2023年05月08日

日本株市場を活性化する、東証の“二正面作戦”

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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東京証券取引所は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場を対象に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている企業などに、株価水準を引き上げるための具体策を開示・実行するよう要請した。PBR は株主資本に対する株式時価総額の割合だ。これが1倍を下回る企業は株式市場の評価が簿価よりも低いため、理論的には“経営として失格”とされる。
 
東証が要請したのは「資本コストや資本収益性を意識した経営の実践」で、要は「投資家の要求水準よりも高い事業収益を達成して、株価やPBRなど市場の評価を高めてください」ということだ。具体的な指標として、(1)資本コスト:株主資本コスト、WACC(負債・株式の加重平均コスト)など、(2)資本収益性:ROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)など、そして(3)市場の評価:株価や時価総額、PBRなどを挙げ、PBRは1倍を超えることを目指すよう要請している。
 
これとは別に3月30日、東証は新しい株価指数「JPXプライム150指数」の骨子を公表した(23年7月に算出開始予定)。プライム市場の時価総額上位500社を母集団として150社を指数構成銘柄に選定する内容で、まず、エクイティ・スプレッド(上記(2)資本収益性-(1)資本コスト)、つまり投資家の要求水準よりも利益率が高い上位75社を選ぶ。残り75社はPBRが1倍を超えている企業のうち、時価総額上位75社を選ぶとしている。
図表1:東証の「要請」と「新指数」
東証の「要請」と「新指数」はともに「エクイティ・スプレッド」(=資本収益性-資本コスト)と「市場の評価」(PBR1倍超、時価総額)を軸に据えている。一見、両者の狙いは同じように思えるが、ターゲット企業群が異なる。

両者の関係は図表2のようになる。横軸はエクイティ・スプレッド(ここではROE-株主資本コスト)で、右に行くほど投資家の要求水準よりもROEが高い。縦軸はPBRだ。実際に個別企業をプロットすると、エクイティ・スプレッドが高いほどPBRも高い傾向がある。
図表2:市場全体を活性化する“二正面作戦”
ここで、「要請」はPBR1倍割れ企業(黄色のゾーン)を1倍超に引き上げることが狙いなので、「底上げ」を目指すものと位置づけられる。
 
一方、「新指数」はエクイティ・スプレッド上位75社(赤いゾーン)を採用するので、新指数に採用されたいと思う企業がROE改善や資本コスト低減を実現すると図の右上にシフトする。同時に、新指数に採用された75社に対しては、指数から除外されない(他社に追い越されない)ように一層の改善を促すので、「上位~中位の企業群の発展」に繋がることが期待される。
 
つまり、東証の「要請」と「新指数」は、市場の評価が低い企業から高い企業まで幅広く改善を促す“二正面作戦”であり、これが機能すると日本株市場全体が活性化するはずだ。
 
大事なことは、上場企業の経営改善を待つばかりでなく、投資家側も積極的に株主総会に参加したり企業との建設的な対話を進めたりすることだ。また、新指数が有効に機能するには、派生商品も含めて投資家が積極的に利用することも欠かせない。
 
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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済

(2023年05月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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