コラム
2024年10月07日

J-REIT市場動向(2024年9月末)~オフィスセクターに光差すも、バリュエーションは依然として割安な水準~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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J-REIT(不動産投資信託)市場は8月上旬に付けた年初来安値から持ち直しの動きにある。市場全体の値動きを表わす東証REIT指数(配当除き)は8月5日に起きた株式市場の史上最大の下げに巻き込まれる形で急落したものの、その後は回復に転じている(図表1)。この結果、第3四半期(7~9月)の騰落率は+0.1%と5四半期ぶりにプラスとなり、株式市場(TOPIX▲5.8%下落)の騰落率を8四半期ぶりに上回った。
図表1:東証REIT指数とTOPIXの推移(2023年12月末=100)
こうした回復の要因の1つに、オフィス賃料の上昇期待が挙げられる。三鬼商事によると、8月の東京都心5区の募集賃料は7カ月連続で上昇。また、三幸エステート公表の成約データに基づく東京都心部Aクラスビル賃料(第2四半期)は3期連続でプラスとなり、ボトムから9%上昇した。東京のオフィス市場は企業の前向きな移転需要が顕在化し、コロナ禍以降、長らく続いた調整局面を脱したと言えそうだ。

実際、J-REITが保有するオフィスビルの収益についても底打ちを確認することができる。各決算期において継続比較可能な保有オフィスビルの賃貸事業収益(NOI:Net Operating Income)の増減率をみると、今年上期(1~6月期決算)は前年比+2.4%となり3年ぶりにプラスに転じた(図表2)。前回の金融危機後の回復局面と比較した場合、前回はオフィス収益の反転は市場賃料の上昇に対して2年程度の遅れが見られたが、今回は市況悪化の傷が浅かったこともあり1、タイムラグなく市場賃料の上昇に追随できている。
図表2:J-REIT保有ビルの収益増減率とオフィス賃料の推移
こうした市況の改善を受けて、REIT各社はリーシング方針についてこれまでの稼働優先から賃料重視へ転換する姿勢を示している。2024年6月期の決算ガイダンスでは、オフィス最大手の日本ビルファンド投資法人は「テナント入れ替え・更新ともに賃料単価の向上を目指す」とし、日本プライムリアルティ投資法人は「幅広く増額の申し入れを行い早期の賃料増額を図る」、ジャパンエクセレント投資法人は「リーシング方針を賃料増額の方向に切り替えて、積極的・果敢にチャレンジ」と説明している。東京オフィス市場では来年にオフィスの大量供給を控えているが、弊社では、「企業のオフィス環境整備に向けた需要は底堅く需給バランスが崩れる懸念は小さい」とみている2
 
このように、オフィス市況に光が差してファンダメンタルズに明るさが増す一方、オフィスセクターのバリュエーションは依然として割安な水準にある。オフィスセクターのNAV倍率は0.85倍と、理論上の解散価値(NAV:Net Asset Value)を▲15%下回る水準で取引されている(図表3)。海外投資家を中心に市場参加者の多くは、オフィス市況の持続的な改善に確信が持てないでいるのかもしれない。

J-REIT市場の割安解消には、保有資産の4割を占めるオフィスセクターがインフレに負けない収益拡大を実現することが求められる。今後のオフィス市況並びにJ-REIT各社の内部成長戦略に注目したい。
図表3:オフィスセクターのNAV倍率推移
 
1 ピーク時からの賃料下落率は、金融危機時が▲29%(2008年8月~2013年12月)、コロナ危機時が▲14%(2020年7月~2023年11月)。
2 吉田資「東京都心部Aクラスビル市場の現状と見通し(2024年9月時点)」(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024年9月26日)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年10月07日「研究員の眼」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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