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コラム
2025年07月22日
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2025年7月10日、フジメディア・ホールディングス(以下、「フジ」)は今後行われると想定される同社株式の大規模買付け等に対して、フジおよび株主が判断するための十分な時間を確保するため、対抗策を実施する旨のリリースを公表した1。大規模買付け等を行うと示唆したのは株式会社レノおよび関係3者(以下、「レノ等」)であるが、レノ等のサイドから公表された資料はないため、本稿ではフジのリリースに基づいて本事案を見ていきたい。
経緯としては2025年2月以降、レノ等の関係者とフジとの間で複数回面談を行い、レノ等から同社株式を33.3%まで買い進める可能性があることを示唆された。あわせて同社の子会社(どの会社かは不明)をスピンオフし、その経営権をレノ等側が取得することも示唆されたとのことである。実際にレノ等は2025年7月1日時点でフジの15.06%の株券等を保有しているという。なお、買付けの目的、方法、また買付け後の経営関与の方針については、現時点で詳細が明らかにされていない。
これに対し、フジ経営陣は「企業価値ひいては株主共同の利益の観点から本株式買い集めの是非を適切に判断できるだけの十分な情報」がないとして対抗措置をとることとした。それによると同社は以下の方針を定めるとともに、大規模買付者(レノ等)にこの方針に従うよう求めた。
(1) 大規模買付け等実施前60営業日前までに大規模買付け等の趣旨説明書を同社取締役会に提出すること、
(2) 趣旨説明書提出後、5営業日以内に株主の判断に必要となる情報を同社に提供すること、
(3) 趣旨説明書受領から60営業日以内で取締役会が定める期間において、取締役会が大規模買付け等の是非について検討する期間を設けること、
(4) 取締役会が大規模買付け等に反対である場合には、趣旨説明受領後60営業日以内に株主意思確認総会の開催を決定し、決定後速やかに株主総会を開催すること。
株主意思確認総会では以下のような内容の対抗策を決議(普通決議(後述))することとしている。
なお、大規模買付者が会社の求める手続に従わない場合には、取締役会で対抗策を導入することを決議するが、可能な限り株主意思確認総会を開催するとしている3。
このような対抗策は牧野フライスがニデックのTOBにあたって検討期間の猶予を求めて導入しようとした対抗策4と類似している。ただし、牧野フライスはニデックが牧野フライスの設定した期日を超えてTOBを延期した場合には対抗策を取らないとしていた。他方、フジは大規模買付者が同社の設定する手続に従ったとしても、取締役会が大規模買付け等に反対である場合には、最終的に対抗策をとるとしている。この点においてフジの対抗策は牧野フライスの場合よりも強いものとなっている。
さて、疑問として残るのが、大規模買付者の株式取得割合が上限33.3%であることだ。これは認定放送持株会社においては、株主1人当たり3分の1を超える株式を保有することができない(放送法164条)とされているためである。ちなみに取締役選任議案などの普通決議は議決権数の半分で行う5。他方、定款変更をはじめとする会社の重要事項に関しては、3分の2以上の決議を必要とする。
3分の1の株式保有割合を有する株主は特別決議を阻止できるにすぎず、自身で何か決定できるまでの権利を有していない。したがって、一般的に同意なき買収においては、過半数の株式取得を目的としている。
リリースでは3分の1であっても会社経営に影響力を持ち、子会社のスピンオフなど他の株主利益に資さない行為が行われる懸念があるとしている。リスク感度が高すぎるのではないかとも思われるが、他に目立った大株主のいないフジにおいては経営に実質的な影響力を及ぼしうるのかもしれない。この点、大規模買付け等が実施される限り、株主意思確認総会が開かれる可能性が高そうであり、したがって最終的に株主の判断にゆだねられることになる。
1 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/46760/f49661c9/7723/4436/8130/b08fe8ef40e6/140120250709510465.pdf 参照。
2 同社が公表している基準日は2025年7月27日である。https://contents.xj-storage.jp/xcontents/46760/9fb6df1c/fc21/4739/ac8c/ed40919cf219/140120250710511096.pdf 参照。
3 前掲注1のp2参照。
4 研究員の眼「同意なき買収への対応策-ニデックによる牧野フライス買収提案」 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82153?site=nli 参照。
5 株主総会に過半数の議決権を保有する株主が出席することが前提。特別決議も同様である。
