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2025年10月22日

貿易統計25年9月-米国向け自動車輸出が数量ベースで一段と落ち込む。7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスに

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨
 
  • 2025年9月の貿易収支は▲2,346億円の赤字となり、事前の市場予想を下回った。
     
  • 米国向け自動車輸出は、関税引き上げ後の価格競争力低下により数量ベースの落ち込みが拡大しており、9月は前年比▲14.2%(8月:同▲9.5%)となった。
     
  • 7~9月期の地域別輸出数量は全体的に低調で、GDP統計の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスが見込まれる。内需も弱含む公算が大きく、現時点では、7-9月期の実質GDPは前期比年率▲2%台のマイナス成長になると予想している。


■目次

1.貿易収支は事前予想を下回る
2.米国向け自動車輸出は数量ベースの落ち込み幅が拡大
3.7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスに

1.貿易収支は事前予想を下回る


 

1.貿易収支は事前予想を下回る

財務省が10月22日に公表した貿易統計によると、25年9月の貿易収支は▲2,346億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:213億円の黒字、当社予想は▲2,614億円の赤字)を下回った。輸出が前年比4.2%(8月:同▲0.1%)、輸入が前年比3.3%(8月:同▲5.2%)といずれも増加に転じたが、輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は前年に比べ715億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲1.3%(8月:同▲3.9%)、輸出価格が前年比5.5%(8月:同4.0%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比5.9%(8月:同▲0.1%)、輸入価格が前年比▲2.5%(8月:同▲5.1%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
季節調整済の貿易収支は▲3,143億円と7ヵ月連続の赤字となり、8月の▲1,712億円から赤字幅が拡大した。輸出が前月比2.4%、輸入が同3.9%となった。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 25年9月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=73.1ドル(当研究所による試算値)と、8月の72.2ドルから上昇した。足もとの原油価格(ドバイ)は60ドル台前半まで下落しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は10月の70ドル台前半の後、11月には60ドル台まで低下することが見込まれる。

2.米国向け自動車輸出は数量ベースの落ち込み幅が拡大

2.米国向け自動車輸出は数量ベースの落ち込み幅が拡大

25年9月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲13.5%(8月:同▲12.0%)、EU向けが前年比▲0.2%(8月:同0.1%)、アジア向けが前年比3.1%(8月:同▲4.7%)、うち中国向けが前年比4.2%(8月:同▲12.4%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 25年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲6.1%(4-6月期:同▲1.3%)、EU向けが前期比▲2.1%(4-6月期:同3.0%)、アジア向けが前期比▲1.9%(4-6月期:同▲0.3%)、うち中国向けが前期比▲1.1%(4-6月期:同▲2.6%)、全体では前期比▲2.8%(4-6月期:同0.6%)となった。

いずれの地域向けも低調だが、自動車を中心に関税引き上げの影響が顕在化し始めた米国向けの輸出が特に弱い。
米国向け自動車輸出(金額)は前年比▲24.2%(8月:同▲28.4%)となった。輸出価格は前年比▲11.6%(8月:同▲20.9%)と減少幅が大きく縮小したが、輸出数量が前年比▲14.2%と8月の同▲9.5%から減少幅が拡大した。なお、円ベースの輸出価格の減少幅が縮小したのは、自動車メーカーの輸出価格の引き上げによるものではなく、前年と比べたドル円レートが7月までの円高から8、9月と円安に振れたためである。契約通貨ベースの米国向け自動車の輸出価格は5月以降、前年比▲20%前後の推移が続いている。
 
米国向け自動車輸出は、輸出価格の大幅な引き下げによって関税引き上げ直後は数量ベースでは横ばい圏で推移してきたが、ここにきて減少傾向が鮮明となっている。米国向け自動車の輸出価格(契約通貨ベース)は関税引き上げ前に比べて2割程度低下しているが、日本の主要自動車メーカーが米国での販売価格を引き上げたことにより、日本車の米国車に対する相対価格が上昇(価格競争力が低下)し、輸出に悪影響を及ぼしている。

自動車関税は9/16に27.5%から15.0%に引き下げられたが、元々の2.5%と比べれば依然として大幅な引き上げであることに変わりはない。米国向け自動車輸出は価格競争力の低下を主因として、先行きも数量ベースでの減少が続く可能性が高い。
米国向け自動車輸出の推移/輸出物価(米国向け自動車)の推移

3.7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスに

3.7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスに

9月までの貿易統計と8月までの国際収支統計の結果を踏まえて、25年7-9月期の実質GDPベースの財貨・サービスの輸出入を試算すると、輸出が前期比▲2%台の減少、輸入が前期比▲0%台の減少となった。この結果、7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%(4-6月期:同0.3%)と2四半期ぶりのマイナスとなることが予想される。

当研究所では、鉱工業生産、建築着工統計等の結果を受けて、10/31のweeklyエコノミストレターで25年7-9月期の実質GDP成長率の予測を公表する予定である。現時点では、外需が成長率を大きく押し下げることに加え、民間消費、住宅投資を中心に国内需要も低調に推移することから、実質GDPは前期比年率▲2%台と6四半期ぶりのマイナス成長になると予想している。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月22日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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