2024年12月25日

米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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9――法律の結論(一般検索サービス市場における反競争的効果)

1|独占契約は一般検索サービス市場において反競争的効果を引き起こす
シャーマン法2条違反になるには、上記のことに加え、独占者の行為が競争過程を害し、それによって消費者に損害を与えなければならない。
 
Googleの独占販売契約(ISAやRSAなど)は米国内の全一般検索エンジン利用者の半数が、AppleとAndroidの全端末にプリロードされたデフォルトして、Googleを利用することを保証し、さらに反競争的弊害を引き起こすためにシャーマン法2条違反である。

独占販売契約は3つの反競争的効果がある。i)競合社の排除、ii)競合社の規模の拡大を阻止、iii)競合社の一般検索への投資や革新に投資する動機を失わせる。

(1) 独占契約は市場のかなりのシェアを奪う。実質的な排除行為により、競合社が支配的企業に対して脅威を与える必要なクリティカルなレベルに達することを阻止するといえなければならない。したがって、原告は、独占契約により、関連市場における排除の水準を証明する必要がある。

専門家によれば、米国における全クエリの50%が独占契約のデフォルトの検索枠を通じて実行されている。この数字にはユーザーがダウンロードしたChromeでGoogle検索を経由する全クエリの20%は含まれていない。反競争的とみなされるためには、市場の排除効果が「重大」でなければならない。

裁判所は50%という数字が重大と意味すると判断する。重大と判断するには質的要素(契約期間、解約の容易性、参入障壁の高さ、代替的流通手段の利用可能性、消費者の比較購買意欲などを含む)にも注目している。

たとえば契約期間については、AppleとのISAは5年の基本期間と5年の延長オプションで構成されており、この期間は排他的行為の重要性を高めている。また、解約の容易性だが、AppleもMozillaも理由なく一方的に解約する権利を有していない。MADAについて契約解除によりGoogleのアプリ(特に、Google Play Store)が利用できなくなるという阻害要因がある。

これらの要素はすべて、Googleの販売契約が一般検索サービス市場のかなりの部分を独占し、競合社の競争機会を損なっていることを示している。
 
(2) 独占契約は競合者から規模を奪ってきた。第二の反競争的効果は競合社が効果的に競争するために必要なユーザーのクエリにアクセスを抑制することである。Googleはデフォルトの位置にある検索エンジンは他の検索エンジンよりもクエリを得ることに有利であることを認めており、また検索品質にとってユーザーの利用データはある程度有用であるとも認めている。しかしGoogleは、ア)販売契約は競合社が競争するための有意義な規模を否定するほど強いものではないと主張する。また、イ)規模の役割が強調されすぎており、Googleのように高品質であれば、小規模でも競争できると主張する。裁判所はこれを否定する。

米国内の一般検索エンジンによるクエリの半数はデフォルトの検索枠から開始されている。さらに20%はダウンロードしたChromeによるものである。米国内の全一般検索エンジンクエリのうちGoogleがプリロードされていない検索枠を経由するのは30%に過ぎない。デフォルトの本当の価値は、間違いなく大きい。事実認定で触れたように、Mozillaはデフォルトの一般検索エンジンをYahooに変更したが、ほとんどのユーザーはGoogleに変更した。これは代替の選択肢が高品質な製品に裏打ちされた高いブランド認知度を持つ支配的企業である場合、デフォルト効果が弱くなる効果があるためである。

Googleに入力されるクエリはすべての競合社の合計の9倍、モバイルに限定するとその倍率は19倍である。クエリデータは結果の関連性とランキングをアルゴリズムで改善するモデルの構築と訓練、および新機能の開発にも利用される。また検索広告の質の向上と検索結果の質の向上にも利用される。クエリが増加すればするほど、品質が高まり、さらにクエリが増加するというネットワーク効果が発生する。Googleはこのような効果は過大に誇張されていると主張する。近時はデータへの依存が低く、AI駆動型の検索もあるからである。しかし、Googleは引き続き大量のユーザーデータに依存しており、Googleの承認でさえAI(本文ではLLM(大規模言語モデル))がユーザーデータに代替するほど十分に進歩したと証言した者はいない。

クエリの不足により、Bingはデフォルトの一般検索エンジンとする品質に達していない。また、新規参入者が品質を確保し、収益化し、パートナーに収益不足を補てんするためには少なく見積もっても数十億ドルが必要である。
 
(3) 独占契約は投資と技術革新のインセンティブを低下させた。現在、自立した一般検索エンジンを構築するために大規模な投資を行ってきたのは、GoogleとMicrosoftだけである。一般検索エンジンを構築するための投資額が膨大であるからだ。効果的な流通網が閉鎖されていることも新規投資不足に大きく寄与している。Neevaの失敗はその一例である。Neevaを利用するにはアプリをダウンロードするしかない、非効率な流通手段に追いやられていたからである。

MicrosoftはGoogleの主な競合者であるが、モバイルでの配信が制限されているため、投資を制限している。熾烈な競合者となる可能性のあるAppleはGoogleから多額の収益分配金を受け取っているため、競争には参加していない。また、Branchのような新興の競合社は流通手段を得ることができていない。そしてGoogleは革新がなくとも何ら結果が異ならないことを知っており、革新を起こす動機にかけている。
2|独占契約は競争促進的な利益をもたらさない
原告は一般検索サービス市場における反競争的効果について疎明を行ったため、立証責任はGoogleに移り、Googleは、競争促進的な正当性を提示しなければならない。

