2024年12月25日

米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場

保険研究部 取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3――Google検索

1|製品品質
Googleは米国で利用できる最高の一般検索エンジンとして広く認知されている。モバイル端末ではGoogleが、全ての競合者を大きく上回っているが、デスクトップ端末ではBingの検索品質がGoogleに匹敵するとされている。

Googleの優れた製品品質は、長年にわたる数々の技術革新の賜物である。

2|ブランディング
Googleが世界中で非常に高い頻度で利用されているという事実は、ブランド形成に寄与している。Googleはまた、高品質な製品を提供することで、ブランドロイヤリティと認知度を高めていった。そのブランド力を示す最たる例が、一般の人々がGoogleという言葉を、動詞として、ネット検索と同じ意味で使っていることだろう。

3|社内品質研究
Googleは2020年、品質低下による影響評価を約3か月間大規模に実施した。この品質低下実験はグルーバル検索収益のわずか0.66~0.99%の低下と相関していた。この研究結果が示すのは、Google検索の大幅な品質低下は、収益の大幅な損失につながらないということである。

Googleはまた他の一般検索エンジンと比較して品質評価を行った。2017年、GoogleはBingと比較して、人気のある特定のクエリについて25%の時間、検索結果ページの読み込みが遅いことが判明した。Googleはプロジェクト・フォリーを立ち上げ「待ち時間を短縮するためのプロジェクトやポリシー、プロセスを導入する試み」を行った。結果、プロジェクトは成功した。

一方、Googleは、特に若年層において検索をGoogleではなく、ソーシャルメディアをその手段として利用しているかどうかを把握しようとした。その結果、若年層が求める検索体験は様々であり、その一つが個人からの推薦を受けることの重要性が高まっていると結論づけた。Z世代においては、63%がTikTokを検索エンジンとして利用していると回答したという。

4――その他の検索プラットフォーム

4――その他の検索プラットフォーム

1|特化型垂直プロバイダー
特化型垂直プロバイダー(Special Vertical Provider、以下、「SVP」)は特定の主題を中心とした問い合わせに対応するプラットフォームである。SVPの例としては、Amazon(物販サイト)、Expedia(旅行サイト)、Yelp(地域のビジネスレビューサイト)がある。

これらSVPは非商業的なクエリには対応せず、かつ特定のカテゴリに特化しており、したがってAmazonのようなサイトは一般検索エンジンの競合相手ではない。このように一般検索エンジンとSVPが別物であるというのが業界経験者の一致した見解である。

ただし、商用クエリのうち、特定のカテゴリで競合する部分がある(ホテル検索におけるExpediaとGoogleなど)。しかしながら、AmazonなどのSVPは一般検索エンジンの最大の広告主でもある。Googleの実証研究では一般検索エンジンとSVPは競合的ではなく、補完的である。SVPの利用が増加しても、一般検索エンジンの利用は減少しない。

2|ソーシャルメディアプラットフォーム
ソーシャルメディアの例としては、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokなどがある。業界関係者はソーシャルメディアを一般検索エンジンとみなしていない。たとえばTikTokでは、クエリを入力しなくとも動画を見ることができる。TikTokには検索機能があるが、結果ページにはTikTok上にあるコンテンツのみが表示され、オープンウェブからのリンクや情報は含まれない。

Googleはそれでもソーシャルメディアを競争上の脅威とみなしているが、ソーシャルメディアの利用が増加してもGoogleの利用が減少するという証拠はない。

5――デジタル広告業界

5――デジタル広告業界

1|検索広告
検索広告はデジタル広告の一種で、検索プラットフォーム上のユーザーのクエリに対して掲載される、有料又はスポンサー付きの投稿のことを指す。検索広告は一般検索エンジン、SVP、ソーシャルメディアに掲載される。

検索広告のもととなるシグナル(クエリによって示された意図)は物品販売やサービス提供につながるため、大変重要である。

2|一般検索エンジンに関する検索広告
一般検索エンジンの運営者は検索広告によって収益を得ている。Googleの収益の大半は広告収益である。一般検索エンジンで販売される検索広告には(1)一般検索テキスト広告と、(2)ショッピング広告または製品リスト広告(product listing ads(以下、PLA))がある。

上述の通り、(1)はオーガニックの検索結果と表示形式は同じで、オーガニック結果の上部に表示される。(2)のPLAは検索結果ページの最上段に四角の枠で表示され、通常は製品の写真、販売者、価格などが表示される(図表1)。
【図表1】Googleの検索結果ページ
PLAは有形商品の販売者向けに設計されている。これは消費者ニーズを満たすためと、Amazonの提供する物販サービスに対抗するために設けられている。

