプラットフォームの年次評価(1)-提供条件等の情報開示

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、法)では、経済産業大臣によって指定された特定デジタルプラットフォーム提供者(以下、DPF提供者)から毎年度、その事業に関する報告書の提出を受け(法9条1項)、報告書、利用者からの申し出(法10条1項)その他の経済産業大臣が把握する事実に基づき、指針を勘案して、特定デジタルプラットフォーム(以下、DPF)の透明性及び公正性についての評価を行う(法9条2項)。手順は図表1の通りである。
【図表1】DPFの透明性及び公正性についての評価手順
当該規定に基づいて、総合物販オンラインモール(令11項の表1号中段)に該当するAmazon.co.jp(以下、Amazon)、楽天市場(以下、楽天)、Yahoo!ショッピング(以下、ヤフー)、及びアプリストア(令1項の表2号中段)に該当するApp Store(以下、Apple)、GooglePlayストア(以下、Google)からの報告書の提出が行われ、学識経験者等による議論を経て、評価原案が示された。評価原案に対して一般に意見募集が行われ、2022年12月22日「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(総合物販オンラインモール及びアプリストア分野)」(以下、透明性評価)2が公表された。透明性評価はいくつかのパーツからなっているが、記載順に説明を行うこととしたい。今回(第1回)は総論の「(1)提供条件等の情報開示」である(図表2)。
【図表2】透明性評価の項目立て(網掛け部分が今回)
法はDPFの提供条件等の開示義務を定めており、DPF提供者は利用者に対してDPFを提供する場合の条件を、利用者の理解の増進が図られるように開示しなければならない(法5条1項、2項、規35条)とされる。これらの開示によって利用事業者の予見性を高めるとともに苦情等を減らしていくことが重要とされる4。この点に関する透明性評価における評価は概ね良好なもので、特に楽天及びヤフーによる提供条件の一般向け開示については積極的な取り組み例として評価されている5。ただし、透明性評価は、提供条件の記載されている膨大な利用規約のなかに、重要事項が埋もれてしまわないような工夫を求めている。

また、提供条件を変更するにあたっては、期間を設けて事前に変更の内容と理由を開示することとされている(法5条4項1号)。これにより利用事業者は準備期間を確保できるとともに、理由が開示されるため、必要に応じて協議を申し出ることが容易になるという効果がある。

この点も9割が一か月以上前に連絡があったなど概ね良好な評価がされているが、Appleの価格設定テーブルの変更通知が変更日の15日前であったことが課題として取り上げられている6。他方、楽天、ヤフー、Googleは、それぞれ利用事業者の理解促進のために説明会を開くなどの積極的な取り組みを行ったとして評価されている。

取引条件の開示に関連して、処理期間(2021年4月1日~2022年10月31日)に、案件を二件処理したことが透明化評価において公表されている7。後述の通り、経済産業大臣がDPF提供者の開示に問題があると認められるときは、勧告等の措置をとるとされている権限を用いて、調査等を行ったものである。これらの案件が発覚した契機は明らかではないが、おそらく利用者からの申出によるものと推察される(申出の根拠条文は法10条)。これら2件の案件はいずれも抽象的な内容の公表しかなされていないので具体的な内容は詳細にはわからないが、以下透明化評価より引用する。

一つ目は利用事業者がDPFの利用契約種別を変更する場合に、特定の施策を受け入れることを必須にするという、利用事業者にとって負担となる条件変更を予告なしに行ったものである。本件は法5条4項1号に違反する可能性がある。ただし本件については、施策の延期を公表などしたうえ、不利益解消のための措置を実施し、かつ経産省の調査に協力をしたため指導にとどめたという。なお、最終的に施策の導入を取りやめたとのことである。

二つ目は、利用事業者が提供する商品等にかかるデータをDPF提供者が取得・利用する場合の内容・条件について、利用開始前には開示されていなかった(利用開始後には開示)というケースである。利用条件等について利用開始前に開示すべきことは法5条1項を受けた規5条1項2号で明記されており、法令違反となる可能性がある。ただ、不開示部分がその他の開示部分から推知できたこと、故意的ではなかったこと、及びすぐに修正を行ったことから指導にとどめたとのことである。

これらの案件は指導にとどめられたが、法的な取り扱いとしては、まず経済産業大臣により開示等必要な措置をとるべき勧告および公表を行う(法6条1項、3項)。DPF事業者が正当な理由がなく当該措置を取らなかったときは、当該措置をとるべき命令および公表を行う(同条4項、6項)。この命令に従わなかった者には、百万円以下の罰金が科せられる(法23条)。

開示に関する条項の全体像は図表3の通りである。
【図表3】開示と開示違反時の対応
このような法的手段を採らず行政指導的な措置にとどめたのはDPF提供者が行政からの指導に従ったという事情もあるが、法律施行直後であってDPF事業者の認識が足りていなかったということもあるのだろう。利用条件の開示はそのあとのDFP提供者と利用事業者の一切の関係を規律するものであって、非常に重要なポイントである。DPF提供者で開示に消極的である者には今後、法的措置が取られるケースも出てくるのだろう。

なお、本稿で説明しなかった利用停止や取引拒絶に関する説明等、上記図表2各論(3)に該当するため該当の項目を説明する際に取り扱う。
 
1 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第4条第1項の事業の区分及び規模を定める政令
2 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221222005/20221222005.html 参照。
3 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律施行規則
4 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合意見取りまとめ2-1 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/pdf/20221111_1.pdf 参照。
5 前掲注2 別添2 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(詳細)p1参照
6 同上 p2参照
7 前掲注2 別添1 透明化法に関する個別事案の処理状況p2事例②、事例③参照
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2023年04月03日「研究員の眼」)

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