2024年12月04日

Jリートの不動産運用で問われる「インフレ対応力」

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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日本においても「インフレのある世界」が本格到来するなか、Jリート(不動産投資信託)市場では賃料の引き上げなどインフレに負けない内部成長の実現が期待されている。
 
2022年以降、原油高や円安を起点に始まったエネルギーや食料価格の上昇は、その後、日用品など幅広い品目に広がり、現在は賃金上昇に連動してサービス価格の上昇率も高まっている(図表1)。一方、東京のオフィス賃料は物価上昇とかい離した動きをみせている。三鬼商事のデータによると、東京都心5区のオフィス賃料はコロナ禍によるオフィス需要の減少を受けて2020年7月をピークに下落に転じた。物価上昇が顕在化した後も調整局面が継続し、2023年11月にはピーク対比▲14%の水準まで下落した。2024年に入り、ようやくトンネルを脱したものの、年率2%を超える物価上昇には追い付いていない状況にある。
 
ニッセイ基礎研究所の中期経済見通し(2024年10月公表)によると、「消費者物価上昇率は今後10年間の平均で1.7%を予想し、日銀が物価安定目標とする2%を下回るものの再びデフレに戻ることはない」としている。
 
それでは、今後の一定のインフレ定着(1.7%)を想定した場合、長期にわたって不動産価値を維持するには、賃料収入をどの程度伸ばせば良いか、確かめたい。
図表1:消費者物価と東京オフィス賃料(2021年12月末=100)

一般に、「不動産収益価格」は「純収益」÷「還元利回り」で計算され、不動産が稼ぐ「純収益」は賃料収入から総コスト(賃貸費用+資本的支出)を除いて、求めることになる。
図表2 非上場有価証券の流通活性化

Jリートの決算データ(2023年)によると、賃料収入に対する総コストの比率は全体で36%となる。図表2は、このコスト比率を前提とした、賃料収入と不動産価格の関係を表わしている。
 
これまでのように「インフレのない世界」では、賃料収入が横ばいでも不動産価値を維持し、賃料収入が増加すれば「純収益」がそれ以上に伸びるため価値を高めることができた。しかし、「インフレのある世界」では、賃料収入が横ばいならインフレに伴うコスト増加分をカバーできず「純収益」が減少するため、不動産価値を持続的に維持することが困難となる。図表2の通り、名目ベースで年間▲1.0%、インフレを考慮した実質ベースで年間▲2.7%下落する。そして、不動産価値を維持するには、賃料収入は名目ベースで+0.6%、実質ベースでは当然ながらインフレ相当の+1.7%の伸びが必要になる。
 
さらに、最近の建築コストや設備品の高騰、保有物件の競争力強化に向けた投資拡大などから資本的支出が増加傾向にある。賃料収入に対する資本的支出の割合は10年前の4.8%から8.0%へ上昇しており(図表3)、一段のコスト増加リスクにも備えなければならない。
 
もちろん、マーケット賃料の上昇なくして入居テナントに賃上げをお願いすることは難しい。しかし「インフレのある世界」における不動産運用では、「賃料は現状維持で十分(長期固定賃料の方が安心)」といった考えを捨て去る、意識改革が求められることになりそうだ。
図表2:賃料収入と不動産価格、図表3:資本的支出・賃貸費用・純収益

(2024年12月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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