2024年11月11日

文字サイズ

1.経済動向と住宅市場

11/15に公表予定の2024年7-9月期の実質GDPは前期比0.2%(前期比年率0.8%)と推計される1。2四半期連続のプラス成長を確保したが、所得税・住民税減税が6月から実施されていることを考慮すると、消費を中心に低成長にとどまったとみられる。

経済産業省によると、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比▲0.4%と2四半期ぶりの減産となった(図表-1)。業種別では、電子部品・デバイスが前期比+7.7%と高い伸びとなった一方、工場の稼働停止の影響で自動車が同▲4.1%と減産になったほか、生産用機械が同▲5.6%、汎用機械が同▲2.7%と落ち込んだ。

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2024年度+0.7%、2025年度+1.1%を予想する(図表-2)2。2024年度後半以降は、民間消費、設備投資を中心に潜在成長率を若干上回る年率1%前後の成長が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) / 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、住宅価格の上昇が続くなか、販売状況などは低調である。2024年9月の新設住宅着工戸数は前年同月比▲0.6%の68,548戸と5カ月連続で減少し、7-9月累計では前年同期比▲2.0%の約20.3万戸となった(図表-3)。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2024年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は1,830戸(前月同月比▲13.7%)、7-9月累計では4,054戸(前年同期比▲34.4%)となった(図表-4)。9月の1戸当たりの平均価格は7,739万円(前年同月比+15.0%)、m2単価は114.8万円(同+12.8%)、販売在庫は5,025戸(前月比▲85戸)となった。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構によると、2024年9月の首都圏の中古マンション成約件数は3,047件(前年同月比▲4.5%)、7-9月累計では8,539件(前年同期比▲2.9%)となり5四半期ぶりに減少した(図表-5)。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
また、日本不動産研究所によると、2024年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比+0.2%、過去1年間の上昇率は+6.6%となった(図表-6)。

中古マンション市場では、価格上昇に伴い、成約件数は足もとやや弱含んでいる。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2.地価動向

2.地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2024年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「80」(前回80)となり、前回に続き、全ての地区が上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では利便性や住環境に優れた地区におけるマンション需要に堅調さが認められたこと。商業地では店舗需要の回復傾向が継続しオフィス需要も底堅く推移したことなどから上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(10/1時点)は前期比+0.5%(前回+0.9%)となり17四半期連続でプラスとなった(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2024年9月の東京都心5区の空室率は4.61%(前月比▲0.15%)、平均募集賃料(月坪)は20,126円(前月比+0.1%)となり8カ月連続で上昇した。他の主要都市の空室率をみると、札幌と大阪が4%台、名古屋・福岡が5%台で推移する一方、横浜(7.8%)と仙台(6.2%)は新規供給の増加等を受けて高い水準にある3。また、今後、大阪と福岡では大型の新規供給を控えており需給動向を注視したい(図表-9)。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2024年第3四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は26,796円(前期比+0.0%、前年同期比+8.7%)と4四半期連続で上昇し、空室率は6.4%(前期比+0.7%、前年同期比▲0.3%)となった(図表-10)。三幸エステートは、「供給量がピークを越えたことに加え、オフィス需要は拡大傾向が続いていることから、来期の空室率は改善する可能性が高い」としている。

また、日経不動産マーケット情報(2024年11月号)によると、東京ビジネス地区のオフィス成約賃料は22エリア中13エリアで賃料の上限または下限が半年前と比べて上昇した4
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心部A クラスビルの賃料見通しを9 月に改定した5。2024 年にやや改善した後、6%付近で推移すると予測する。また、成約賃料(2023 年=100)は、2024 年に「107」、2025 年に「109」、2028 年に「104」となる見通しである(図表-11)。

東京オフィス市場では賃料の回復基調が明確になっているものの、来年にオフィスの大量供給を控えるなか、需要拡大に伴う賃料上昇の持続性が試されることになる。
図表-11 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
3 いずれの都市も賃料は前年比プラスとなっている。2024年9月時点の平均募集賃料は、札幌(前年同月比+5.5%)・仙台(+1.2%)・横浜(+2.0%)・名古屋(+1.9%)・大阪(+1.6%)・福岡(+2.4%)となっている。
4 上昇幅が最も大きかったエリアは「渋谷駅周辺」で、半年前と比べて下限が2,000円、上限が4,000円上昇し、成約水準は3.0万円~3.9万円となった。
5 吉田資『「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2024年9月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024年09月26日)

(2024年11月11日「不動産投資レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【ホテル市況は好調持続。物流市場は空室率が高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第3四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ホテル市況は好調持続。物流市場は空室率が高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第3四半期のレポート Topへ