経緯としては2025年2月以降、レノ等の関係者とフジとの間で複数回面談を行い、レノ等から同社株式を33.3%まで買い進める可能性があることを示唆された。あわせて同社の子会社(どの会社かは不明)をスピンオフし、その経営権をレノ等側が取得することも示唆されたとのことである。実際にレノ等は2025年7月1日時点でフジの15.06%の株券等を保有しているという。なお、買付けの目的、方法、また買付け後の経営関与の方針については、現時点で詳細が明らかにされていない。
これに対し、フジ経営陣は「企業価値ひいては株主共同の利益の観点から本株式買い集めの是非を適切に判断できるだけの十分な情報」がないとして対抗措置をとることとした。それによると同社は以下の方針を定めるとともに、大規模買付者(レノ等)にこの方針に従うよう求めた。
(1) 大規模買付け等実施前60営業日前までに大規模買付け等の趣旨説明書を同社取締役会に提出すること、
(2) 趣旨説明書提出後、5営業日以内に株主の判断に必要となる情報を同社に提供すること、
(3) 趣旨説明書受領から60営業日以内で取締役会が定める期間において、取締役会が大規模買付け等の是非について検討する期間を設けること、
(4) 取締役会が大規模買付け等に反対である場合には、趣旨説明受領後60営業日以内に株主意思確認総会の開催を決定し、決定後速やかに株主総会を開催すること。
株主意思確認総会では以下のような内容の対抗策を決議(普通決議(後述))することとしている。
i)基準日2における株主に対して、同社は1つの普通株式あたり1つの新株予約権を付与する。
ii)株主の保有する1つの新株予約権を、同社が1つの普通株式を対価として取得する(結果として一般株主の保有普通株式数は倍増する)。ただし、iiiのケースを除く。
iii)非適格者(=大規模買付者)の保有する新株予約権を、同社が第2新株予約権を対価として取得する。第2新株予約権は非適格者が大規模買付け等を中止した場合などに限り、議決権保有割合が20%にならない範囲で行使することができる(=大規模買付け等を中止しない場合には大規模買付者の保有株式数は現状のまま)。
なお、大規模買付者が会社の求める手続に従わない場合には、取締役会で対抗策を導入することを決議するが、可能な限り株主意思確認総会を開催するとしている3。
このような対抗策は牧野フライスがニデックのTOBにあたって検討期間の猶予を求めて導入しようとした対抗策4と類似している。ただし、牧野フライスはニデックが牧野フライスの設定した期日を超えてTOBを延期した場合には対抗策を取らないとしていた。他方、フジは大規模買付者が同社の設定する手続に従ったとしても、取締役会が大規模買付け等に反対である場合には、最終的に対抗策をとるとしている。この点においてフジの対抗策は牧野フライスの場合よりも強いものとなっている。
さて、疑問として残るのが、大規模買付者の株式取得割合が上限33.3%であることだ。これは認定放送持株会社においては、株主1人当たり3分の1を超える株式を保有することができない(放送法164条)とされているためである。ちなみに取締役選任議案などの普通決議は議決権数の半分で行う5。他方、定款変更をはじめとする会社の重要事項に関しては、3分の2以上の決議を必要とする。
3分の1の株式保有割合を有する株主は特別決議を阻止できるにすぎず、自身で何か決定できるまでの権利を有していない。したがって、一般的に同意なき買収においては、過半数の株式取得を目的としている。
リリースでは3分の1であっても会社経営に影響力を持ち、子会社のスピンオフなど他の株主利益に資さない行為が行われる懸念があるとしている。リスク感度が高すぎるのではないかとも思われるが、他に目立った大株主のいないフジにおいては経営に実質的な影響力を及ぼしうるのかもしれない。この点、大規模買付け等が実施される限り、株主意思確認総会が開かれる可能性が高そうであり、したがって最終的に株主の判断にゆだねられることになる。
1 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/46760/f49661c9/7723/4436/8130/b08fe8ef40e6/140120250709510465.pdf 参照。
2 同社が公表している基準日は2025年7月27日である。https://contents.xj-storage.jp/xcontents/46760/9fb6df1c/fc21/4739/ac8c/ed40919cf219/140120250710511096.pdf 参照。
3 前掲注1のp2参照。
4 研究員の眼「同意なき買収への対応策-ニデックによる牧野フライス買収提案」 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82153?site=nli 参照。
5 株主総会に過半数の議決権を保有する株主が出席することが前提。特別決議も同様である。
(2025年07月22日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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【フジ・メディア・ホールディングス株式の大規模買付け-対抗策のリリース】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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