2023年05月08日

緩和政策修正を睨み、適正水準を模索するJリート市場

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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2023年に入り、Jリート(不動産投資信託)市場は日銀の政策修正に伴う金利先高観を背景に、株式市場とのパフォーマンス格差が広がっている。東証REIT指数とTOPIXの値動きを比較すると、昨年までは概ね連動して推移していたが、TOPIXが年初より+6%上昇したのに対して、東証REIT指数は▲6%下落し、株式市場を約12%アンダーパフォームしている(2023年3月末時点、図表1)。
図表1:東証REIT指数とTOPIXの推移(2022年12末=100、月次)
日銀は2022年12月20日の金融政策決定会合において、「長短金利操作(YCC、イールドカーブ・コントロール)」の許容変動幅を±0.50%へ拡大し、10年金利の上昇を容認した。そして、4月からは植田新総裁の下で現在の大規模緩和政策の修正が想定される。
 
それでは、Jリート市場は今後の金利上昇リスクをどの程度織り込んでいるのか。一定の前提条件のもと、東証REIT指数の適正水準を確認したい(図表2)。
 
ニッセイ基礎研究所の推計によると、日銀が市場機能の回復に向けて現在のYCCを撤廃した場合、10年金利の理論値は約1.0%となる1。これに、イールドスプレッドの過去平均値(3.5%)を加えた水準を適正利回りとした場合、分配金利回りは4.5%となり、東証REIT指数は1,680(3月末からの騰落率▲6%)がひとまずの下値目処となる。また、3月末時点の東証REIT指数(1,786)は、10年金利が今後0.7%~0.8%程度に上昇するリスクを既に織り込んでいると考えられる。
図表2:Jリート市場のバリュエーション表(10年金利別)
このように、将来の金利上昇を見込んで東証REIT指数が下値を切り下げるなか、Jリートが保有する不動産価値に基づいて算出されるNAV倍率(株式のPBRに相当)では割安感が強まっている。
 
実際、3月末時点のNAV倍率(0.90倍)は、Jリートの不動産評価額が今後▲6%~▲7%程度下落することを織り込む水準となっている。さらに、上述の通り、YCC撤廃を前提とした水準(東証REIT指数の水準:1,680)まで下落した場合、NAV倍率は0.85倍に低下し、これは不動産評価額が▲10%程度下落することを織り込む水準となる。
 
一方、Jリートの開示データをもとに不動産評価額の騰落率を確認すると、2022年下期(7月~12月期)は前期比年率+2.0%上昇しており、今のところ、不動産価格が下落する兆候は見られない。1口当たりNAVについても前年比+5%と上昇基調にあり、現在の1倍を下回るNAV倍率は不動産ファンダメンタルズからみて売られ過ぎの水準にあると言えよう。
 
現在、投資家の多くは日銀の次の一手を見極めるべく様子見姿勢を強めている。また、Jリートを金融商品として利回り指標を重視するのか、それとも、不動産投資としてNAV指標を重視するのか、適正な水準を巡って強弱感が対立している。
 
いずれにしろ、Jリート市場は日銀の緩和政策修正を睨んで落ち着きどころを探る過程にあり、当面はボラティリティの高い展開を覚悟する必要がありそうだ。
 
1 福本勇樹「YCCを撤廃した際の長期金利水準を推定する~日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74148?site=nli)」(ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、2023年3月13日)

(2023年05月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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