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- 今年上期のJリート市場は▲4.6%下落。金利動向を睨んで投資家は様子見姿勢を継続~金融政策正常化に伴う金利上昇の影響は第2幕へ
コラム
2024年07月04日
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次に、市場規模を確認すると、上場銘柄数は58社で昨年末から変わらず、市場時価総額は14.8兆円(昨年末比▲4%)、運用資産額(取得額ベース)は23.1兆円(同+1%)となった(図表2)。また、Jリートによる物件取得額は7,424億円と前年同期比+22%増加し2、アセットタイプ別の取得割合は、オフィスビル(30%)、住宅(28%)、物流施設(21%)、ホテル(10%)、商業施設(6%)、底地ほか(5%)となった。なかでも、住宅は都心部への人口流入などを背景に賃料上昇の期待できるアセットとして取得意欲が旺盛で、昨年1年間の取得実績を既に上回っている(23年1,821億円→24年上期2,042億円)。
続いて、業績面では、ホテル収益の拡大や不動産売却益の計上などが牽引して、市場全体の1口当たり予想分配金水準は昨年末比+4%増加、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も保有不動産の価格上昇を反映して+1%増加し、いずれも過去最高を更新した。この結果、6月末時点のバリュエーションは、分配金利回りが4.7%(昨年末比+0.4%)、10年国債利回りに対するイールドスプレッドが3.6%(同▲0.1%)、NAV倍率が0.84倍(同▲0.05倍)となり、利回り指標やNAV指標でみて割安な状況が続いている。
続いて、業績面では、ホテル収益の拡大や不動産売却益の計上などが牽引して、市場全体の1口当たり予想分配金水準は昨年末比+4%増加、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も保有不動産の価格上昇を反映して+1%増加し、いずれも過去最高を更新した。この結果、6月末時点のバリュエーションは、分配金利回りが4.7%(昨年末比+0.4%)、10年国債利回りに対するイールドスプレッドが3.6%(同▲0.1%)、NAV倍率が0.84倍(同▲0.05倍)となり、利回り指標やNAV指標でみて割安な状況が続いている。
このように、Jリート市場では日銀の金融政策正常化に伴う金利上昇の影響を見極めるべく、投資家は様子見の姿勢を強めている。一般に、金利上昇によるJリート市場への影響は、次の3段階、(1)分配金利回り上昇(投資家の要求利回り上昇)による投資口価格下落、(2)借入金利上昇(支払利息増加)による分配金減少、(3)不動産利回り上昇(不動産価格下落)によるNAV下落、の順に顕在化する。
このうち、第1段階の(1)分配金利回り上昇については、さらなる金利上昇リスクを含めて既に織り込まれた水準にあり、現在は、第2段階の(2)借入金利上昇の影響に焦点が移りつつある。Jリートによる投資法人債の発行利率の推移をみると、これまで良好な金融環境のもと、既存の負債利子率を下回る水準で資金調達ができていたが、昨年から上昇に転じ、今年上期は平均1.3%と異次元緩和スタート前の水準に達している(図表3)。これに対して、Jリート市場全体の負債利子率は0.7%と依然低い水準にあり、両者のスプレッドは0.6%に拡大した。今後は調達金利の上昇を反映し負債利子率の上昇が予想されるが3、仮に負債利子率が0.1%上昇した場合、経常利益は▲1.6%減少することになる。
実際には、借入期間の年限短縮や変動金利での調達比率を高めるなどして、借入コストの増加を一定程度軽減することは可能だが、一方で財務基盤の安定性を損なうリスクも高まる。金利上昇の影響が第2幕を迎えるなか、Jリート各社は長期的視野に立った財務マネジメント力の発揮が一層求められることになりそうだ。
このうち、第1段階の(1)分配金利回り上昇については、さらなる金利上昇リスクを含めて既に織り込まれた水準にあり、現在は、第2段階の(2)借入金利上昇の影響に焦点が移りつつある。Jリートによる投資法人債の発行利率の推移をみると、これまで良好な金融環境のもと、既存の負債利子率を下回る水準で資金調達ができていたが、昨年から上昇に転じ、今年上期は平均1.3%と異次元緩和スタート前の水準に達している(図表3)。これに対して、Jリート市場全体の負債利子率は0.7%と依然低い水準にあり、両者のスプレッドは0.6%に拡大した。今後は調達金利の上昇を反映し負債利子率の上昇が予想されるが3、仮に負債利子率が0.1%上昇した場合、経常利益は▲1.6%減少することになる。
実際には、借入期間の年限短縮や変動金利での調達比率を高めるなどして、借入コストの増加を一定程度軽減することは可能だが、一方で財務基盤の安定性を損なうリスクも高まる。金利上昇の影響が第2幕を迎えるなか、Jリート各社は長期的視野に立った財務マネジメント力の発揮が一層求められることになりそうだ。
1 J-REITでは日本都市ファンド投資法人、KDX不動産投資法人、GLP投資法人の3社がMSCIジャパン・スタンダード指数から除外となった。この結果、海外投資家の売買動向(5月)は▲642億円と過去3番目に大きい売り越し額となった。
2 一方、Jリートによる物件売却も活発で、2024年上期(公表日ベース)の不動産売却額は4,231億円(売却損益578億円)であった。
3 岩佐浩人「J-REIT市場の動向と収益見通し。借入金利上昇を背景に今後5年間で▲5%減益を見込む」(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2024年3月15日)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年07月04日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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