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2025年06月06日

東京オフィス市場は賃料上昇率が拡大。J-REIT市場は需給改善で反発-不動産クォータリー・レビュー2025年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.339]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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2025年1-3月期は4四半期ぶりのマイナス成長になったが、均してみれば景気は緩やかな回復基調を維持している。

住宅市場では価格上昇が続いている。東京オフィス市場では賃料上昇率が拡大している。東京23区のマンション賃料は引き続き上昇している。ホテル市場ではインバウンド需要が牽引し宿泊者数が増加した。物流市場では首都圏の空室率が一段と上昇している。2025年第1四半期の東証REIT指数は+2.3%上昇した。

1―経済動向と住宅市場

1-3月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率▲0.7%となった。財貨・サービスの輸入が高い伸びとなったことから、外需寄与度が前期比▲0.8%と成長率を押し下げた。4-6月期についても、米国の関税引き上げの影響で、現時点では2四半期連続のマイナス成長が予想される。

住宅市場では、1-3月の新設住宅着工戸数前年同期比+13.1%増加、首都圏のマンション新規発売戸数は▲15.6%減少、首都圏の中古マンション成約件数は+25.5%増加した。また、2月の首都圏中古マンション価格は前年同月比+8.1%上昇した[図表1]。
[図表1]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は、住宅地・商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2024年第4四半期)」によると、4四半期連続で全ての地区(全国80地区)が上昇となった[図表2]。同レポートでは、「住宅地では利便性や住環境に優れた地区のマンション需要が堅調で上昇傾向が継続。商業地では再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加、堅調なオフィス需要を背景に上昇傾向が継続した」としている。
[図表2]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三鬼商事によると、3月の東京都心5区の空室率は3.86%(前月比▲0.08ポイント)、平均募集賃料(月坪)は14カ月連続で上昇し20,641円(前月比+0.8%)となった。他の主要都市では、複数の大型ビルの竣工により一時的に空室率が上昇したが、その後のリーシングは順調に進み、札幌を除いて、空室率は前年比で低下している[図表3]。
[図表3]主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス(第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は30,509円(前期比+7.1%)と6期連続で上昇し、空室率は6.1%(前期比+0.4ポイント)となった[図表4]。同社は、「第1四半期は複数の新築ビルが空室を抱えて竣工したため空室率は上昇したが、足元のオフィス需要は活発な状況が続き、これら新築ビルでも成約の話が進んでいることから、今後は空室消化が進む」としている。
[図表4]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビル市場の見通しを3月に発表した。「新規供給は続くものの、オフィス環境整備に支えられた需要は堅調であり、空室率は3%~6%のレンジで推移し、成約賃料は今後5年間で+10%上昇する」見通しである。

このように、東京オフィス市場では賃料上昇率が拡大し回復基調が強まっている。一方で、今後はトランプ政権による相互関税の影響が懸念される。製造業を中心に企業業績が悪化し、人員採用計画の見直しや経費削減、企業の設備投資意欲が減退すれば、オフィス需要が一転して停滞する恐れもあり、市場動向を注視したい。
2|賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプで前年同期比プラスとなった。2024年第4四半期はシングルタイプが+7.3%、コンパクトタイプが+7.8%、ファミリータイプが+8.0%であった[図表5]。一方で、総務省によると、1-3月累計の東京23区における転入超過数は約3.5万人となり、前年同期比▲14%減少した。昨年8月以降、前年同月の水準を下回る月が続いており、都心回帰の動きにやや一服感がみられる。
[図表5]東京23区のマンション賃料
3|商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、円高の影響や世界景気の減速懸念などを背景にインバウンド消費にブレーキがかかり、2月以降、百貨店の売上高が減少に転じている。商業動態統計などによると、1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+0.1%、スーパーが+2.8%、コンビニエンスストアが+1.5%となった。ホテル市場は、引き続きインバウンド需要が牽引し宿泊者数は増加しているものの、客室料金の高騰を受けて日本人の宿泊需要に頭打ち感がみられる。宿泊旅行統計調査によると、2025年1-3月の延べ宿泊者数は前年同期比+3.5%増加し、このうち日本人は▲2.7%、外国人は+23.0%となった。また、CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(第1四半期)は11.1%(前期比+1.3ポイント)となり、2010年以来15年ぶりに11%を上回った[図表6]。外縁部を中心に新規供給が継続するなか、空室の消化ペースは鈍く、空室率は当面高止まりする見通しである。一方、近畿圏の空室率は3.8%(前期比+0.1ポイント)と低い水準を維持し、需給の引き締まった状態が続いている。
[図表6]大型マルチテナント物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2025年第1四半期の東証REIT指数は、昨年末比+2.3%上昇した。3月末時点のバリュエーションは、NAV倍率が0.81倍、分配金利回りが5.1%となっている。また、J - R E I Tによる第1四半期の物件取得額は3,799億円となり、前年同期比▲25%減少した。アセットタイプ別の取得割合は、オフィス(33%)、ホテル(32%)、物流施設(15%)、住宅(12%)、商業施設(5%)、底地ほか(4%)となり、昨年に続きホテルの取得比率が拡大した一方で、物流施設の取得は低調であった。

第1四半期のJ-REIT市場は、10年国債利回りの大幅な上昇(1.1%→1.5%)や株式市場の下落(▲4.5%)といったマイナス材料があったにもかかわらず、上昇に転じた。その要因の1つとして、需給環境の改善が挙げられる[図表7]。昨年の価格下落は、それまで主要な買い手であった海外投資家やJリート公募投信の売却に伴う需給悪化が大きく影響した。しかし、今年に入り、海外投資家は買い越しに転じ、Jリート公募投信からの資金流出も一巡しつつある。さらに、J-REITによる自己投資口買いが高水準で実施される一方、増資によるエクイティ調達額が大幅に減少したことも、需給の改善に寄与している。
[図表7]J -REIT市場の需給動向(主要投資家別)
今後については、トランプ関税による世界経済悪化のリスクや金融市場における不確実性の高まりに注意が必要である。一方で、J-REIT市場はトランプ関税の影響を相対的に受けにくいアセットクラスであり、資金の逃避先として選好される可能性もある。引き続き外部環境の先行き不透明感は強いものの、現在の割安なバリュエーションが見直されることに期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月06日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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