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- 特定デジタルプラットフォームの年次評価(2)-相互理解のための手続・体制整備
コラム
2023年04月10日
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特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、法)では、経済産業大臣によって指定された特定デジタルプラットフォーム提供者(以下、DPF提供者)からの報告書の提出を受けて、経済産業大臣が透明性及び公正性についての評価を行う(法9条2項)ことについては前回の研究員の眼で触れた通りである。
当該規定に基づいて、Amazon、楽天、ヤフー、Apple、Googleからの報告書を基にした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(総合物販オンラインモール及びアプリストア分野)」1(以下、透明化評価)が2022年12月22日に公表されており、この透明性評価について二回目の紹介をすることとしたい。今回は総論の「(2)相互理解のための手続・体制整備」である(図表1)。
当該規定に基づいて、Amazon、楽天、ヤフー、Apple、Googleからの報告書を基にした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(総合物販オンラインモール及びアプリストア分野)」1(以下、透明化評価)が2022年12月22日に公表されており、この透明性評価について二回目の紹介をすることとしたい。今回は総論の「(2)相互理解のための手続・体制整備」である(図表1)。
法はDPF提供者が利用事業者(法文上は商品等提供利用者)との間で相互理解を促進すべき措置を講ずべき旨を定めており(法7条1項)、そのための指針2を経済産業大臣が策定する(同条2項)。後述の通り、このような相互理解を促進すべき措置をとることというのはEUの規律とは異なる日本特有の法規定である。この規定は抽象的であるがゆえに、DPF提供者と利用事業者間の様々な内容を取り込むことが可能である。本条をうまく使ってDPF提供者の適切ではない、あるいは不透明と思われる業務慣行に自発的な改善を求めていくことが肝要であると考える。この点、実際に透明性評価でもアプリストアでの手数料・課金方法など法律の文言から直接的に出てくるとは言いにくい事項についても検討を行っている。
指針に規定される事項は法定されており、図表2の通りである(同条3項各号、条文一部略)。
指針に規定される事項は法定されており、図表2の通りである(同条3項各号、条文一部略)。
ここで特に求められているのは、まずイ)運営改善を実効的に進めるための手続・体制整備である。透明性報告では、この点に関し、Amazonでは出品停止等の各措置の正確性について、様々な指標と目標値を設定し、推移を監視、定期的に精査するなどの体制を整備していることを評価している。また、楽天において外部有識者の意見を聴取する会議を定期的に開催していることが望ましい取り組みとしている3。
このうち特に、商品の出品停止、あるいは利用事業者のアカウント停止といった利用事業者の事業の成否を決定づけるような取り扱いについては、Amazon等が実施しているように外部からみても客観的にその正当性が確認できるような取り組みが必須であろう。
次にロ)手続・体制の実効性や改善に向けた取り組み姿勢についての説明である。つまりイ)で構築した手続・体制をさらに改善すべきとするものである。
透明性評価では、この点に関連し、たとえばデータ管理などの体制改善について、各DPF提供者とも客観的に評価可能となるほどの情報提供がなされたとは言えないと評価している4。
そこで、来年度以降のDPF提供者からの報告においてはi)定量的な実績、課題対処に至った具体例、改善を実効的に勧めるための工夫等各種取組の実効性を内部監査等によるエビデンスを添えて提示すること、ii)現状の課題と考えている事項及び今後の対応方針について説明することで、自主的かつ積極的に運営改善を行う姿勢を示していくことを期待するとされている5。
このような指摘はイ)運営改善を実行する体制を整備し、ロ)さらなる改善を進めるよう取り組む、という二つのことがサイクルをなすように実施されるべきことを求めているものである(図表3)。また、特にDPF提供者や利用事業者を取り巻く状況が常に変動するような現状においては、体制を見直すスピード感が重要と思われる。
このうち特に、商品の出品停止、あるいは利用事業者のアカウント停止といった利用事業者の事業の成否を決定づけるような取り扱いについては、Amazon等が実施しているように外部からみても客観的にその正当性が確認できるような取り組みが必須であろう。
次にロ)手続・体制の実効性や改善に向けた取り組み姿勢についての説明である。つまりイ)で構築した手続・体制をさらに改善すべきとするものである。
