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J-REIT市場の動向と収益見通し。今後5年間で▲7%減益を見込む-シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.338]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人
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1―J-REIT市場は底打ちの機運
2―今後のDPU成長率を試算する
J-REIT(主要5社)の開示資料によると、テナント入替時の賃料変動率は+7%(2024年下期)となり、上昇率がさらに拡大している。この要因の1つに、東京23区への人口回帰が挙げられる。住民基本台帳人口移動報告によると、2021年はコロナ禍の影響で転出超過となったが、その後は流入超過に転じ、2024年は約+5.9万人となった。こうした良好な市場環境を踏まえて、賃貸マンションのテナント入替時の賃料上昇率は+5%を想定する。
J-REIT各社の開示資料をもとにコロナ禍がホテル収益に与えた影響を推計すると、2023年まではマイナスの影響が残っていたが、2024年下期には+40億円とコロナ禍前の水準を超過した。宿泊旅行統計調査によると、2024年の延べ宿泊者数は2019年比で+9%増加し、ホテル市場は新たな成長ステージを迎えている。こうした市場環境やホテル系REIT(主要3社)の業績見通しを参考に、ホテルのNOIは2025年下期に+38億円増加(市場全体の経常利益を1%押し上げ)し、その後は横ばいでの推移を想定する。
J-REIT(主要12社)の開示資料によると、テナント更新時の賃料上昇率は+6.0%(2024年下期)となり、増額更改が継続している。EC市場の拡大や企業の物流戦略見直しに伴う賃貸ニーズは強く、物流施設のテナント更新時の賃料上昇率は+5%を想定する。
J-REITの新規調達コストは日本銀行の追加利上げに伴い、大幅に上昇している。2024年に発行した投資法人債の平均利率は1.34%(発行期間7.4年)となり、既存の負債利子率(0.77%)を大きく上回った[図表5]。
ニッセイ基礎研究所の中期経済見通しによると、「実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえ、日本銀行は2027年度に政策金利を1.25%まで引き上げて、10年国債利回りは1%台後半に上昇する(当初5年間、メインシナリオ)」としている。この金利見通しを利用して、『財務戦略』のDPUへの寄与度を計算した。結果は、メインシナリオで▲11%となり、借入金利の上昇がDPUにマイナス寄与する見通しである。
昨年のJ-REITによる物件取得額は2年連続で1兆円を上回った[図表6]。一方、不動産価格が高値圏で推移するなか、平均取得利回りは4.2%と既存ポートフォリオ(4.7%)を下回る水準での取得が続く。そこで、エクイティ調達を伴う『外部成長』について、以下のシナリオを想定しDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した(年間5千億円、取得利回り4.2%、借入比率50%、増資PBR1.2倍)。結果は、「外部成長」のDPUへの寄与度は▲3%となった。不動産利回りが低下し資金調達コストが上昇する環境下において、『外部成長』によるDPUの増加は期待し難く、慎重な対応が求められる。
最後に、上記で設定したシナリオをもとに今後5年間のDPU成長率を計算した[図表7]。結果は、オフィス賃料(標準シナリオ)と金利(メインシナリオ)」を組み合わせた場合、DPU成長率は▲7%となった。内訳は「内部成長」が+7%、「外部成長」が▲3%、「財務戦略」が▲11%で、2025年は横ばいを維持するものの、2026年から減益に転じる見通しである。また、楽観シナリオとして「オフィス賃料上振れと金利低下」を組み合わせた場合、DPU成長率は+10%、悲観シナリオとして「オフィス賃料下振れと金利上昇」を組み合わせた場合、DPU成長率は▲20%となった。
(2025年05月09日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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