他方、テキスト広告は、有形商品に限定されず、ほぼすべての製品・サービスの広告に利用することができる。サービスのみを提供する会社(JPモルガンなど)はテキスト広告のみを購入でき、PLAは購入することができない。

2020年Googleの広告収益の80%がテキスト広告である。広告主数でみると92.5%がテキスト広告のみを購入し、5.5%がテキスト広告とPLAの両方を購入し、2%がPLAのみを購入している。

Googleはテキスト広告とPLAとは異なる商品とみなしている。テキスト広告とPLAは補完し合う関係にあるとし、それぞれ別のチームが担当し異なる目標を掲げている。

テキスト広告市場におけるGoogleの市場シェア(広告費ベース)は88%である。これらのテキスト広告費のうちの45%はデフォルトの検索枠の入力されたクエリに応じて表示されている。

SVPは検索広告を表示するが、これはほぼPLAのみである。広告主はSVPに広告を載せるには、SVPを提供するプラットフォームで商品を購入できるようにしなければならない。

3|ディスプレイ広告
ディスプレイ広告とはウェブサイトに表示される画像や動画のことであり、ディスプレイ広告の典型例はバナー広告(ウェブページの上部や左右に掲示される広告)である。ディスプレイ広告もクリック数で広告費が支払われるが、どの販売業者の広告が掲載されるかは入札による。最高額の広告費を支払った広告主はその入札価格を支払うこととなっている(ファーストプライスオークションという。図表2)。
【図表2】ファーストプライスオークション
ディスプレイ広告はクエリに対応して掲載されるのではなく、たとえばスキーブーツをネット上で購入すると、その後閲覧するウェブページにスキー用品が提案されるような方式を取っている。このような方式はリターゲティング広告というが、昨今のAppleのプライバシーに関する方針3などによって、リターゲティング広告は難しくなってきている。
 
3 サードパーティクッキーと呼ばれるもので、ユーザーが訪れたウェブページの運営者とは別の事業者が当該ページを訪れた痕跡であるクッキーを追跡する技術である。プライバシーの観点から問題視されるようになってきている。
4|ソーシャルメディア広告
ソーシャルメディア広告は、ソーシャルメディアのフィード(=投稿が掲示される部分)に掲載されるディスプレイ広告の一種である。

ソーシャルメディア広告の最大手のひとつはFacebookとInstagramを所有するMetaである。ごく一部を除きソーシャルメディア広告は検索広告とはみなされない。ソーシャルメディア広告はクエリに対して掲載されるものではなく、他のシグナル、たとえばフォローしているアカウントやフィードに表示された商品に対するクリック数などによって決定される。

ソーシャルメディア広告は成長を続けており、GoogleもYouTubeやGmailに表示される広告とすることを通じて参入したが、検索結果ページには表示されることはない。

5|マーケティングファネル
ファネルとは漏斗のことで、マーケティングファネルとは消費者の注目を集めて、購入に至るまでの段階を表すものである。上部には消費者に製品を認知してもらう段階で、中間が購入を検討する段階、そして下部は製品を実際に購入してもらう段階である。
【図表3】マーケティングファネル
ディスプレイ広告はファネルの上部で効果的であり、検索広告は下部で効果的である(図表3)。

広告主は「フルファネル戦略」の一環として、さまざまな広告チャネルを補完的に使用することが多い。Google自身も「フルファネル戦略」の重要性を宣伝している。

6|広告費支出のシフト
広告主は広告費支出を最適化したいと考えており、そのための指標として投資収益率(ROI)または広告費用対効果(ROAS)がある。

広告主の利用できる自動入札ソフトウェアでは異なる広告タイプのROIを識別し比較しようとする。これらの自動化ツールは一般検索エンジンやSVPの検索広告、ソーシャルメディア広告の間で広告費をシフトする。ただ、これらのツールにおいても、検索広告からディスプレイ広告や、ソーシャルメディア広告に大きく予算をシフトすることはない。広告主の証言によればGoogleの検索広告は広告キャンペーンに不可欠であるとのことである。

広告主はトラフィック(流入数)、そして収益のために検索広告に大きく依存している。広告主は一貫して、GoogleからBingへ多額の広告費をシフトすることは、Bingの規模不足のために効果がない・賢明ではないと証言している。

Googleにおいて、一般検索テキスト広告とPLAとの間はシフトが可能であるが、PLAにシフトできるのは小売物販業者だけである。Googleの最大広告主20社のうち、PLAにシフトできるのは3社に過ぎない。

(2024年12月25日「基礎研レポート」)

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保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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