透明性評価では、この点に関連し、たとえばデータ管理などの体制改善について、各DPF提供者とも客観的に評価可能となるほどの情報提供がなされたとは言えないと評価している4。
そこで、来年度以降のDPF提供者からの報告においてはi)定量的な実績、課題対処に至った具体例、改善を実効的に勧めるための工夫等各種取組の実効性を内部監査等によるエビデンスを添えて提示すること、ii)現状の課題と考えている事項及び今後の対応方針について説明することで、自主的かつ積極的に運営改善を行う姿勢を示していくことを期待するとされている5。
このような指摘はイ)運営改善を実行する体制を整備し、ロ)さらなる改善を進めるよう取り組む、という二つのことがサイクルをなすように実施されるべきことを求めているものである(図表3)。また、特にDPF提供者や利用事業者を取り巻く状況が常に変動するような現状においては、体制を見直すスピード感が重要と思われる。
このように相互理解のための自主的な取り組みが求められ、法律より一歩踏み込んだ、さらなる改善が要請されるのは、法が「規制の大枠を法律で定めつつ、詳細を事業者の自主的取組に委ねる『共同規制』の規制手法を採用している」からである6。
ところで以前執筆した基礎研レター「デジタルプラットフォーム透明化法案の解説―EU規制と比較しながら」でも指摘した通り、相互理解措置の規定は日本独特である。EUには手厚い紛争処理制度が用意されており、事後調整や事後解決を重視する制度設計と見ることができる。
他方で、日本では紛争が生じないように事前に調整し、今回の評価のように行政が関与することでそのことに実効性を持たせることとしていると考えられる。確かに、楽天、ヤフー以外は外国会社であり、いったん紛争が発生するとその決着には、法律の適用も含めてさまざまな不透明さが付きまとわざるを得ない。ただ、透明性評価ではデータ管理などデジタルプラットフォーム機能の根幹である部分で不十分との評価となっているなど、初回の評価ということはあるものの、さらなる事業者、そして行政の取り組みが必要となると考えられる。
1 https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221222005/20221222005.html 参照
2 特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/pdf/guideline.pdf 参照。
3 前掲注1 別添2 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(詳細)p2参照
4 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合意見取りまとめhttps://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/pdf/20221111_1.pdf 2-2
5 前掲注3 p3参照。
6 前掲注2 p2参照。
ところで以前執筆した基礎研レター「デジタルプラットフォーム透明化法案の解説―EU規制と比較しながら」でも指摘した通り、相互理解措置の規定は日本独特である。EUには手厚い紛争処理制度が用意されており、事後調整や事後解決を重視する制度設計と見ることができる。
他方で、日本では紛争が生じないように事前に調整し、今回の評価のように行政が関与することでそのことに実効性を持たせることとしていると考えられる。確かに、楽天、ヤフー以外は外国会社であり、いったん紛争が発生するとその決着には、法律の適用も含めてさまざまな不透明さが付きまとわざるを得ない。ただ、透明性評価ではデータ管理などデジタルプラットフォーム機能の根幹である部分で不十分との評価となっているなど、初回の評価ということはあるものの、さらなる事業者、そして行政の取り組みが必要となると考えられる。
1 https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221222005/20221222005.html 参照
2 特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/pdf/guideline.pdf 参照。
3 前掲注1 別添2 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価(詳細)p2参照
4 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合意見取りまとめhttps://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/pdf/20221111_1.pdf 2-2
5 前掲注3 p3参照。
6 前掲注2 p2参照。
(2023年04月10日「研究員の眼」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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