Googleは、この点、i)一般検索サービス市場における利用者体験、品質、アウトプットを向上させる。ii)関連市場における競争を刺激し、検索市場に利益をもたらす。iii)関連市場において消費者に利益をもたらす、と主張した。裁判所はこれらの主張は不十分と判断する。

(1) Googleは、ブラウザ契約、すなわちsafariとFirefoxにデフォルトの一般検索エンジンとして排他的に設置することについて、ブラウザの検索機能がそのまま効果的に機能することを可能にするものであり、ユーザーの利便性を確保するものと主張する。しかしここでは独占契約が競争促進的利益を生じさせることを正当化しなければならず、独占的なデフォルト搭載が競争促進的利益を持つとは示していない。また、Googleは、デフォルトの地位を獲得するために品質を向上させる動機づけになると主張する。しかし裁判所の結論は一般検索エンジンとしての競争は既に存在せず、品質向上の動機づけとなったとする証拠はない。Googleは、配信契約において収益分配を行っている点について、新しい競合社が市場に参入することを買うことを通じて、参入を促進することができるというが、これは市場の現実とは相いれない。新規参入者が市場に参入できたという証拠はなく、ましてやデフォルト獲得のために前金を支払ったという事実もない。

Googleは、独占契約によって検索アウトプットが増加したと主張するが、デフォルトの排他性がアウトプット増大の原因になったという証拠はない。

(2) 他の市場への利益の提供 Googleは、収益分配金の支払によって、より優れたブラウザ、スマートフォンの改良と低価格化、AppleとAndroidの競争激化が促進され、これらすべてが検索アウトプットを増加させることで一般検索サービス市場の利益につながると主張する。しかし、たとえばAppleはsafariを改良するために収益分配を支払うべきことを要求していない。またデフォルトの排他性が検索アウトプットの増加につながったとの見解は示されていない。

Googleは、Apple端末とAndroid端末との競争、Android端末間の競争を促進したとしている。しかし、この主張はAndroid端末メーカーや通信業者が分配された収益をGoogleが主張するような方法で利用しているという証拠が乏しい点で不十分である。

(3) 市場横断的なメリット Googleはその販売契約が関連市場そのものについて競争促進的な利益を生み出し、検索市場における排除効果を正当化すると主張している。この理論自体、適用すべきかについて議論があるが、独占契約が競争促進的な利益をもたらしたとする証拠がないため、検討する必要がない。
 
以上、Googleは有効な競争促進的利益が独占的デフォルト配布の必要性を説明することを立証する責任を果たしていない。従って、裁判所はブラウザ開発者、Android OEMおよび通信事業者との独占販売契約を通じて、一般検索サービス市場における独占を違法に維持しているとして、シャーマン法第2条に基づく責任を負うと判断した。

10――法律の結論

10――法律の結論(一般検索テキスト広告市場における反競争的行為・効果)

ここで判断すべきは一般検索テキスト広告市場における反競争的行為・効果であり、下記図表10の色付き部分である。
【図表10】一般検索テキスト広告市場における反競争的行為・効果
1|独占契約は市場における大きなシェアを奪う
シャーマン法2条違反については、1条で要求される40%または50%より少ないシェアでも該当する可能性があるとされている。ちなみに、排他的取引の閾値は40%である。一般検索テキスト広告市場におけるGoogleのシェアは45%であることが専門家の分析で示され、Googleは45%では不十分と述べるのみである。裁判所は45%で違法となるには十分であると判断した。

2|独占契約によって超競争的な価格で利益を得た
Googleは一般検索テキスト広告市場において広告費の支出を、競合者に流出させることなく一度に5%から15%の引き上げを行ってきた。この結果、広告収入が毎年、対前年比20%以上の成長率を維持している。

したがって独占契約によって維持されているGoogleの独占力が、意味のある競争上の制約なしにテキスト広告を引き上げることを可能にしていることをしっかりと立証した。

Googleはテキスト広告の価格が上昇するにつれて、その効果も上昇していると主張している。しかし、Googleの品質調整済広告の価格が下落どころか安定しているという証拠は弱い。また、広告の質が上昇したとしても、それだけでは反競争的な価格設定効果がないことを立証することはできない。

競争者が存在する場合においては、現状のように競争者がいない場合に得られるような利益を広告から得ることはできない。

3|独占契約によって競合社の広告収入に上限が設けられた
独占配信契約によって、Googleは一般検索サービス市場とほぼ同じ方法でテキスト広告の独占を維持することができる。つまり、Googleの競合者は、より効率の悪い、デフォルト以外のアクセスポイントを通じて一般検索エンジンを配信しなければならず、その結果、ユーザー数が減り、そのユーザーをターゲットに費やされる広告費が減るのである。

唯一の競合者であるBingに、多くの広告主は一様に10%の広告費を割り当てているが、価格の上昇や品質の低下に関係なくテキスト広告費の90%をGoogleに費やす。これは市場において反競争的な効果である。

従って、裁判所は、原告が、グーグルの独占的販売契約が、一般検索テキスト広告市場における独占の維持に実質的に寄与し、シャーマン法第2条に違反することを証明したと結論付ける。

(2024年12月25日「基礎研レポート」)

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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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