2024年05月07日

Jリート市場ではディスカウント増資が増加。その問題点は?

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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Jリート(不動産投資信託)市場は、金融政策の正常化に伴う金利先高観などから調整局面が続いている。バリュエーション指標の1つであるNAV倍率(株式評価のPBRに相当)の推移をみると、日本銀行がYCC(イールドカーブ・コントロール)の修正を発表した2022年12月以降、市場全体のNAV倍率は1倍割れが常態化している(図表1)。3月末時点のNAV倍率は0.89倍とコロナショック時(2020年3月)以来の水準に低下し、上場REITの91%(53社/58社)が理論上の解散価値となるNAVを下回る価格で取引されている。
 
図表1:Jリート市場全体のNAV倍率とNAV1倍割れREITの占率
投資口価格の低迷に伴うJリートのNAV1倍割れは、長期目線の投資家にとって必ずしも悪いことばかりではない。不動産投資としてJリートを考えた場合、新規の投資家は実質的に鑑定評価を下回る価格で優良な不動産ポートフォリオに投資できる良い機会となる。また、既存の投資家にとってもこの間、安定した不動産キャッシュフローを享受しながら本来価値への回帰を気長に待つことで、投資リターンの改善が期待できよう。
 
ただし、Jリート投資では、1口当たりNAVを下回る価格での増資(以下、ディスカウント増資)によって、既存投資家のエクイティ価値が棄損するリスクに注意したい。実際、2023年以降に行われた27件の増資のうち、発行価格が1口当たりNAVを▲5%以上下回った件数は17件と全体の63%を占めた。以下では、ディスカウント増資の問題点について確認する。
 
図表2:ディスカウント増資によるエクイティ価値の変動(ケース1~3)
図表2は、便宜上、A投資法人(資産100億円、発行済口数1万口・NAV100万円/口)がNAV倍率0.8倍で増資(資金調達額80億円、新規発行口数1万口・NAV80万円/口)を行い、借入金(20億円)と合わせて不動産(100億円)を購入するケースを想定した。<ケース1>では、ディスカウント増資によって既存投資家のエクイティ価値が▲10%棄損(100万円/口→90万円/口)し、その分、新規投資家のエクイティ価値が増加(80万円/口→90万円/口)することを示している。
 
こうしたディスカウント増資によって被る不利益は、既存投資家の利益を最優先するJリート制度の根幹に反しており、投資家の信頼を損なうとともに、市場の価格発見機能を低下させる恐れがある。
 
もちろん、ディスカウント増資がいつも既存投資家のエクイティ価値を棄損するわけではない。例えば、<ケース2>が示す通り、不動産を割安な価格(120億円→100億円)で取得できるのであれば、エクイティ価値(100万円/口)の棄損は生じない。また、<ケース3>が示す通り、保有不動産の価格が既に下落(100億円→80億円)しているのであれば、真のNAVと発行価格が一致するため、エクイティ価値(80万円/口)の棄損は生じない。このようにしてみると、受託者責任を負う資産運用会社は、発行価格の公正性や増資の意義について、より明確な説明が問われることになりそうだ。
 
また、リーマンショック後の反省を踏まえて、Jリート市場では投資口価格が低迷する環境下においても安定した財務運営を確保できるように、投資主割当増資や自己投資口取得が解禁された経緯がある。Jリートの持続的成長にはNAV倍率1倍超えが不可欠であり、評価向上に向けた各社の取組みに期待したい。
 
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2024年05月07日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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