2023年12月05日

総合型への転換が増加するJリート市場。今後の課題は?

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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リート(不動産投資信託)は、特定のアセットタイプに特化して運用するリート(以下、特化型)と、複数のアセットタイプに分散して運用するリート(以下、総合型)に大別されるが、Jリート市場では、ポートフォリオ拡大や収益安定化を図るため、リート同士の合併によって特化型から総合型へ転換する事例が増えている(図表1)。
図表1:合併による総合型リートへの転換事例
2023年6月、オフィス特化型であるケネディクス・オフィス投資法人(以下、KDO)は、スポンサーを同一とする2社(住宅特化型と商業特化型)と合併し、総合型への転換を発表した。当時、オフィスセクターに対する世界的な逆風を背景に、KDOのNAV倍率(株式のPBRに相当)は0.75倍に低下し、厳しい評価の渦中にあった(図表2)。
図表2:合併に伴うNAV倍率の推移
3社の合併によって誕生する総合型リートのNAV倍率の推移をみると、合併に伴うダイリューション(希薄化)でNAV倍率は0.75倍から0.85倍へ切り上がった後、投資口価格の上昇(プラス5%)を受けて0.89倍と、市場平均(0.91倍)に近い水準まで上昇した(11月2日時点)。今後は、市場時価総額の拡大によるグローバルインデックスへの採用や新たな価値向上への取り組みが評価されれば、さらなるバリュエーションの改善が期待できそうだ。
 
今回の事例では、オフィス特化型から総合型へ転換することで投資口価格が上昇し、市場評価を高めることに成功した。しかし、総合型は特化型と比較して市場評価が低くなるコングロマリット・ディスカウント(以下、CD)の課題を抱える1。一般に、総合型はアセットタイプの多様化による収益変動リスクの低減や市場環境に応じた柔軟なポートフォリオ運用が期待できる一方、投資家からみて運用の実態が分かり難いといったデメリットが指摘される。実際、Jリート市場では総合型のCDは現在4%程度と推計され、評価が低い傾向にある。
 
また、世界最大の米国リート市場では特化型が主流である。米国における総合型の時価占率は2%に過ぎず、銘柄数は過去10年間で23社から12社へ減少した(図表3)。これに対して、Jリート市場における総合型の時価占率は過去10年間で28%から42%へ拡大し、銘柄数も14社から25社へ増加している。
 
もちろん、総合型の増加が一概に否定されるわけではない。しかし、海外投資家の眼には総合型の比率の高まるJリート市場が、凡庸で魅力の乏しい市場に映ってしまう可能性がある。総合型リートには総合型ならではの強みを発揮し、CD解消に向けた確かな運用戦略の実行が求められることになりそうだ。
図表3:総合型の時価占率と銘柄数(Jリート市場及び米国リート市場)
 
1 岩佐浩人『Jリート市場のコングロマリット・ディスカウントを考える(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65558?site=nli)』(ニッセイ基礎研究所、年金ストラテジー、2020年10月号)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年12月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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